人の力を最大限に引き出すにはどうすればいいか。心理学者の内藤誼人さんは「子供というものは、親が期待をかけてくれればかけてくれるほど、伸びていく。そのため少しくらい『親バカ』でいてくれたほうが、子どもの成長を促す。子どもに限らず、人に動いてほしいのなら、相手に思いきり期待をかけてあげるとこちらが望んだ方向に向かってくれる」という――。

※本稿は、内藤誼人『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/yamasan
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■少しくらい「親バカ」なほうが子供の成長を促す

我が子がかわいくてかわいくて、客観的な評価ができずに、自分の子どもは何と素晴らしいのだろうと過大評価してしまうことを、俗に「親バカ」といいます。

一般には「恥ずかしい親」といったニュアンスで使われる言葉ですが、子どもにとってみると、非常にありがたい親でもあります。けなされたり、批判されたりするよりは、ホメてもらえたほうが嬉しいに決まっていますよね。

「うちの子って、こんなにすごいのよ‼️」
「うちの子って、天才なんじゃないかしら?」
「うちの子って、ひょっとして大物⁉️」

そんな風に大きな期待をかけてもらえるのですから、少しくらい「親バカ」でいてくれたほうが、子どもの成長にはとても大きな利益が見込めます。

人間というものは、親が期待をかけてくれればかけてくれるほど、伸びていくのです。

フランスにあるグルノーブル大学のジュリアン・ボワは、平均10.4歳の子ども156名のお母さん(平均38.3歳)に、子どものスポーツの能力を評価してもらいました。

「全体として、うちの子はスポーツ能力が高いと思う」といった質問に答えてもらったのです。

次に、子どものスポーツ能力測定を行いました。立ち幅跳びであるとか、20メートルのシャトルランなどをしてもらったのです。

■人に動いてほしいのなら、相手に思いきり期待をかける

さらに1年後には、もう一度同じスポーツ能力測定をしました。

その結果を見ると、お母さんが親バカ気味で、「うちの子はスポーツ万能」と思い込んでいればいるほど、子どものスポーツ能力は高く、その1年後のテストではさらにその能力が伸びていることもわかりました。

親の思い込みは、子どもの能力の成長に大きな影響を与えているのです。

このような現象を、心理学では、「期待効果」や「ピグマリオン効果」と呼んでいます。親が大きな期待を持てば持つほど、子どもはその期待通りに伸びていくのです。

出所=『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』

「あなたは、本当に天才!」と親に手放しでホメられると、たいていの子ども、特に思春期の子どもは、「ちょっとやめてよ、お母さん!」などと恥ずかしがって自分の親をたしなめたりするかもしれませんが、せっかく親が過大評価してくれているのですから、ありがたくその過大評価を受け入れるのが正解です。

子どもに限らず、人に動いてほしいのなら、相手に思いきり期待をかけてあげましょう。そうすれば相手はこちらが望んだ方向に向かってくれます。

■一人でできないなら、グループで行動する

人間は弱い生きものです。一人では、そんなに力は出せません。

というわけで、部下を動かすときには、一人にやらせるのではなく、他の人たちにも声をかけ、グループやチームでやらせてみるのもいいでしょう。

そのほうが目標を達成できる可能性が高まります。

英国マンチェスター大学のトレーシー・エプトンは、目標を達成するのにどういうやり方が効果的なのかを検証した論文を141本も集めて、メタ分析という統計手法で総合的な結論を出してみました。

その結果、個人でなくグループで取り組んだほうが目標を達成するのに効果的であることがわかったのです。

仕事をするときには、グループでやったほうが楽しく取り組めますし、生産性もアップします。

勉強するときもそうで、一人ではすぐに飽きてしまうものですが、みんなで一緒に頑張るのなら、手も抜けません。みんなが頑張っているのに、自分だけは漫画を読むというわけにはいきませんよね。

運動もそうですね。スポーツジムに通うと決めたのなら、友人や家族も誘って行きましょう。

自分一人でジムに通おうとしても、「今日は雨が降っているからいいか」とか「今日は仕事が忙しかったから」などと、いろいろな理由をつけてそのうちにジムに通わなくなってしまいます。

