「日経平均6万円説」を信じる人ほど危ない…孫正義の「エヌビディア全売却」が予言する"AIバブルの結末"
■割高になってしまった米国株7銘柄
11月11日、ソフトバンクグループ(SBG)は、2025年度上期の決算を発表した。それによると、同社の純利益は2.9兆円と過去最高益を更新した。その背景には、米OpenAIなど未公開株の評価益の増加の寄与があった。
一方、決算資料の中でSBGは、米エヌビディア株を全て売却したと明らかにした。ここ数年、米国の株式市場ではマグニフィセント・セブン(偉大な7社、アルファベット、アップル、メタ、アマゾン、マイクロソフトの「GAFAM」と、エヌビディアとテスラ)の株価は大きく上昇してきた。その結果、これらの株価は割高だと指摘する専門家が増えていた。
今回のSBGのエヌビディア売却は、そうした見方を加速する一つのきっかけになった。

■「いつ暴落が起きてもおかしくない」
足元で、米国経済にやや変調の兆しが見え始めている。サブプライム層と呼ばれる、信用力の低い家計の債務返済の遅延は増えた。それによって、自動車販売金融企業などの資金繰りが悪化し、10月半ばには一時、米国の地銀株が下落する場面もあった。
今後、株価が大きく調整されるようだと、利益確定の売りなどが出てくる可能性はあるだろう。多くの専門家は、「高値から10%程度の下落はいつ起きてもおかしくない」との見方は多い。
実際にどの程度の調整になるか予想は難しいが、最近のミーム株(SNS上で人気が高まった流行り株)の急騰の揺り戻しを考えると、直近の高値から10%から20%程度株価が下がるリスクはあるとみたほうがよいかもしれない。
■孫正義はエヌビディアを売り、何を買うのか
11月半ばまで、これまでの米国の株式市場ではあまり見られなかった変化が表れた。11月12日、ニューヨークダウ工業株30種平均株価は史上最高値を更新した。その一方で、同日、ナスダック総合指数は下落した。
一部の投資家は、株価上昇が鮮明なIT先端銘柄を売却し、生活必需品や公益事業(電気ガス)など業績安定性の高い、いわゆるディフェンシブ銘柄の株式に入れ替えた。
ナスダック総合指数が下落した一因は、SBGのエヌビディア株全売却だった。SBGがエヌビディア株を売却した背景には、相場の調整局面が近いという警戒感の高まりがあったとみられる。
SBGがエヌビディア株を全売却したことは、多くの投資家に相応の衝撃を与えた。というのも、SBGは、AIがわたしたち人間の知能を上回る世界の到来を見据え、AI関連企業に積極的に投資してきたからだ。SBGを率いる孫正義会長兼社長が、エヌビディア株を売却するということは、それ以外に期待成長率の高い銘柄が現れたということだろう。

■「2026年に日経平均6万円台」という楽観論
4月上旬から11月上旬まで、ナスダック総合指数などの主要な株式インデックスは大きな波乱なく上昇した。相場を牽引した一つの要因は、成長への楽観だった。米国や中国では、AI推論モデルの開発が加速した。新たな成長分野として、AI搭載ロボット関連分野の成長も高まった。
もう一つの相場支援材料は、米国の利下げ期待の高まりだ。特に、8月、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が利下げの必要性に言及した影響は大きかった。
夏場以降、米国の株式市場では、SNS上で人気が急騰した銘柄(ミーム株)を積極的に買い上げる個人投資家も増加した。量子コンピューティング、希土類(レアアース)、核融合発電など今後の成長期待の高い銘柄をこぞって買い上げた。
10月下旬まで、米国では「少しでも下げたら押し目買いで間違いなし」という強気心理は膨張した。わが国でも、「株価はまだまだ上がる。2026年に日経平均6万円台」との楽観論も浮上し、10月末、終値ベースで日経平均株価は5万2411円34銭の最高値を更新した。
■投資家は冷静さを取り戻すべき時期
そうした状況下、SBG以外にも株価の割高さや相場調整リスクに言及する米金融機関の経営者は多い。10月、米JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、地政学リスクの高まり、主要先進国などの財政支出の増加、世界的な再軍備などが不確実性につながると指摘した。ダイモン氏は、「半年から2年の間に、株価に大きな調整が入る可能性が高まっている」と警告した。

