見直すべき“通訳の価値”。その技量は意外なほどチームの浮沈にかかわる 【小宮良之の日本サッカー兵法書】
Jリーグのクラブが勝つために、やるべきことは山ほどあるのだろう。まずは社長がまともで、優れたスポーツダイレクターを据え、良い監督と契約し、いいスタッフをそろえ、適切な選手補強をする。トレーニング環境を整えながら、試合という舞台を準備するわけだが、その繰り返しの中で様々なトラブルが生じるはずで、気が遠くなる大変な作業だ。
それ故、本筋の仕事に目がいって、ディテールが疎かになることがある。
例えば、サッカー現場の通訳の質は勝負の世界で大きくモノを言う。
年俸1億円の期待の外国人選手がいたとしよう。その選手に適切に指示が伝えられておらず、その選手の意志が監督やチームメイトに伝えられていなかったら、額面通りには稼働しない。コミュニケーションの欠如により、1千万円の力しか出せない、という可能性もある。
外国人監督や外国人選手を獲得する場合、たいていは通訳が必要になる。にもかかわらず、その能力に対して正しい査定が行われているか。
年俸1億円の監督や選手の能力を引き出すのに見合う給料が必要だ。
現状では、安かろう、になっているという。とりあえず、という感じで、ダメなら切ればいい、という感覚か。これは日本人が語学に対して世界の中で圧倒的に弱く、強いコンプレックスもあるだけに、逆にさじを投げているところがあるのかもしれない。
言語を理解し、それを迅速に正しく伝える、というのは貴重なスキルである。しかもサッカー用語は専門的なだけに、人材は限られている。ブラジル・ポルトガル語、韓国語の人材は少なくないが...。
【画像】ワールドクラスたちの妻、恋人、パートナーらを一挙紹介!
一つ言えるのは、“戦力になる通訳は貴重”ということだ。
個人の名誉を考慮し、クラブ名は出さないが、言葉の分からない選手たちでさえ、意味不明な通訳を笑いの種にしていたケースもあった。結果は散々。コミュニケーションが成立していなかったわけだから、当然の帰結だ。
ボーダーレス化が進む現代こそ、通訳に対する認識の変化が必要だろう。
当該国の言葉を通訳できる人材を欠いているとき、Jリーグでは「監督が英語を話せる」と安心し、英語通訳で代用することもあるという。
監督の話す内容がまず70%程度になって、通訳によってさらに間引かれる。これに選手が日本語で返し、英語で訳され、それが伝わり、再び監督はネイティブではない英語で回答する。その間、どんどんディテールは失われる。要約しか伝わらず、薄っぺらなものになる。
結果が出るはずはなく、これはホラーだ。
通訳という細部に携わる人材に対し、クラブはより敬意を払うべきだろう。通訳の技量は、意外なほどにチームの浮沈にかかわる。それを忘れるべきではない。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。
それ故、本筋の仕事に目がいって、ディテールが疎かになることがある。
年俸1億円の期待の外国人選手がいたとしよう。その選手に適切に指示が伝えられておらず、その選手の意志が監督やチームメイトに伝えられていなかったら、額面通りには稼働しない。コミュニケーションの欠如により、1千万円の力しか出せない、という可能性もある。
外国人監督や外国人選手を獲得する場合、たいていは通訳が必要になる。にもかかわらず、その能力に対して正しい査定が行われているか。
年俸1億円の監督や選手の能力を引き出すのに見合う給料が必要だ。
現状では、安かろう、になっているという。とりあえず、という感じで、ダメなら切ればいい、という感覚か。これは日本人が語学に対して世界の中で圧倒的に弱く、強いコンプレックスもあるだけに、逆にさじを投げているところがあるのかもしれない。
言語を理解し、それを迅速に正しく伝える、というのは貴重なスキルである。しかもサッカー用語は専門的なだけに、人材は限られている。ブラジル・ポルトガル語、韓国語の人材は少なくないが...。
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一つ言えるのは、“戦力になる通訳は貴重”ということだ。
個人の名誉を考慮し、クラブ名は出さないが、言葉の分からない選手たちでさえ、意味不明な通訳を笑いの種にしていたケースもあった。結果は散々。コミュニケーションが成立していなかったわけだから、当然の帰結だ。
ボーダーレス化が進む現代こそ、通訳に対する認識の変化が必要だろう。
当該国の言葉を通訳できる人材を欠いているとき、Jリーグでは「監督が英語を話せる」と安心し、英語通訳で代用することもあるという。
監督の話す内容がまず70%程度になって、通訳によってさらに間引かれる。これに選手が日本語で返し、英語で訳され、それが伝わり、再び監督はネイティブではない英語で回答する。その間、どんどんディテールは失われる。要約しか伝わらず、薄っぺらなものになる。
結果が出るはずはなく、これはホラーだ。
通訳という細部に携わる人材に対し、クラブはより敬意を払うべきだろう。通訳の技量は、意外なほどにチームの浮沈にかかわる。それを忘れるべきではない。
文●小宮良之
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。