60代、ネガティブな感情との向き合い方。「言いたいことはがまんせず」夫婦仲も良好に
夫の引田ターセン氏とともに、2003年より東京・吉祥寺でギャラリー「フェブ」とパン屋「ダンディゾン」を営む、引田かおりさん。引田さんの呪文は「Love myself」、どんな自分も愛していこうと決めたそう。今回は、そんな引田さん夫婦の関係と、快適に過ごすための考え方をご紹介します。
※ 記事は『LOVE MYSELF』(大和書房刊)より一部抜粋、再構成の上作成しております。

今年はLove myself。リズムの合わない夫との落としどころ探し
打たれ弱くて、落ち込みやすく、凹んだところがなかなか元に戻らない、どうやら自分は楽天家でも根明(ネアカ)でもないと気づいたのは40代を過ぎた頃でしょうか。なにも怖いものがなかった20代、あの時にポジティブ菌を使い果たしてしまったのかも。
クサクサくさるこの気持ち、みんながサクサク乗り越える障害に何度立ちすくんだことでしょう。人は人、私は私と頭でわかっていても、うらやましさは膨(ふく)らむばかりでした。
面倒くさいという思考回路をもたない夫は、前進あるのみ。転んでつまずいてもムクッと起き上がって前に進みます。ときどきは振り返ったり、立ち止まったりしてほしいなと思う願いも虚しく、劣等感は膨らむばかりでした。
ところがそんな夫も70を過ぎたあたりから、「行けば楽しいんだけど、行くまでが面倒くさくてさ」なんて言い出すではありませんか。おおおお、やっときました、共感タイム。だよねだよね、起動する力って勢いと馬力が必要だよね。お風呂入るの面倒くさいとか、掃除するの面倒だなって思っても、やればさっぱりいい気持ちになることがわかっているから、ヨイショって重い腰を上げるんだよね。よかったぁ、わかってもらえるときが来て。

そうはいっても、夫のリズムはハイテンポ。ギリギリパツパツが大好きな人だから、私のゆっくりあわてない、とは足並みがそろいません。なんでも一緒がいいときは遥か向こうの山波の彼方、あなたさえそばにいてくれたら、クルマも家もなににもなくていい、なんてドラマのセリフに苦笑いです。
60代と70代の夫婦が編み出した、快適に暮らす方法は、三度のごはんだけ一緒ならあとはお互い干渉せずに好きなことをやりましょうというスタイル。
多分標準よりも家事をやってくれる夫ですが、自分のやり方やリズムがとても大事。もうちょっとピンと両端を張って干してほしくても、グッとがまん。今日はなんだか上機嫌そうだなぁ、というタイミングを待ってきり出します。
食器の洗い方も私のやり方がお気に召さないらしく、「僕の方がキレイに洗うから僕がやります」と思いがけず作戦成功。いろんなことを押したり引いたり、落とし所を見つけながら暮らしています。
毎日のルーティンをきっちりこなす夫を横目に、全然続かないムラムラの自分にダメ出ししないようにもなりました。私の今年のスローガンはLove myself。桃色オーラに包まれてるイメージです。いろんなところで言葉に出しているとみんなが唱えてくれてうれしいです。よしよし私、なかなかいいぞってね。
言いたいことはがまんせず

結婚して長い時間一緒にいると、お互いに「あれ? こんなはずでは」という思いがときどきムクッと顔を出します。
そして、あんなにいいと思った長所がオセロのように反転してしまうからおもしろいですね。つき合っていた頃は、なんてこだわりがあってセンスがいい人なんだろうと思っていたのに、もうほんと細かい、細かすぎる、こだわりすぎなんだよ、とか。
また、なんて自由な発想ができる、なににも縛られないすてきな人なんだと思っていたのに、いやいや自分勝手すぎるでしょ、もっとしっかり現実を見てよ、となってしまうのです。
私自身のことで言えば、結婚して45年の長い年月の間に、なにもかも同じじゃないし、もし同じだったらつまらなかったよな、とそこの部分は達観し、簡単に長所は短所の、短所は長所の裏返しだと学ぶことができました。
大事なことが食い違うのは問題ですが、すごく気になることの傾向はお互いに尊重して歩み寄ってきたという感じでしょうか。
一緒に暮らしてみなければわからないことがたくさんあります。小さなことは譲ったり譲られたりしながら、その塩梅を確認し合えばいいと思います。洗面所の使い方、洗濯物の干し方、友人や親戚たちとの関わり方、なにも嫌いなおかずを毎日食卓に並べなくてもいいように。
でもね、大事なことの食い違いはとことん話し合ったほうがいいと思います。最後は言いくるめられるからとか、けんかになっていやな気分になるからと諦めてはいけません。越えなければならない山をいつもいつも避けていたら、いい景色は絶対に見ることができないのです。

夫は11歳も年上でしたから、尊敬や憧れの対象で、随分頼もしく感じましたが、これが日常となると、いつも上から目線なのが気に障ってくるものです。どうあがいても追いつけない、追い越せない年齢差を盾にとって、お前はなにもわかってない、世間知らずだと言われたら、そうかもしれないと頭(こうべ)を垂れるしか術(すべ)がありませんでした。でも言いたいことはがまんせずに言ってきたと思います。何度も何度も衝突して今があるのです。
共働きのご夫婦が増えました。とにかく忙しい毎日です。今日一日なんとか乗りきったという毎日だというのが、娘のことを見ていてもわかります。好きな仕事に邁進するのもいいけれど、子どもたちにしわ寄せがいっていることも自覚してほしいところです。
ときどき、なんだか暇そうな大人が家にいることが潤滑油になるのです。休みは休んでくださいね。ときにはムダな時間を過ごしてくださいね。体も心もしっかり休養して、お互いのことを気づかってください。子どもたちの心の変化やサインを見逃さないでください。
世界平和の実現は困難でも、自分の心の平穏、愛する人たちとの調和を実現するのは不可能なことではありません。早く帰って、今日のことを家族に話したい、おもしろかったことを共有したい。探し回っても見つからなかった青い鳥は、やっぱりわが家にいたんです。
