ファンに刺された冨田真由さん 法廷で証言「裏切られた気持ち」
東京都小金井市で2016年に起きた刺傷事件をめぐり、被害女性が警視庁の対応に不備があったとして所管する東京都などに損害賠償を求めた訴訟の本人尋問が30日、東京地裁であった。
重傷を負った冨田真由さんが、事件前に警察に相談した状況や後遺症に苦しむ現状などを法廷で語った。
【写真】被害者の冨田真由さん。後遺症に苦しむ今の生活を取材に語った=2024年10月下旬、東京都内、小松隆次郎撮影
冨田さんは被害当時、大学3年生で20歳。シンガー・ソングライターとして活動していたが、出演予定だったライブ会場の近くで、ファンの男(殺人未遂などの罪で懲役14年6カ月の刑が確定)にナイフで多数回刺された。意識不明となり、その後、回復した。
19年に起こした今回の民事裁判は、冨田さんが事件前、警視庁武蔵野署に男のつきまといについて相談したあと、警察がどの程度の切迫性を認識し、対応策をとるべきだったかが主な争点となっている。
■「殺されるかもしれない」と伝えた
冨田さんはこの日、代理人弁護士の質問に答える形で、ライブのあとに男にしつこく話しかけられたことや男によるネット上の書き込み内容から恐怖を感じ、警察への相談にいたった経緯を法廷で説明。相談の際に「殺されるかもしれない」と伝えた、と述べた。
都側の証人として昨年出廷した警察官は、相談の際に「殺されるかもしれない」とは聞いていなかった、と証言していた。
冨田さんは事件から8年が過ぎた今も、PTSD(心的外傷後ストレス障害)から、同じようなストーカー事件に関するテレビニュースを見て過呼吸になることがあり、バッグに手を入れて動かしている人を見ると恐怖を感じてしまう。
■「裏切られた気持ちでした」
代理人弁護士から「裁判所に伝えたいことは」と促され、こう語った。
「私と同じように恐怖を感じている人たちが少しでも安心できる世の中になって欲しい、と裁判を始めました。裁判をしたことを後悔はしたくないけれど、長い5年間でした。裁判が続いているから、自分の中で区切りがつかなくて、ただ5年間を失ったような感覚です。私は刺されてから、(意識を回復し)目を開けたとき、警察官の方が助けくれたからよかったと思いました。でも、だんだん事件のことを認識していく中で、何もしてくれていなかったということを知って、すごく裏切られた気持ちでした。裁判所の方には、公平な判断をしてもらえると信じたいです」(小松隆次郎)