どうすれば子どもの成績は伸びるのか。プロ家庭教師の青戸一之さんは「諦めが早いことが要因かもしれない。とにかく粘り強く物事を考えられるように指導したほうがいい」という――。(第1回)

※本稿は、青戸一之、西岡壱誠『家庭教師の技術』(星海社新書)の一部を再編集したものです。

■成績が上がる子が問題を解くときにしていること

Q 生徒の成績がなかなか伸びない。どうすればいい?

家庭教師をやっていると、生徒の成績がなかなか伸びない、という悩みを持つときがあります。一生懸命自分も頑張っているし、生徒も頑張っている。なのにどうして、なかなか伸びないんだろう、と。

その1つの原因として考えられるのが、「諦めが早い」ということです。

まず、問題を解いているときにどんな反応をしているのか、生徒の反応を見てみましょう。それも、難しい問題を解いているときの反応を見ていると、その生徒の伸び悩んでいる原因がわかることがあります。

もちろん、「その問題を解けているのかどうか」を確認しているわけではありません。別にたった1問の問題が解けたのかどうかで、成績が伸びるかどうかがわかるわけはありません。でも、問題を解くときに「あること」をしている人は、成績が上がりやすいのです。

それは、「手を動かしているか」です。

写真=iStock.com/west
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

どんなに考えてもわからない問題を見たときでも、難しくて解けそうにない問題に出会ったときでも、成績が伸びるタイプや頭が良くなるタイプは、何かを書いている場合が多いのです。逆に、成績が伸び悩んでいるタイプは、何も持たずにじっと問題を見ているだけという可能性があります。

■なぜあなたの子の数学の成績は悪いのか

例えば数学の問題を解いてもらうとしましょう。

「この問題は難しいけど、とりあえず2分間考えてみよう」と問題を出し、時間をはかった場合の反応は、生徒によって大きく異なります。

数学の成績が良いタイプや、これから伸びていく生徒は、必ず手を動かします。文章に線を引いたり、実際に数を当てはめてみたり、情報を整理したり、計算を始めてみたりと、何か文字を書いている場合が多いです。今は数学の成績が悪くても、わずかな知識の中でも何か懸命に文字を書いている生徒というのは、これから成績が伸びやすいのです。

それに対して、数学が苦手なタイプや、これから先伸び悩んでしまう生徒は、頭の中で考えようとします。手を動かさず、とにかく頭の中だけで組み立てて、「うーん」と考え込んでしまう場合が非常に多いのです。今の成績が良い生徒であっても、ただ頭の中だけで考える生徒は、その先で伸び悩んでしまう心配があります。

もちろん、難しい問題であれば2分間では答えまでたどりつくことはできないことがほとんどです。また、難しい問題であれば考え込んでしまうのもわかります。

でも、やっぱり東大に合格できる人は、どんなに難しい問題が出されても、頭の中だけで考えたりはしないんですよね。メモ用紙にちょっとしたことを書いてみたり、線を引いたり計算したりと手を動かしている場合がほとんどなのです。

■手を動かさないと解けない問題

仮に「x+y+z2=8をみたす0以上の整数x、y、zの組は全部で何通りあるか」という問題があったとします。

この問題、ただ問題文を眺めていても解けることはないでしょう。でも、「xにとりあえず1を入れるとどうなるだろう?」「zにはどんな数が入るんだろう、0は入るかな?」と、いろいろな数字を使って、与えられた情報をいじっているうちに、答えが出る問題なのです。

手を動かして具体的に計算していくと、いろんな気づきがあります。

「zは二乗なので、zが3のときは9になるから、答えにはならないだろうな」「ってことは、zには3以上の数は入らないな」とか、そういうことがわかっていくのです。

そうすると、「じゃあzは0か1か2以外ないわけだから、順番にz=0、z=1、z=2、と場合分けしていくほうがいいな」と方針が定まります。

実際に場合分けすると、z=0のときは9通り、z=1のときは8通り、z=2のときは5通りです。これらを足すと、「22通り」が答えになります。

この問題は、最初から「zには3種類の数しか入らないな」ということがわかるわけではありません。でも、手を動かしている中で、「この解き方も使えるんじゃないか」と手がかりが見えるようになるのです。

