脳が疲れて「ゴミ屋敷化」する…10万人の脳を見た脳神経外科医が「スマホをベッドに持ち込まないで」という理由
※本稿は、奥村歩『10万人の脳を診てきた脳神経外科医が教える 脳を休めて整える習慣』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

■脳を疲れさせる三つの「現代病」
現代の30~50代といった働き盛りの世代は、「脳疲労」に陥っています。本稿では、なぜそうした状態になっているかを考えてみましょう。
そこには、現代ならではの複数の要因が関係しています。
現代人を脳疲労に陥(おとしい)れる、主要な3つの要因は次の通りです。
疲れている理由① 深刻な「睡眠負債」
脳の疲れを取るための最大の武器は、なんと言っても「質のいい睡眠」です。
睡眠の目的は、日中の活動で疲弊した脳を休ませるための「脳のメンテナンス」にあります。にもかかわらず、私たち日本人の睡眠時間は、残念ながら世界的に見ても十分とは言えないのです。
かつて「勤勉」と評された国民性が影響しているのでしょうか。2021年のOECD(経済協力開発機構)の統計では、日本人の平均睡眠時間は7時間22分と、世界平均よりも1時間以上短くなっています。
さらに、厚生労働省が2023年に実施した「国民健康・栄養調査」でも、睡眠時間が6時間未満の人の割合は、男性の38.4%、女性の43.6%にも上り、特に40~50代の働き盛りの世代では、男女ともに4割を超えています。
まさに、多くのビジネスパーソンが「睡眠負債」を抱えている状態なのです。

■睡眠負債は「自覚なき巨額な借金」
ちなみに、この睡眠負債とは、いわば「睡眠の巨額な借金」のこと。
「昨日は徹夜した」「昨晩は全然眠れなかった」といった“自覚のある睡眠不足”とは異なります。
睡眠不足であれば、翌日にしっかり寝れば回復できることが多いでしょう。
それに対して睡眠負債は、自覚のないまま毎日1~2時間程度の睡眠不足がジワジワと積み重なり、心身の健康を蝕んでいくものです。単なる睡眠不足より、恐ろしいものなのです。
メジャーリーガーの大谷翔平選手は「過酷なトレーニングを日々こなす中でも、いいパフォーマンスをするために最も大切な生活習慣は?」という問いに、常に「熟睡習慣」と答えています。
人一倍肉体を酷使していても、十分な睡眠によって心身の疲労をリセットしているのです。
しかし、そんな彼でさえ、担当通訳の不祥事で強いストレスにさらされた際は、ごく短期間ながらもスランプに陥ったことがありました。
後に本人が「あのときは眠れなかった」と告白していることからも、超一流アスリートのパフォーマンスでさえ、睡眠不足とそれに伴う脳疲労には抗えないことがわかります。
今日のビジネスパーソンも、脳疲労を防いで仕事の質を維持するために、睡眠の重要性を改めて認識する必要があるのです。
■脳を「ゴミ屋敷」化するスマホの使い方
疲れている理由② やめられない「スマホ依存症」
スマホに代表されるデジタルデバイスは、今や私たちの生活に欠かせません。手軽に情報を得たり、目の前の仕事を効率よくこなしたりするには、デジタルデバイスは必要不可欠でしょう。日常のちょっとした悩み事を解消するためにも便利です。
しかし、そのスマホこそが、脳疲労を増悪(ぞうあく)させる真犯人となっていることを再認識していただきたいと思います。
スマホが脳疲労の原因となる第一の理由は、その圧倒的な情報量にあります。
色鮮やかな画面、次々と流れてくる動画、耳に飛び込んでくる音……。これらすべてが、あなたの脳へ膨大な情報を休むことなく送り続け、知らず知らずのうちに大きな負担をかけてしまっているのです。
さらにスマホは、いつでもどこでも手軽に使えてしまいます。会社の机や仕事の合間の休憩室はもちろん、トイレや風呂、そして寝室にまでスマホを持ち込む方も少なくないでしょう。

