モバイルブロードバンド天国へ!海外で進む高速サービスにみる日本との格差

写真拡大 (全4枚)

日本の携帯電話は世界でも最も進んだサービスを提供しているといわれている。ところが海外に目を向けてみれば、日本にはない便利なサービスが多く存在している。特に2006年から各国で開始されている「モバイルブロードバンド」は日本にはみられない強力なサービスだ。

■ノートPCで高速なネットアクセス
海外でも3G方式のサービスを提供する携帯電話会社が増えてきている。但し日本とは違い、携帯電話向けのコンテンツサービスはまだ発展中だ。2G時代からiモードに代表されるメールや情報配信サービスが発展していた日本と違い、海外では3Gの開始時からコンテンツサービスの普及が本格化しはじめているのが現状である。3Gならではの高速回線を生かしたサービスとしては、ビデオ配信や音楽ダウンロードなどが一つのトレンドになりつつあるようで、これからの成長が見込まれている。

一方、ノートPCやスマートフォン向けの「高速データ通信サービス」はビジネスユーザーを中心に利用が大きく進んでいる。ヨーロッパやアジアなどのGSM圏では、回線交換方式であれば9.6kbps、パケット通信(GPRS)でも56kbpsが最大速度だった。これがW-CDMA方式では最大384kbpsと大幅に速度が向上した。たとえば、ノートPCを使ってオフィス文書やPDFなどの添付ファイルつけたE-mailを高速にダウンロードすることが可能になってきている。特に3Gの普及当初は対応する携帯電話が少ないこともあって、PCカード型端末を用いたW-CDMA方式による高速データ通信サービスを先に開始する携帯電話会社も多かった。

データ通信用途であれば携帯電話会社にとっても既存の音声回線に追加の回線契約が取れる上、企業向けなどに大量導入も見込むことができる。このため携帯電話の普及率が比較的高く、2Gから3Gへユーザー移行が遅かったヨーロッパなどでは、3G開始当初からこの「高速データ通信サービス」が標準サービスの一つになっているのだ。もちろん普段使っている3G携帯電話をUSBケーブルやBluetoothを利用してノートPCと接続、携帯電話を高速3Gモデムとして使うことも可能である。しかしノートPCを常時持ち運びどこでもネットアクセスするようなユーザーは、PCカード型やUSBタイプなどの3Gモデムを「データ通信専用」として利用したほうが使い勝手がよいようだ。ノートPCでデータ通信をしながら音声通話端末で打ち合わせをする、といった使い方のように「携帯電話」「データ通信カード」を分離したほうがより利便性が高いわけだ。

MODEM手機=モデム携帯、の意味。3Gの高速通信はデータ通信用途にも使われるのが海外では一般的だ


■HSDPAがモバイルブロードバンドサービスの普及を加速する
2006年からは海外各国でHSDPA=High Speed Downlink Packet Access方式による、より高速なデータ通信サービスが開始されている。W-CDMAを高速化したHSDPAは下り最大3.6Mbps(2006年末現在)とW-CDMAの10倍近い速度であり、ADSLにも負けず劣らずの速度を実現しているが、これもまた音声通話端末は2006年後半まで待たねばならず、各国のサービスインはデータ通信用途からであった。また料金面ではW-CDMA方式でもパケット通信定額制を取り入れる携帯電話会社が増えていたが、HSDPAではそれがより顕著に進み、多くの会社が定額制の導入に動いている。ADSL並みの速さ、すなわちブロードバンド環境をモバイル条件下で実現し、課金も定額であることから最近では「高速データ通信」ではなく「モバイルブロードバンド」と呼ぶことも多いようだ。

日本でももちろん、HSDPA方式等の高速データ通信サービスは開始されている。しかしノートPC向けのPCカードモデムなどを利用した場合、パケット定額では利用できない。このため日本のHSDPAは速度では海外と同等ながら、海外でいうところの「モバイルブロードバンドサービス」のイメージとは大きく異なる。すなわちモバイルブロードバンドとは「自宅ではADSL、ホットスポットではWi-Fi、その他の場所ではHSDPA」と、ノートPCからいつでもどこでも時間やパケット量を気にせずシームレスにネットアクセスできるサービスというのが海外の概念だからだ。速度も重要だが料金が定額、あるいは安価に利用できてこそのモバイルブロードバンドサービス、というわけだ。

なお、海外の携帯電話会社の中には興味深い課金方式を取っているところもある。それは時間課金制だ。パケット通信を行いながらも、接続時間によって課金されるというもので、この課金方法ならばネットアクセス時にデータ量を気にする必要がない。写真や動画の多く埋め込まれたWEBサイトの閲覧や、大量の添付ファイルのついたEmail受信など、パケット定額がなくとも時間課金であれば気兼ねなく利用できるわけだ。

広告にあふれる香港の街中、2階建てバスの広告にもモバイルブロードバンドが登場している(Huawei製のUSB HSDPAモデムを使った広告)


■中国メーカーが躍進するHSDPAデータ端末
モバイルブロードバンドサービスに利用されるデータ通信端末は、PCカードタイプとUSB接続タイプの2種類が発売されている。Option、Novatel Wireless、Sierra Wirelessの大手3社が多数の製品をリリースしているほか、最近ではHuawei、ZTEといった中国メーカーの端末も登場している。ノートPCに常時接続して利用するモデムであり、ユーザーも携帯電話とは違って外観やブランドにはあまりこだわらないことから性能さえよければ中国メーカー製だからといって敬遠することはないようだ。実際に性能が劣っていることはなく、USB接続タイプではむしろ中国メーカー製のほうがサイズが小型で使いやすい製品が出ているくらいである。

これらモデムは、携帯電話会社向けにロゴやカラーリングを施した専用品としても納入されており、たとえば「Vodafone Connect Card」のように携帯電話会社ブランドで販売されていれば、ユーザーはそれがどこのメーカーの端末であるのかを気にすることすらないだろう。なお日本メーカー製の高速データ通信端末は海外では発売されていない。

中国HuaweiのUSB HSDPAモデムはVodafoneをはじめとして、世界各国の携帯電話会社に採用されている携帯電話会社によっては複数メーカーの端末を取り扱うことも一般的。左はOption、右はNovatel Wirelessのもの


次のページでは、更に海外のモバイルブロードバンド事情をみてみよう。