11月、米金融大手、モルガン・スタンレーのテッド・ピックCEOは、10〜15%の株価調整は“歓迎すべき”と述べた。現在の株価はあまりに高く、投資家は冷静さを取り戻すべきという趣旨だろう。
ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモンCEOは、株価下落リスクに加え米国の債務問題にも言及した。ソロモン氏は、トランプ政権での財政悪化に触れ、「経済成長率が高まらないといずれツケを払うことになる」と述べた。
しかも、ソロモン氏は、相場の調整や成長軌道の変化について、誰も事前に見通すことが難しいと指摘した。株価が高く、準備できるうちに株式の保有割合を減らすなどして備えたほうがよいというのが真意と解釈できる。
■「サブプライム・ローン問題」再来か?
また、近年、世界の大手投資家が積極的に資金を振り向けた分野でも、資金回収が困難になるケースが増えた。いわゆるプライベートクレジット(銀行を通さず、投資ファンドなど資金の貸し手が、お金を直接、資金不足主体に資金を貸し付けること)分野での焦げ付きだ。
10月、米国では信用力の低い世帯を顧客とした自動車ローン、部品販売業者が破綻した。債権は焦げ付き、一時米地方銀行株は下落した。わが国の一部金融機関でも関連債権の価値が棄損し、業績に負の影響が及んだ。
米ブラックロックは、住宅リフォーム企業、レノボ・ホーム・パートナーズへのプライベート債務の価値をゼロに引き下げたと報じられた。こうした経済・金融環境の変化は2007年春ごろの状況に似た部分がある。当時の米国では、サブプライムとよばれる信用力の低い家計向けのローン債権が焦げ付き、金融機関の収益が下振れ始めた。
■年収2000万円以上でもクレカ支払い滞納
現在の世界の実体経済と、米国のIT先端企業などの株価の水準はかなり乖離しているとの指摘もある。米国では、トランプ関税の影響から物価が高止まりする公算は大きい。FRB内部では、これまでの利下げ重視姿勢を修正し、金利を据え置くべきとの主張が増えている。仮に、FRBが利下げを止めるとの見方が増えると、米国の金利に上昇圧力がかかり株価は調整するだろう。
トランプ大統領の移民政策、政府機関一時閉鎖、さらにはAIによる一部業務の代替により米国の労働市場は減速しつつあるとみられる。低所得層に加え、年収15万ドル(約2200万円)以上の所得層でも、クレジットカードローンの債務延滞率は上昇傾向にある。すぐに金融システム不安に波及するとは考えづらいが、2023年春のように米国の地銀の経営不安が高まることも考えられる。
ここから先、米国、わが国など世界的に株価の下落リスクが上昇する可能性は高い。仮に相場が調整すれば、高値から10〜20%程度の株価調整は頭に入れておいたほうがよいだろう。
■投資のリスク管理を見直す時期に来ている
トランプの“相互関税”ショックで株が下落した2025年3月末から4月8日まで、日経平均株価は約10%下落した。2024年8月の流動性枯渇等による株価下落の時、7月末から8月5日の間に日経平均は20%程度下落した。
相場の下落に何割の投資家が備えているかを考えると、まだ少数意見である可能性は高い。依然として、先行きを楽観する人は多い。その裏返しに、多くの投資家はリスク管理が散漫になっている。再度、米中の対立が先鋭化する展開などへの警戒は少ない。
11月、AI関連の株価はあまりに割高と判断し空売りを仕掛けた、著名投資家マイケル・バーリー氏は、投資ファンド(サイオン・アセット・マネジメント)の閉鎖に追い込まれた。バーリー氏は、エヌビディアおよびパランティア・テクノロジーズの株価下落に賭けた取引を行ったが、想定と異なり株価が上昇したことで損失に直面した。
それは、2021年に起きた“アルケゴス・ショック”に通じる部分がある変化だ。当時、ミーム株の株価急騰によって、ビル・フアン氏が運用するファンドは2兆円を超える損失を出した。フアン氏と取引を行った、日欧の金融機関も巨額の損失に直面した。
SBGのエヌビディア株売却、米金融機関トップの警鐘、そして、運用に行き詰まる投資ファンドの出現は相場変調の前ぶれと解釈できる。個人も機関投資家も、自身のリスクテイクが過度になっていないか、冷静に見直すことは相応の意味があるはずだ。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