写真=iStock.com/domin_domin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/domin_domin

■勉強しても成績が上がりにくい生徒の特徴

逆にこれらの問題で、まったく手を動かさずにただ「どうやって解くのかな」と考えていても、うまくはいきません。どんな答えが出るのか、解き方はどうなのかなどがわからない状態でも、とりあえず数字を入れたり書いてみたりすることで、問題が解けるわけです。

どんなに勉強しても成績が上がりにくい生徒は、「わからない問題を見たときに硬直してしまう生徒」です。わからなくても、「わかる範囲」のことを懸命に書いている生徒は、もしそのときの成績が悪かったとしても、後で必ず成績が上がっていきます。

今は数学の問題で説明しましたが、「手を動かすと伸びる」というのは、数学に限らず勉強全般に言えることだと思います。

文章を読んでいるときでも、人の話を聞いてちょっと整理したいときでも、メモを取って何かを書きながら聞いているのとそうでないのとでは、頭への入り方が全然違うのです。

他方、頭の中だけでただ、「どういうことだろう?」と考え込んでしまうと、頭がごちゃごちゃしたり、身体的に動きがなくて身体全体が強張ってしまい、頭の中が凝り固まってしまいがちです。

手を動かすと、自分がそれまで何を考えていたのかという思考過程を視覚的に捉えることができるようになって、「あれ? 何を考えていたんだっけ?」などと混乱することなく、思考が整理されるようになります。また「手を動かす」という身体的な行為をすることで、身体の強張りを解きほぐすことにもなります。

■「わからないからといって諦めないこと」

だからこそ、伸びる生徒はみんな、何かを考えるときは手を動かします。人の話を聞くときにメモを取り、授業中にも自分の思考を整理するためにノートを取り、問題を解くときにもただ考えるのではなく手を動かすのです。なので、きちんと生徒に「手を動かすこと」を推奨していきましょう。

「わからなくてもとにかく手を動かす」という指導をしていきましょう。これを続けていれば、粘り強く物事を考える習慣が身につきます。そしてこの習慣があると、成績は伸びていきます。

青戸一之、西岡壱誠『家庭教師の技術』(星海社新書)

例えば、東大の入試問題ってやはり、とても難しいです。問題文を理解するのも、情報を整理するのも、非常に高度に「頭を動かす」ことが求められます。ですから、99%以上の東大生も、問題をパッと見ただけでは解答や解法が思い浮かびません。

しかしそれでも懸命に、「わからない問題の中のわかる部分」を、手を動かして思考を整理しつつ、実験していくことで、新しいことが見えてくるように問題は作られているのです。

逆に言うと、「難しいから」といって簡単に「自分はこの問題、解けないだろうな」と諦めてしまう人には解けないように作られているんです。諦めるのが早い生徒は成績が上がりにくく、とにかく粘り強く物事を考えられるように指導したほうがいいのです。

「わからないからといって諦めないこと」

勉強するうえで、この精神を持っているかどうかは、そのあとの勉強を左右します。逆に、「わからなかったらすぐ諦めてしまう人」というのは、どんなに勉強しても成績が上がりにくく、頭が良くなりにくいと思います。

この、「諦めないことの大切さ」は、絶対に生徒に教えていくべきことの1つです。きっと成績が大きく上がる要因になると思います。

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青戸 一之(あおと・かずゆき)
プロ家庭教師、ドラゴン桜noteマガジン編集長
1983年生まれ。高校卒業後25歳で塾講師となる。東大志望の生徒を不合格にしてしまったことから自身の学力不足と大学受験経験の欠如を痛感し、30歳で東大受験を決意する。33歳で東大に合格し、卒業後はプロ家庭教師・塾講師、ドラゴン桜noteマガジン編集長として活動する。著書に『あなたの人生をダメにする勉強法 「ドラゴン桜」式最強タイパ勉強法で結果が変わる』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。
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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
現役東大生 カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。
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(プロ家庭教師、ドラゴン桜noteマガジン編集長 青戸 一之、現役東大生 カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)