クモといえば網状の巣を張り、その場にじっとして獲物を待ち構えている印象が強いかもしれませんが、意外にも俊敏に動くこともできます。新たに、世界各地に生息する258種に及ぶクモの移動速度を調べた未査読論文が、プレプリントサーバーのbioRxivに掲載されました。

Evolutionary biomechanics of maximum running speed in spiders (Araneae) | bioRxiv

https://www.biorxiv.org/content/10.64898/2026.06.11.731532v1

The world's fastest spider tops 3.5 metres per second | New Scientist

https://www.newscientist.com/article/2532086-the-worlds-fastest-spider-tops-3-5-metres-per-second/

Scientists Ranked 258 Spider Species by Speed. The Fastest Can Outrun You : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/the-worlds-fastest-spider-has-been-identified-and-it-can-can-outrun-a-human

ドイツのグライフスヴァルト大学やイギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームは、クモの最大走行速度に体の形状や生態が及ぼす影響を調べるため、64の科にまたがる258種のクモに関する走行能力データを収集しました。

まず研究チームはイギリス・北米・南ヨーロッパ・オーストラリアなどでフィールドワークを行ったり、ペットショップから個体を入手したりして、162種の生きたクモを集めました。これらのクモの重量を測定した後、A4またはA3の方眼紙の上で走らせて2点間を移動する速度を測定しました。

実験装置の様子はこんな感じ。ほとんどのクモは絵筆で優しく触れることで走らせましたが、中にはそこまで協力的でないクモもいたとのこと。場合によっては圧縮空気を吹きかけることでクモを走らせたそうです。



研究チームは実験で得たデータに加え、他の研究者が報告した96種のクモの走行データも収集しました。データを分析したところ、オーストラリアのクイーンズランド州原産のアシダカグモの一種Heteropoda jugulans(ブラウンハンツマンスパイダー)が秒速3.59m(時速12.9km)の走行速度を記録し、世界最速のクモだという結果になりました。

時速12.9kmという走行速度は、人間の平均的なジョギング速度である時速7〜10kmを上回っており、ブラウンハンツマンスパイダーは普通に走る人間よりも速く移動するということになります。ブラウンハンツマンスパイダーの重量は約3gであり、クモとしては比較的大きいものの、腹部が重すぎるということもないバランスだとのこと。

一般に、クモは大きいほど速く走る傾向がありましたが、中には体の大きさに比べてはるかに速いクモもいました。中でも体長約1.5mm、体重わずか0.1mgのOonops pulcher(オレンジゴブリンスパイダー)は秒速20cm(時速0.72km)を超える速度で移動し、研究チームを驚かせたと報告されています。

以下のグラフは縦軸がクモの最高走行速度、横軸がクモの重量を表したグラフで、速度と重量のいずれも対数表記です。全体的に重量が増えるほど走行速度が速くなっていますが、ちらほら例外もあることがわかります。



今回の研究結果は、最も速い動物は必ずしも最も大きい動物ではなく、体の大きさや解剖学的構造が筋肉のエネルギーに及ぼす制約が、速度に影響していることを裏付けるものです。クモにおいては体の大きさに加え、「脚が長いかどうか」も重要であることが示されています。

また、体の大きさに比べて最も速く走れたのは、地上で獲物を狩る性質を持つクモでした。これらのクモは獲物を追いかけるのに長い時間を費やしているため、より速く走れるようになったのだと考えられています。さらに、進化的に見て比較的新しい種ほど、走行速度のばらつきが大きかったそうです。

研究チームは論文で、「走力におけるマクロ的進化のパターンは、体のサイズの変動だけでなく、サイズに応じた脚の形態や生態学的分化、および系統発生の歴史も反映しています」と述べました。