Visa 、新たなブランド戦略として「推し活」領域に注力。決済ブランドが見いだす「参加するファン」の価値

記事のポイント
Visaが、ファンカルチャーを新たなブランド接点と位置付けている。
背景には、購買や発信を伴う「参加するファン」の広がりがある。
同社は決済接点を通じて、ファン体験と顧客エンゲージメントの強化を狙う。
Visaが、ファンカルチャーを新たなブランド接点と位置付けている。
背景には、購買や発信を伴う「参加するファン」の広がりがある。
同社は決済接点を通じて、ファン体験と顧客エンゲージメントの強化を狙う。
ビザ・ワールドワイド・ジャパン(以下、Visa)が、日本市場におけるブランド戦略を進化させている。
同社は、その戦略の第一弾として、7月4日、5日に日産スタジアムで開催された「Ado STADIUM LIVE 2026『Ao』」へ協賛。セゾンカードVisa会員限定で、先行チケット抽選販売を実施したほか、オリジナルグッズの販売を行った。
次世代を「体験・共感・参加を重視する世代」と捉える
背景にあるのは、生活者のファン行動そのものが変化しているという認識だ。
かつてファンは、テレビで視聴し、スポーツを観戦し、舞台や映画を鑑賞する「観客」として捉えられてきた。だが現在は、推し活、SNS発信、ライブ参加、コミュニティ参加を通じて、自らコンテンツやブランドとの関係をつくる「参加者」へと変化している。
ビザ・ワールドワイド・ジャパンでマーケティング本部長を務める里村明洋氏は、7月3日に東京・丸の内で行われたブランド戦略説明会でこう語った。「ファンカルチャーは、ただ見るだけだった応援から参加する応援が主流になり、推し活という行動となって購買を動かす。そんな時代に変わってきた」。
Visaは、次世代層を「体験・共感・参加を重視する世代」と捉えている。そうした価値観の変化は、すでに大きな消費行動として表れている。推し活総研の「推し活実態アンケート調査 2025」によると、推し活人口は約1950万人に達し、音楽・アニメ・スポーツ・アイドルなどを含む年間支出規模は約4.1兆円にのぼる。また、博報堂 HUMANOMICS STUDIOの「オシノミクス」レポートでは、推し活支出層が可処分時間の38.8%、可処分所得の37.4%を推し活に費やしているとされる。
コンテンツを一方的に受け取るのではなく、ライブに足を運び、グッズを購入し、SNSで発信してコミュニティに加わり、自分なりのかたちで「好き」を表明する。こうした行動が日常化したことで、応援は単なる感情ではなく、購買や参加を伴う消費行動へと広がっている。
この変化は、マーケティングリーダーにとって重要な示唆を持つ。ファンは、もはや広告を受け取るだけの対象ではない。自分の好きなものに時間を使い、言葉を与え、体験に参加し、消費を通じて関係性を深める存在である。つまり、ファンダムはブランドにとって広告を届けるための接点ではなく、生活者の時間、移動、購買、発信が連動する行動圏になりつつある。
推し活の中で生まれる決済接点を確実につかむ
Visaが注目するのも、まさにこの点だ。そうしたファンカルチャーは、チケットやグッズ購入だけで完結しない。サブスクリプション、ライブやフェスへの遠征、宿泊、会場周辺の飲食、カフェ利用、ECでの購入など、複数の消費接点を伴う。
ここに、Visaがファンカルチャー領域へ向かう理由がある。Visaはコンテンツホルダーではない。アーティストやIPを所有するわけでも、ファンコミュニティを直接運営するわけでもない。
だが、ファンが「好き」に近づこうとするあらゆる瞬間に、決済は発生する。Visaが狙うのは、単にアーティストやコンテンツとのコラボレーションそのものではなく、推しに向かう行動のなかに生まれる決済接点だ。
ただし、Visaがめざすのは、単に支払いの場面に入り込むことではない。里村氏は「安全な決済体験があることが大前提。そのうえでVisaでしかできない特別な体験、もしくは特典やオファー、継続的な顧客との接点を持っていくツールとして、そうしたコンテンツを活用していきたい」と語る。
「支払い手段」から「体験への入口」へと再定義する
Visaはこれまで、オリンピックのワールドワイドパートナー、FIFAのオフィシャルパートナーなど、スポーツの大舞台を通じてブランドの信頼性や存在感を高めてきた。その一方で、これからは生活者一人ひとりの「好き」に近い場所で、ブランド接点をつくることも重視する予定だ。
里村氏は、「どこでも使える、安全・安心といった従来のVisaの価値に加えて、今後は人々が行きたい場所や体験したい瞬間に寄り添うブランドとして認識されるかを見ていきたい」と説明した。
安全性や利便性は、決済ブランドにとって当然の価値になりつつある。差別化の焦点は、決済そのものから、その決済によってどのような体験にアクセスできるのかへ移っている。Visaは、カードを「支払い手段」から「体験への入口」へと再定義しようとしている。
今回のAdo協賛でも、単にVisaで支払える、あるいはPRではなく、セゾンカードVisa会員限定の先行チケット抽選販売やオリジナルグッズ販売という形で、「Visaを持っているから得られる体験」を設計した。里村氏は、「Visaでしかできない価値提供を心がけ、今後の体験を設計していく」と語った。
守るべきは「ファンの文脈」を理解しながら進めること
一方、こうしたファンカルチャー領域への接近には慎重さも必要だ。推し活は熱量が高いぶん、企業が一方的に利用しようとすれば、反発を招きかねない。限定性や独占性はファンにとって魅力になる一方で、参加できないファンの不満や、過度な消費喚起への批判にもつながる。
この点について里村氏は、音楽、アニメ、ゲームなどそれぞれの領域でファンの文脈が異なるとしたうえで、「ファンの方々が日常で接している文脈を理解しながら、施策を進めていく必要がある」と話した。
Visaのファンカルチャー戦略は、一過性の若者トレンドとして、アーティスト、コンテンツのファンを広告ターゲットとして使う話ではない。ファンが好きなものに近づく瞬間、応援する瞬間、コミュニティに参加する瞬間に、決済ブランドとしてどう価値を提供できるかという試みだ。
ファンによる「好き」は、購買、参加、発信、コミュニティ形成を横断する強い行動原理になっている。Visaの戦略は、その変化に対して、ブランドがどの位置に立つべきかを問いかけている。これからのブランドに必要なのは、生活者の熱量を刈り取ることではなく、その熱量が向かう先に、自然な接点と体験価値を設計することかもしれない。
文/島田涼平
