“裏金”落選「丸川珠代氏」はなぜここまで嫌われるのか…“女子アナ時代”を知らない若者からも批判が飛び交う深刻な理由
「どうかお助けください」と候補者は涙を流しながら訴えたが、冷静な有権者は裏金議員に“正義の鉄槌”を下した──。衆院選で東京7区は立憲民主党の元職・松尾明弘氏が約8万6000票を得て当選。参議院議員から鞍替え出馬した自民党の丸川珠代氏は約5万5000票にとどまり、約3万票差で完敗した。そしてネット上では丸川氏の落選を心から喜ぶ投稿が相次いだ。
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【写真10枚】「2人で1800万円以上の不記載って…」夫婦ともに落選した“丸川珠代氏”と夫のツーショット写真 仲睦まじく手をつなぐ様子も
担当記者は「丸川さんと言えば、まさに“自民党の顔”という国会議員でした」と話す。
「東大経済学部を卒業し、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。『ニュースステーション』、『ビートたけしのTVタックル』、『朝まで生テレビ』などの人気番組を担当し、売れっ子アナとして活躍しました。当時、首相だった安倍晋三氏の要請で2007年7月、参院選に出馬。余裕で当選すると、五輪担当相など、抜群の知名度を最大限に活かす役割を求められました。特に参院選の政見放送が印象的で、安倍首相の横に座って“女子アナ”的なイメージで立候補者を紹介する姿を覚えている人は多いのではないでしょうか」
ところが“国民的人気”を期待された国会議員だったにもかかわらず、丸川氏の落選が明らかになるとXは歓迎のコメントが圧倒的多数を占めた。
《丸川珠代がとにかく嫌いだったので、今夜はご飯が美味しい》、《丸川珠代の応援で石破総理が「どうか丸川珠代を助けてやって下さい」って応援してたけど助けて貰いたいのは国民の方だろ》、《涙ながらに窮状を訴えた丸川珠代候補も順当に落選。あの泣き落としが通用すると思ってたとしたら有権者を舐めてますね》──。
「助けてほしいのは国民だ」
「自民党の裏金事件で丸川氏は、政治資金収支報告書に記載しなかった額が822万円と多額であり、しかも裏金を『自分の口座で管理していた』と記者団に説明したことで悪質性が高いことが明らかになっていました。自民党からは戒告処分を受け、衆院選では党の公認は得られたものの、重複立候補は認められませんでした。さらに刑事事件化する可能性もあり、今年3月に神戸学院大の上脇博之教授らが、丸川さんの政治資金規正法違反容疑の告発状を東京地検に提出しています」(同・記者)
東京7区は港区と渋谷区から構成されており、全国屈指の都市型選挙区だ。区内の有権者は“政治とカネ”の問題を非常に重視し、裏金事件の逆風は丸川氏を直撃。選挙活動をスタートさせても、直後から内容に批判が集中した。
「丸川さんが涙を浮かべながら『どうか助けてください』と演説する様子がテレビを中心に放送されると、『助けてほしいのは国民だ』と批判が集まりました。『組織の論理に負けない、正しい道を行く者が正しい道を進める政治を改めて作り直していきたい』と意欲を見せても、『裏金議員が言える立場か』とまた批判。安倍昭恵さんが応援縁説に駆け付けた時も“虎の威を借る狐”というイメージを与えてしまってまたまた批判。やることなすこと全てが裏目に出たほか、ヤジを恐れて演説の予定など大半のスケジュールを公開しなかった戦術も、選挙の専門家から敗因として指摘されました」(同・記者)
2000年代から批判されていた丸川氏
10月27日の投票日、午後8時に開票が始まると、大手メディアは一斉に「丸川氏落選」の記事を配信し、テレビ局も“0秒落選”の形で伝えた。丸川氏は2010年、野党議員として当時の与党議員に「愚か者」とヤジを飛ばし、注目を集めた。それが今回は「愚か者は丸川氏だった」と揶揄する投稿がXに殺到した。
それにしても数ある裏金議員の中でも、丸川氏の落選に対する関心はずば抜けて高い。ネット上では丸川氏の落選に溜飲を下げたと思われる投稿がひっきりなしに表示される。高い知名度を誇り、元女性アナウンサーの政治家として注目され、国民の人気を集めていたと考えられていたはずの丸川氏は、どうしてこれほどまでに嫌われる存在になってしまったのだろうか。
ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「可視化されていなかっただけで、丸川さんが2007年に参院選に出馬した時から、苦々しく思っていた人は多かったと考えられます」と言う。
「ずいぶんと前から、ネット上では世襲議員とタレント議員は批判の対象になってきました。政治家は政治のプロであるべきという大前提があり、その上で親の地盤と看板を楽に受け継ぐ世襲議員や、本来は政治とは無関係であるべき知名度を選挙に利用するタレント議員は、本人の能力とは関係なく選挙で有利な立場を得ます。これでは選挙の公正性が歪められてしまうというわけです」(同・井上氏)
若い有権者は「丸川って何者?」
井上氏によると、タレント議員に対しては「芸能人の“人生すごろく”において、最終ゴールが国会議員というのは明らかにおかしいし、その権勢や収入で上級国民と化すことは完全に間違っている」との批判が根強かったという。
あくまでもタレント議員が批判の対象だから与野党は問わない。自民党なら三原じゅん子氏や今井絵理子氏、生稲晃子氏が批判の対象になってきた。野党なら塩村文夏氏や中条きよし氏の名前が浮かぶ。
「丸川さんはテレ朝のアナウンサーとして報道番組も担当してきました。自民党を批判するニュースの原稿も読んだことがあるはずです。にもかかわらず、嬉々として自民党の国会議員に“転職”。これはおかしいと言う人は当時から、かなりの数に達していたのです。『愚か者』のヤジが話題になった時も、喜んだ人たちだけが可視化されましたが、苦々しく思っていた人も同じぐらいいたと考えられます。そして裏金事件で丸川さんの悪質性が明らかになると、今度は20代や30代の有権者が『なぜ、あの丸川という議員は態度がデカいんだ?』と眉をひそめました。彼らは丸川さんが元アナウンサーだと知らないのです。丸川さんに対する批判は、そもそもタレント議員に対する異議申し立てが源流にありました。それに裏金議員という点が最近になって新たに加わり、老若男女の誰もが丸川さんを批判する状況が生まれたのです」(同・井上氏)
涙が逆効果だった理由
丸川氏は2008年6月、同じ自民党の衆議院議員だった大塚拓氏と結婚した。大塚家は現存する日本最古のシューズメーカーと言われる大塚製靴の創業家だ。大塚氏の学歴を見ると、小学校から大学まで一貫して慶應。筋金入りのお坊ちゃんであり、いわゆる上級国民の一人と言っていいだろう。
「国会議員同士の夫婦として、丸川さんと大塚さんは有名でした。上級国民の妻である丸川さんが今回の衆院選で涙ながらに苦境を訴え、元首相の妻という安倍昭恵さんの応援を得て当選をお願いしても、それは逆効果でした。日本全国の世論も、東京7区の有権者も、『そんなに華麗な人脈をお持ちなら、自分の力で当選すればいいのでは?』と冷淡になったのはよく理解できます。物価高に苦しむ庶民が1票を投じ、丸川さんのような上級国民・タレント議員を落選させたという達成感を得た人が多かった。だからこそ、丸川さんの落選に大喜びした人が続出したのではないでしょうか」(同・井上氏)
タレント議員の歴史は古く、一説によると1946年、戦後初の衆議院選挙で当選した、演歌歌手の石田一松氏が当選したのがタレント議員の第1号とされている。
タレント議員が減少する可能性
ちなみに石田氏は苦学して法政大学を卒業。戦前から歌う内容は軍部や一部の政治家、社会の矛盾を風刺するものが多く、権力に抵抗する芸風は当局に睨まれていたという。
「マスメディア社会の発達により、芸能人が国会議員となることで、芸能界も政界も共に潤うという、まさにWin-Winの関係が成立した時代が存在したことは事実です。しかし現在はタレント議員に対する世論の目は厳しくなる一方です。芸能人が故郷に帰り、小さな町の地方議員として地元のために尽力するのなら美談です。一方、自分の知名度を利用して安易に国政に挑戦して当選してしまうと、常に炎上のリスクを抱え込むことになってしまいます。『これでは割が合わない』と考える事務所や芸能人は増えるはずで、長期的に見ればタレント議員の数はどんどん減少していくのではないでしょうか」(同・井上氏)
デイリー新潮編集部