実用化されれば「コンコルド」以来の超音速旅客機「オーバーチュア」を手掛けるブームが、小型のテスト機「XB-1」を開発しました。しかし2機は設計の違いが各所にあります。なぜでしょうか。

エンジン数もコクピットも違う!

 米国のベンチャー企業・ブームで2024年現在、実用化されれば英仏共同開発「コンコルド」以来となる超音速旅客機「オーバーチュア」の開発が進められています。これに先立ち同社は小型のテスト機「XB-1」を開発し、初飛行に成功。さらにテストフライトを複数回重ねています。

 しかし、このXB-1は現在公開されている「オーバーチュア」の機体イメージとは異なる姿のうえ、エンジン数も同じではありません。なぜなのでしょうか。


ブームの試験機「XB-1」(画像:ブーム)。

 XB-1は2024年3月に初飛行に成功し、10月までに5度の飛行を終えています。しかし、このXB-1のエンジン数は「オーバーチュア」より1基少ない3基のうえ、全体の形もやや異なります。

 さらにインターネットで公開されている動画を見ると、XB-1の操縦桿はパイロットの正面に設置されています。一方「オーバーチュア」のコクピットシミュレーターがすでに公開されていますが、こちらは操縦士の脇に付くサイドスティック方式を採用していました。かなりいろいろ設計が違うようですが、これでXB-1はテスト機の役割を果たせるのでしょうか。

 XB-1は「オーバーチュア」の予定されているサイズの3分の1ほどの大きさです。XB-1の主任務はブームのサイトによると、「ソフトウェアによるアプローチを強化する現実世界のデータ採取(real-world data to strengthen our software-based approach)」とあります。

 ここから読み取ることができるのは、「オーバーチュア」の設計に先立ち、実際の飛行で起こる空力加熱や機体制御など基礎データの採取にXB-1が用いられるということです。

なぜここまで設計が違くても大丈夫?

 XB-1の最高速度はマッハ2.2(約2717km/h)の予定で、搭載されているエンジンはJ85という1960〜80年代の軽量戦闘機F-5に使われたものを積んでいます。もともと“標的用ドローン”のために開発されたJ85の推力はさほど高くありません。

 つまりXB-1は、今後作られるであろう「オーバーチュア」の試作機と全く異なる限られた目的でつくられたといえるでしょう。そのため、XB-1は速度など必要最低限の要求を満たせば、それ以上の性能を必要としないのです。XB-1のエンジン数が「オーバーチュア」より1基少ないのも、必要最低限の性能を確保しつつ、開発コストを抑えるため、と推測できるでしょう。


ブーム「オーバーチュア」のコクピットシミュレーター(清水次郎撮影)。

 XB-1のような限られた目的のテスト機において、実際に計画する機体と設計が異なるのは、過去にも戦闘機を中心にありました。たとえばスウェーデンでは「ドラケン」戦闘機をつくるさいに、サーブ210「リルドラケン」という小型機を1952年に初飛行させて、「ダブルデルタ」と呼ばれる主翼平面形の特性を探っています。日本でも次期戦闘機開発へ向けて、ステルス機能を蓄積するなどの目的で製造されたX-2も、こうしたテスト機に当たると言えるでしょう。

 航空機は「実際に飛ばしてみなければ分からない」といわれ、コンピューターのよる設計技術が進歩した今も、新型機開発において設計完了後にさらなる試行錯誤があるのは、いわば当たり前です。XB-1はこれを裏付けるもので、ブームは自身で実際の飛行データを採取・蓄積し、「オーバーチュア」の完成度を高めようとしているのだと想像できます。