資生堂「官能パネラー」に密着 香り嗅ぎ分けるプロの技術に挑戦 AIと人の五感との共創で革新的な製品開発に期待

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五感を駆使して製品の品質を評価・検査する「官能パネラー」を取材した。経年劣化した乳液の香りを嗅ぎ分ける検査を体験したが、正確に判別する難しさに苦戦。専門家は、AIとの共創により五感を活かした革新的な製品開発の可能性を指摘している。

資生堂の品質守る五感のプロフェッショナル

日本を代表する化粧品メーカーを支える五感のプロフェッショナル。これまでメディア未公開だったその現場を初めて取材した。

海老原優香キャスター:
横浜・みなとみらいにある資生堂の研究開発施設に来ています。ここでは、製品を支えるプロフェッショナルの方がいるということで、さっそく行ってみたいと思います。

海老原キャスター:
こんにちは。今日はよろしくお願いします。

資生堂・森下薫 研究員:
資生堂の森下と申します。よろしくお願いいたします。

こちらの森下さんは、“ある力”で資生堂の品質を支えている。メディア未公開エリアに初潜入した。

資生堂・森下薫 研究員:
それでは今日、仕事の現場を見ていただきたいと思います。

海老原キャスター:
普段はどんなお仕事をされているんですか。

資生堂・森下薫 研究員:
私、「官能パネラー」をやっておりまして、製品の検査をやっています。

資生堂では、工場で製造した製品が正しい香りや色、質感であるかなどを確認する「官能検査」を実施しており、それを行うのが、社員の5%以下しかいないという、五感のプロフェッショナル「官能パネラー」だ。

なかでも森下さんは、30年以上のキャリアを持つ「嗅覚のスペシャリスト」で、これまで多くの製品開発に携わってきた。

普段どのような検査をしているのか、正常な乳液と、特別な機械で経年劣化させた乳液の香りを嗅ぎ分ける検査を、嗅覚には自信があるという海老原キャスターが体験した。

海老原キャスター:
こちらが普通の正常の方ですね。もう一方は、ちょっとトロッと感が増しています。こう比べると、若干黄色味がかって、見えますね。

資生堂・森下薫 研究員:
(匂いは) どうですか。

海老原キャスター:
え、 難しい。

資生堂・森下薫 研究員:
米ぬかっぽいにおいっていうんですかね。

海老原キャスター:
ちょっと発酵したような香りが確かにしますね。こうやって比べて嗅いだら分かるくらい。

続いて、2番目に古く経年劣化させた乳液で挑戦した。

海老原キャスター:
今、何をされているんですか。

資生堂・森下薫 研究員:
「順応」がやっぱり一番怖いので、鼻がにおいを分からなくならないように、自分のにおいをこう一度嗅いでリセットしています。

海老原キャスター:
もうリセットしたとて、そんなに変わりません。素人にはとてもじゃないけど、判断つかないです。

資生堂・森下薫 研究員:
(官能パネラーになるには) せめて2番目ぐらいまで嗅げていただけると。

“香りの不思議”を体験できる実験も行った。

資生堂・森下薫 研究員:
これからハーモナージュ体験して頂きたいと思います。きちんと汗臭がハーモナージュできているかどうかを判定します。

「ハーモナージュ」とは、不快な香りに、ただ良い香りを入れてごまかすのではなく、不快な香りそのものを材料の1つとして使い、良い香りを完成させるというものだ。

まずは、汗のにおいを再現したものをチェック。

海老原キャスター:
おお!結構臭いです。運動着を洗濯し忘れて、ランドセルに2日ぐらい入れた時のニオイ。

汗臭に、「ハーモナージュしない香料」を入れて嗅いでみた。

海老原キャスター:
汗のにおいは全然します。これはこれで臭いです。汗のにおいと強い良い香りがなんか喧嘩している感じの香り。

続いて、実際に製品に応用して使われている、「ハーモナージュする香料」を入れてみた。

海老原キャスター:
こっちはちゃんと汗臭さがなくなって、いいフローラルの香りだけが残っています。全然違います、この2つ。え?汗無臭なの?妖精さんですか?ってなります。

資生堂・森下薫 研究員:
そうですね。汗のにおいが入ることを想定して作っている香りなので。

海老原キャスター:
これがハーモナージュの力…、恐るべしです。

発信力が課題も研究力・品質で世界をリード

官能パネラーとしてだけでなく、香りを作る「調香師」としての顔も持ち、100種類以上の香りを嗅ぎ分ける事ができるという森下さん。その繊細な嗅覚を保つため、努力を欠かさない。

資生堂・森下薫 研究員:
このメニューだとカレーはちょっと避けたいですね。

においの強い食べ物を控えるほか、平日はお酒を飲まない、香りの弱いシャンプーを使うなど、普段から嗅覚に影響を与えない生活を心がけている。

そんな、プロフェッショナルな仕事に支えられている資生堂だが、課題もあった。

現在、韓国コスメの輸入額は約960億円と、7年前から6倍以上に増加。成長を続けるアジアコスメ市場に対し、資生堂は「発信力」に課題を感じている。

そんな中、2024年10月にブラジルで行われた世界のトップメーカーなどが一堂に会した、化粧品技術に関する研究発表会「国際化粧品技術者会連盟イグアス大会2024」だ。680を超える研究報告の中から、「肌のシミ」に関する発表が最優秀賞を獲得した。

資生堂は、この高い研究力と、官能パネラーによって保たれる高品質な製品を、より多くの人へアピールしたい考えだ。

資生堂官能パネラー・調香師 森下薫研究員:
最後使うのはお客様、人間なので、機械ではないですし、AIでも分からない部分っていうのは、官能パネラーが一番理解できると思う。化粧品に留まらない多様なアプローチでイノベーションを生み出すことを目指したい。

AIとの共創で広がる開発の可能性

「Live News α」では、デロイトトーマツグループ執行役の松江英夫さんに話を聞いた。

海老原優香 キャスター:
化粧品の開発ってとっても奥が深いですね。

デロイトトーマツグループ執行役・松江英夫さん:
化粧品業界で注目している動きは、「官能パネラー×AI」で、お互いを掛け合わせることの可能性です。

嗅覚は科学的な再現が難しい分野ながら、AIは、化粧品の香りを原料や製法の情報から数値や言語化することできるので、人の感性や主観を掛け合わせることで、さらに創造力の向上が期待できます。 

例えば、AIがユーザーのイメージに合う香りや製法を複数提案し、人が五感に基づいて判断することで、試作期間を大幅に短縮しながら魅力的な製品を作りだすことができます。

海老原キャスター:
資生堂の森下さんもおっしゃっていましたが、化粧品以外にも応用が効きそうですね。

デロイトトーマツグループ執行役・松江英夫さん:
AIとの共創によって人の五感がさらに磨かれて、人が創造的になってゆく、そんな展開に期待します。

海老原キャスター:
私も森下さんと一緒に香りの嗅ぎ分けに挑戦してみたんですが、森下さんはもちろん全問正解、私は6問中2問しか当てることができませんでした。

想像していた以上に神経を使うお仕事だと思いましたし、こういったプロフェッショナルな方がいるからこそ、安心して、化粧品が手元に届いてから、最後まで心地よく使い切ることができるんだと改めて感じました。
(「Live News α」10月18日放送分より)