4月に入社する新人の給与は大手企業を中心にアップする一方、さほど上がらない中堅世代には不満が充満している。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「企業は人件費を抑制するため、ジョブ型賃金(職務給)の導入を一気に進めて、世代を超えた管理職入れ替え戦が日常化している」という――。
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■「正直頭にきています。ビシバシ鍛えてやりますよ」

大手企業を中心に初任給が大幅に引き上げられる一方で、それほど上がらない中堅・ミドル層の反発や不満も発生している。

自社の社宅などの工事を発注している担当者は、初任給を大幅に引き上げた発注先の建設会社の担当者に「お宅の会社、相当儲かっているんですね」と皮肉っぽく言った。建設会社の30代の担当者はこう返したという。

「初任給引き上げの恩恵を受けているのは新卒と20代だけですよ。僕らはわずかしか上がっていませんし、こんなに新人を優遇するなんて正直頭にきています。入社したら給料分働いてもらうために、ビシバシ鍛えてやりますよ」

こうした反発はどこの企業でも見られる現象かもしれない。しかし20代の賃上げ率に応じて全体の給与を引き上げれば人件費の増大は避けられない。

そうした中で中期的に人件費の抑制を図る仕組みとして、従来の年功型賃金からジョブ型賃金に移行する企業が徐々に増えている。

ジョブ型賃金は職務給と呼ばれ、欧米の主流の賃金制度だが、給与は担当する職務(ポスト)ごとに決まる「仕事基準」であり、職務が変わらない限り、賃金も固定されて変わらない「脱年功型」賃金でもある。

給与を増やすには自ら高いポストに必要なスキル修得が求められる一方、逆にポストの職責を果たしていないと見なされると降格も発生する仕組みだ。企業にとっては年功的昇給額を抑制でき、ポスト(職務)の増減によって中期的に人件費を固定費から変動費化できるメリットもある。

さらに優秀な若手の抜擢もできるだけではなく、新卒や中途採用においても能力に見合った高い報酬も提示できる。

■年収800万円台の課長が一般職の係長と同じ600万円台に降給

じつはジョブ型の導入の理由は優秀な新卒・中途を採用するのが大きな狙いでもある。少し古い調査であるが、日本能率協会の調査(「当面する企業経営課題に関する調査」2023年8月)によると、すでに職務給を導入(または導入中)の企業の割合が22.3%、導入を慎重に検討中の企業が42.4%となっていた。

また、経団連の「2024年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」(2025年1月21日)によると、新卒でジョブ型採用を実施している企業は16.5%、今後について採用割合を増やすとした企業は25.7%に上っている。また、経験者採用でのジョブ型採用は44.2%、今後採用割合を増やす企業が15.5%もある。

つまりジョブ型採用の中途が増えるということは、在籍社員にとっては年功や入社年次に関係なく、高報酬の中途社員が突然、大量に入社することになる。

ジョブ型を導入しても全社員が制度を理解し、納得してくれるのであれば問題はないが、長年染みこんだ年功体質がそんなに簡単に払拭できるものではない。実際にさまざまな不満が発生している。

ジョブ型人事制度を導入した大手通信系企業の人事担当者は内情を次のように語る。

「当社はもともと何年に入社したという年次意識が根強く残っていました。『あいつは年次からいってもそろそろ課長だろう』とか、『このポストは何年次ぐらいの人だろう』とか、未だにそういうのが染みついています。それをいかに揺さぶっていくかが運用上の課題でした。部門長には、ジョブ型に移行し、これからは実力主義だから、ふさわしい人は選んでくださいと。どのぐらい抜擢できているかを見ていきますよ、と言っています」

しかし、それでも不満や反発が発生した。

「じつは部門長も人材を入れ替えるといっても皆そういうことにまだ慣れていません。降格を伝える場面では『えっ、次の配属先では降格になるんですか。何も聞いていませんよ。その後はどうなるんですか、給与が減ることになればどうしたらいいんですか、何も面倒見てくれないのか』と、矢継ぎ早に不満が爆発し、部門長から何とかしてくれないかという相談もありました」(前同)

写真=iStock.com/Seiya Tabuchi
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それでなくてもジョブ型の導入で管理職の昇進年齢も早まっており、中途入社組に加えて若手からも追い上げられている。

住宅メーカーの人事担当者はこう言う。

「3年前から30歳前後で課長になる人が出ています。それまでの年次制限を外し、実力があれば“飛び級”もある制度に変えた結果です。当然ながら40代の万年課長と肩を並べることになりますが、勢いのある30代に代わり、降格することもあり得ます」

課長職を降ろされると給与はどうなるのか。人事担当者は語る。

「当社はメーカーなので給与水準は高くありませんが、係長クラスで600万円台、課長になると800万円。部長になってはじめて1000万円の大台に乗ります。部長のボーナスは会社の業績連動の比率が高くなり、今は戸建ての需要が高く業績好調なのでボーナスを含めて2000万円近い年収をもらっている部長もいます。一方、課長を降格されても一気に給与が下がることはなく、1年間の猶予期間を与え、それでも人事評価が悪ければ、一般職の係長と同じ600万円台に下がることになります」

■「嫁には恥ずかしくて降格したなんて言えないよ」

食品メーカーでも毎年十数人の管理職が降格し、入れ替わるという“入れ替え戦”が行われている。同社の人事担当者はその内容を明かす。

「ジョブグレード(職務等級)のアップダウンはごく自然に起きています。パフォーマンスが2期連続で上がらなければ、一つ下のグレードに落ち、ラインの管理職から外れます。給与が下がるとモチベーションも下がるのであまり下がらないように工夫しています」

しかしいったんグレードダウン(降格)すれば、よほど努力しないと這い上がることは難しい。本人のショックも大きい。人事担当者は「中には意気消沈し、同期の飲み会で『今さらがんばれと言われても大変だよ。住宅ローンも残っているし、子どもだって小さい。嫁には恥ずかしくて降格したなんて言えないよ』と愚痴っていたという話を聞いたことがあります」と言う。

■落とされれば、二度と這い上がれないかもしれない

また、あるIT企業では管理職の2割をポスティング(社内公募)や中途採用で入れ替える仕組みを昨年から始めている。人事担当者は社内に変化が起きたという。

「これまでは、昨日と同じ今日が来て、今日と同じ明日が来るというのが終身雇用の下で約束されていました。でもジョブ型を入れた以上、年功や経験年数によらず最適な管理職を一定割合、選ぼうということで始めました。もちろんこれまで管理職試験という通行許可証はありました。しかし、どうしても日頃から上司にかわいがられている人が推薦されやすい傾向があり、試験に受かっても本当にマネジメントが得意なのかもわからない。自ら手を挙げて自発的に挑戦しようとする意欲がある人を競争させて選ぶことにした」

40代の社員は今とは違い、厳選採用時に低い初任給で入社し、あまり働きもしない高給取りの先輩社員にこきつかわれ、がまんしながら働き、何とか課長に上り詰めた世代でもある。

しかし、今は若手社員や中途社員と一緒に再び篩(ふる)いにかけられようとしている。落とされれば、二度と這い上がれないかもしれない。愚痴の一つも言いたくなる気持ちはよくわかる。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)