中国の「一帯一路」構想はもはやオワコンか…その「驚きの実態」が見えてきた

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巨大な経済圏構想として華々しく提唱された中国の「一帯一路」は、当初の予定とは異なりつつも、現在も続々と参加国が増え続けている。「『一帯一路』は失敗した」と言うのは時期尚早だ。

現代版シルクロードとも呼ばれ、巨大経済圏構想として2013年に提唱された「一帯一路」構想は、10年経った今も中南米をはじめとする新しい国々の参画が続いている。発足当初の相手である中東欧諸国の離脱や規模縮小はありながらも、それは失敗と言い切るのは臆断だーー中国研究者でありインドの国立大学研究フェローの中川コージ氏は『日本が勝つための経済安全保障--エコノミック・インテリジェンス』(ワニブックス刊)にてそのように語っている。その真意とは一体? 本書より、一部を抜粋して紹介する。

アメリカの凌駕するためのツール「一帯一路」構想

中国の「一帯一路」構想は、習近平国家主席が2013年に提唱した「巨大経済圏構想」、「経済対外拡張構想」です。もちろん中国が公言することはありませんが、経済権益をベースにした覇権主義的な構想であり、2049年までにアメリカを凌駕(りょうが)する超大国化を目指す中国の具体的な手段で、経済的権益の拡大と表裏一体でもある軍事的な影響力の拡張をも見据えた構想です。

北京から欧州までを結ぶ地上の「シルクロード経済ベルト(一帯)」と、上海からインド洋を通って欧州に至る「21世紀海上シルクロード(一路)」という帯状の経済圏を想定し、ガスや石油のパイプライン、鉄道、道路、経済回廊、港湾、発電所、電力網などのインフラ建設を融合させた概念です。

沿線上にある、実に65カ国がこの「一帯一路」構想に参画し、中国はこの地域のインフラに影響力を持つことで、産業・経済面の存在感を増そうというのはもちろん、軍事安全保障上も、あるいは外交目的でもこのフレームをうまく使っていこうという思惑があります。

地理的概念を大幅に拡張させる中国

そもそも「シルクロード」とは、紀元前から15世紀まであったとされるユーラシア大陸の交易路であり、それにちなんで名付けられたものが中国の「(現代版)シルクロード」です。しかし2024年現在、その名称は何だったのかと疑問をもちたくなるほどに、中国は太平洋を超えて中南米諸国と一帯一路への参画協定・覚書を交わすなど、地理的概念が大幅に拡張してきています。

近年、北極海ルートも中国の対露バーゲニングパワー増大で抑えられるようになってきましたし、中南米という「(もはやシルクロードという地理概念を超越した)飛び地」でも20カ国以上が支持・参画の表明をしています。

これを受けて、日本が中核的に関与するCPTPPや、米国が主導するブルー・ドット・ネットワーク、IPEF、先日のインドが提唱したIMEC(インド・中東・欧州経済回廊)等々のフレームは、一帯一路のカウンターとして登場してきた側面もあります。

つまり、「一帯一路」構想そのものが、北京中央にとっての重層的な覇権影響力拡大の手段であり、軍事経済の統合拡張的発想になっているわけです。

そうした巨大な仕掛けの「一帯一路」が、一次元下のレベルの概念である経済安全保障を内包するのは自然であって、「一帯一路」の拡張はエコノミック・ステイトクラフト発動のための源泉資本になりうる可能性がある、ということになります。

すでに2017年の時点で、スリランカは中国にインフラ整備名目の多額の投資を受けたものの、返済不能に陥ってしまい、その代わりにハンバントタ港の99年という長期リースを飲まされる、という事例がありました。借りているのは中国企業ですが、ここを中国海軍の拠点とするのではという指摘もあります。

また、インフラなど目に見えるものだけではなく、一帯一路を「デジタル人民元」実装ゾーン(つまり、中央銀行発行デジタル通貨の地域標準化)とする構想や、一帯一路地域を行き来する大量の物流データを経済や安全保障に生かすのではないかとも見られています。

「デジタルシルクロード構想」

すでに中国は一帯一路に関連し「デジタルシルクロード構想」も提唱しており、この地域での中国のデジタル製品・サービスの輸出を促進し、同時に5Gをはじめとする次世代デジタル技術における国際標準化の主導権を確保することを目指しています。

ただし一部ではすでに当初の戦略的プロジェクトが中止となった箇所もあり、また融資の規模が当初に比べて縮小するなど、すべてが中国の思うようにうまく進んでいるわけではありません。

また、2022年2月末から始まったロシアによるウクライナ侵攻が、この一帯一路構想に及ぼす影響にも目を向ける必要があるでしょう。ロシア・ウクライナともにこの一帯一路構想の沿線国となり、両国とも中国と東欧・欧州を結ぶライン上に鉄道や道路などのポイントを持っていました。

また構想にはポーランドをはじめとする中東欧の国々も入っていましたが、ロシアがウクライナ侵攻に及び、中国が「中立からロシア寄り」のポジションを取ると、ウクライナはもちろん、中東欧諸国の対中姿勢も見直すように変わらざるを得なくなります。

とは言え、宇露戦争の前からすでに中国が2020年に「内循環を主流にした双循環」宣言を出してから、外向き投資が軒並み低減していて、中東欧諸国が期待していたよりもはるかに投資が少なく、気持ちが中国からすっかり離れていたというリアルな背景は理解しておく必要があるでしょう。

「どうせ中国は失敗するだろう」では足元を掬われる

このように、参加国が多いこと、カバーしている面積が大きいことから変数も増えてしまうのが巨大構想の難しさなのですが、実際のところ、一帯一路構想の「現状」はどのようなものなのでしょうか。

2023年には「一帯一路」サミットが開催されましたが、日本国内のメディアでは、「反中論」を繰り返しがちな論客系の人ではなく、対中スタンスがニュートラルなコメンテーターと呼ばれる方々でさえ、「G7唯一の参画国であるイタリアでさえ抜けることが既定路線になっている一帯一路は、すでに失敗した外交フレームである」と解説していました。

しかしこうした見方は、「どうせ中国は失敗するだろう」という思い込みに基づくもので、正しい対中認識とは言えません。もちろん、「一帯一路は終わった外交フレームではない」という指摘は、直ちに「一帯一路は成功する」という主張と一致するものではありません。万事うまくいくとも言えないが、オワコンでもないのです。

一帯一路は終わっていないと言えるワケ

なぜ「一帯一路は終わっていない」のか。その理由の第一は、実際に一帯一路を支持する国家が少なくない(多い)ことです。確かにイタリアは離脱を表明しましたが、それに続いて次から次へと「抜ける」状況には至っていません。むしろ中南米など新しく参画した国もあります。

もちろん、一帯一路に関する「一度結んだ協定・覚書を単に破棄していない・実際的な投資は未実施である」ということと「積極的に一帯一路に参画していたりプロジェクトを履行中」というスタンスには大きな隔たりがありますが、支持・参画国数からいえば、一帯一路は失敗している、とは言えない数になっており、2023年のフォーラムにも世界各地130カ国以上の参加が公式に発表されています。

つまり、一帯一路は、コンテンツとしての力は弱まっているかもしれないけれども、構造体(ストラクチャー)としては維持されている、ということです。

続く記事【台湾に「経済的圧力」をかけた中国の大誤算…! じつはまったくの「逆効果」だったかもしれない…】では台中の経済関係の実態について解説しています。

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