でも、だれかと一緒だと思うと自分だけサボるわけにはいかなくなるものです。

■一人よりみんなとやったほうが楽しく、やる気も出る

私たちは、他の人と一緒のときには、いつも以上の力が出せます。これを「社会的促進現象」と呼びます。

ドイツにあるヴェストファーレン・ヴィルヘルム大学のヨアヒム・ハフマイヤーは、1996年から2008年のオリンピック、1998年から2011年の世界選手権、2000年から2010年のヨーロッパ選手権における、100メートル自由形の水泳選手199名(男96、女103)のタイムを調べてみました。

その結果、個人の自由形より、リレーの自由形のときのほうがどの選手もタイムが伸びることがわかりました。

人間は面倒くさがり屋なので、一人ではついつい手を抜いてしまいますが、他の人と一緒だと、そういうわけにはいきません。手を抜くどころか、他のメンバーに迷惑をかけないようにと、必死になっていつも以上の力を出してくれるかもしれません。

人を動かすコツは、一人でなく、他の人と組んでやってもらうこと。

何をするにしても、一人よりはみんなとやったほうが楽しいですし、やる気も出やすいはずです。

■リモート勤務で本気で取り組めない根本原因

世界的なコロナウィルスのパンデミックのため、リモート勤務をする人が一気に増えました。わざわざ会社に出向く必要がないわけですから、テクノロジーの進歩を大歓迎した人も多いことでしょう。

ところがその一方で、会社ではなく自宅で仕事をするようになって「いまいちやる気が出ない」と感じる人も多かったのではないでしょうか。

会社に行けば、周りにたくさんの人が働いていますが、自宅では一人で仕事をしなければならないからです。

私たちは、他の人たちから見られていると思うと、やる気が出ます。他人に見られていると、手抜きもせず、本気で取り組めるのです。

米国ジョージア州にあるマーサー大学のキーガン・グリーニアは、数字の並んだリストを見せて、「4」の数字にだけ丸をつけていく、という退屈極まりない作業をやらせてみました。

ただし、半数には「マジックミラーの向こうには別の人がいて、あなたの姿を見ている」と伝えました。

マジックミラーの向こうにいる人は、ただ見ているだけで、何かの評価をするわけではありません。

ところが、実験に参加した人たちは、見られていると思うと、張り切って作業に取り組んでくれました。

作業を一人でやると平均して59.1個しか丸をつけませんでしたが、他の人に見られていると伝えた条件では平均75.5個もの丸をつけたのです。

出所=『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』

■人間は「だれにも見られていない」と手抜きをしがち

他人に見られると思うと、私たちの気持ちは高ぶります。何だか胸の奥が熱くなってきて、「よし、やるか!」という力を出せるのです。

自宅で勉強をしようと思っても、ついついスマートフォンを見てしまうとか、パソコンでネットサーフィンを始めてしまったりするものです。だれにも見られていないと思うと、いくらでも手抜きをしてしまいます。

自宅で力が出せない人は、他の人も勉強をしている図書館に出向きましょう。

周りに人がいると、知らないうちに力が出せます。

カフェでもかまいません。隣のテーブルに人がいれば、サボりにくくなります。

もちろん、個人差もあり、周囲に人がいないほうが仕事に集中できるという人もいるでしょう。そういう人は、自宅で勉強をしたほうが能率はアップするはずです。移動の時間も短縮できます。

内藤誼人『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』(明日香出版社)

性格的に内向的な人は、周りに他の人がいると思うと、かえって集中できないということがありますので、そういう人はだれもいない場所で働いたほうがいいかもしれません。

自分がどういうタイプなのかを考えて、一人でやるか、みんなのいるところでやるのかを決めてください。

部下を動かすときには、放ったらかしにするのではなく、ちょこちょこと声をかけてあげるといいですね。

そうやって「私はあなたの仕事ぶりをしっかり見ているよ」と間接的に伝えておいたほうが、しっかりやってくれるでしょう。

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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。立正大学客員教授。有限会社アンギルド代表。社会心理学の知見をベースに、心理学の応用に力を注ぎ、ビジネスを中心とした実践的なアドバイスに定評がある。『心理学BEST100』(総合法令出版)、『人も自分も操れる!暗示大全』(すばる舎)、『気にしない習慣』(明日香出版社)、『人に好かれる最強の心理学』(青春出版社)など、著書多数。
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(心理学者 内藤 誼人 イラストレーション=神林美生)