明確な目的を持ってスマホを利用する分には、それほど脳は疲れません。しかし、「ながらスマホ」や「だらだらスマホ」が習慣になってしまうと、いつの間にか脳は疲弊し、ゴミ屋敷状態になってしまうのです。
■ベッドにスマホが悪循環の元
また、スマホへの依存が脳疲労の原因となる第二の理由は、「睡眠負債」を招きやすいことです。
ベッドにスマホを持ち込むと、その明るい画面や刺激的な動画が、脳を覚醒させるオレキシンの分泌を促します。
その一方で、眠りを誘うメラトニンは、逆に抑制されてしまうのです。
これにより、なかなか寝つけない入眠障害が引き起こされます。もし無理に寝つけたとしても、睡眠が浅くなるため、夜中に何度も目が覚めたり(中途覚醒)、朝早くに目覚めたり(早朝覚醒)しやすくなります。
そして、睡眠負債が積み重なり、それがさらに脳疲労を加速させるという悪循環に陥ってしまうのです。
さらに、第3の理由として、スマホによってあなたの貴重な時間が奪われてしまうことも挙げられます。
もし「だらだらスマホ」している時間を、散歩に出かけたり、サウナでリラックスしたり、自然に触れたりすることに使っていたらどうでしょう。きっと、脳疲労の回復につながる機会を得られたはずです。
息抜きのつもりの「だらだらスマホ」が、じつはあなたの脳疲労をさらに悪化させている現実を、ぜひ理解してください。
■がんばり屋さんほど脳が壊れていく
疲れている理由③ 常態化する「マルチタスク」
ビジネスパーソンが脳疲労に陥る三つ目の要因は「マルチタスク」です。

私たちの脳は、いくつもの仕事を同時並行でこなすことが苦手です。原則として、脳は目の前の1つの物事にしか集中できないように設計されています。
2つ以上の案件を同時並行でこなそうとすると、脳疲労を起こしてしまい、仕事の能率が悪くなるだけでなく、「うっかりミス」を起こしやすくなるのです。
例えば、プレゼン資料の作成に追われて焦っているときに、同僚から突然大事な話を持ちかけられても、同僚の話の内容は頭に入ってきませんよね。
また、仕事でトラブルが発生している最中に、別の仕事の資料を作成していても、トラブルの状況に気を取られて資料作成が疎(おろそ)かになってしまうことは、想像に難くありません。
実際、私の「もの忘れ外来」を受診されるビジネスパーソンの多くは、日々マルチタスクに振り回されている方ばかりです。
朝から晩まであっちの問題、こっちの問題に駆けずり回り、スケジュールは連日パンパン。常に5つも6つもの仕事に頭を悩ませているようです。
しかも、そういう「がんばり屋さん」に限って、仕事の合間の息抜きにまでスマホを触ってしまう傾向が見られます。その結果、運動不足や睡眠不足も重なり、脳疲労はさらに加速してしまいます。
このように、現代の働き盛りの世代が抱える脳疲労の背景には、「睡眠負債」や「スマホによる情報過多と時間の浪費」、そして「マルチタスクによる脳への過度な負荷」という、現代の日常に深く根ざした要因が複雑に絡み合っているのです。
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奥村 歩(おくむら・あゆみ)
医学博士
1961年生まれ。おくむらメモリークリニック院長。岐阜大学医学部卒業、同大学大学院博士課程修了。2008年に「おくむらクリニック」を開院し、設置した「もの忘れ外来」ではこれまでに10万人以上の脳を診断した。著書に『スマホ脳・脳過労からあなたを救う 脳のゴミを洗い流す「熟睡習慣」』(すばる舎)、『ボケない技術』(世界文化社)、『スマホ脳の処方箋』(あさ出版)、『脳の老化を99%遅らせる方法』(幻冬舎)、『あなたの脳は一生あきらめない!』(永岡書店)など。
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(医学博士 奥村 歩)
