『君は冥土様。』©しょたん/小学館/君は冥土様。製作委員会

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 高校生の家に突如として現れた元暗殺者のメイド。「私を雇ってほしい」ーー その一言から始まる、暗殺のスキルを持つメイド・雪と高校生・横谷人好との心温まる共同生活を描く『君は冥土様。』がアニメ化された。

参考:テレビ朝日、10月より新アニメ枠「IMAnimation」新設 第1弾は『ブルーロック』第2期

 人とのコミュニケーションが生む温かさ、そして素直に気持ちを伝えることの意味を考えさせられる本作。主人公の雪を演じるのは、声優の上田麗奈だ。感情表現が苦手な雪が、人好との「普通の生活」を通じて少しずつ心を開いていく姿を、上田は繊細な演技で表現する。

 取材中、作品の魅力だけでなく、自身のコミュニケーションの変化にも言及した上田。「無理に笑顔を作るのではなく、素直な気持ちを言葉にする大切さ」を語り、周囲の人々との関わりを通じて気づいた「本当の優しさ」について明かした。

■「熊谷俊輝さんは、まっすぐで素敵な役者さんです」

ーー『君は冥土様。』の原作を読んでどんなところが魅力だと思いましたか?

上田麗奈(以下、上田):全体を通して、ベースにすごく温かみがあるんですよね。でも雪さんの回想シーンとか、暗殺者としての経験が見え隠れするセリフ回しとか、そういうところにシリアスな部分もあって。コロコロ変わる場面や表情、コミカルとシリアスを行ったり来たりする感じが、見ていて飽きない、ずっと読み続けられる作品だなと思いました。雪さんの表情もすっごく豊かで、クールなんだけど素直だからこその表情の変化の多さがすごく魅力的に描かれていて。そこも見どころだなと思いつつ、最後まで読んだ後はすごく優しい気持ちになれるんです。すごく好きな作品だなって思いながら、オーディションに挑ませてもらいました。

ーーアニメーションになって、作品の持つ魅力が引き立っていると感じた要素はありますか?

上田:音楽のつけ方ですね。この作品に漂う温かさや柔らかさ、優しさみたいなところをすごく活かしてくれていて、作品の魅力をさらに引き立てている感じがしました。あと、SEや画面の切り替わりに合わせた短い音楽の変化とかも、原作の良さをより引き立てている気がして。あとは、熊谷俊輝さん演じる人好くんのお芝居がすごく真っ直ぐで、裏がないところも印象的でした。人好くんの優しさとか、この人の言葉を信じていいんだなって思わせる人柄が、声の演技にもすごく表れていて。人好くんの等身大の暖かさや人間味みたいなものが、アニメになってよりグッとくるようになったんじゃないかなと感じます。

ーー熊谷さんは人好と同い年でもありますよね。共演されて改めて感じた印象を教えていただけますか?

上田:熊谷さんは、とっても素直で、それがそのまま伝わってくるような、まっすぐで素敵な役者さんです。役に対してもすごく誠実に向き合っていると感じました。今回は特に「アニメっぽくしない」ことを意識されていたそうで、決まった型にはまらないというか、リアルでナチュラルな演技をされていました。

ーー人好というキャラクターの、等身大・ありのままを演じようとされていたと。

上田:本当に人好くんが生きてるみたいな感じがしたんです。雪さんは特に序盤、その温かさを全部受け取っちゃうと雪さんらしくなくなっちゃうので、ちょっともどかしさはありました(笑)。人間らしい温かさみたいなものが、言葉や声から隣にいる私にも伝わってきて、アフレコブースがすごく居心地のいい空間になっていたんです。

■「(キャラの気持ちの)大きいも小さいも、きっと私の中にもあるんです」

ーーそんな人好のキャラクターについてどう思いましたか?

上田:人好くんは、その名前の通りすごくお人好しな人ですよね。彼のツッコミとか対応の仕方とか、倫理観や常識的な部分があるからこそ、親近感を感じられるし、理解もできる。例えば、一回謝罪したシーンとかも、すごく共感できる部分でした。でも、そんな共感できるキャラクターでありながら、同時にすごく懐の広さを持っているんです。困っている人を助けたいとか、悲しんでいる人を喜ばせたいとか。人への思いやりがとっても強いキャラクターなんです。「こんな人がいてくれたら、誰でも受け入れてもらえるのかな」とか「このままの自分でもいいのかも」と思わせてくれる、安心感をくれる存在。人好くんだからこそ、雪さんのクールな外見の奥にある優しさを引き出せるところがあるんじゃないかなと思うくらい。彼の存在そのものが、雪さんがあったかいところを見せるきっかけになっているような気がします。

ーー上田さんの感情を抑えた演技と、雪が好物の勝田ソースに出会った時のテンションの高さなど、感情のジェットコースターのような演技が印象的でした。雪さんを演じるにあたって、暗いところと明るいところのギャップをどのように表現しようと考えられましたか?

上田:暗いところに関しては、雪さんがこれまで歩んできた道のりがすごく影響しているんだろうなと考えました。暗殺者として生きてきた経験があるからこそ、特に序盤は「少しロボットっぽい喋り方をして」というディレクションもあったんです。それって自分の意志や気持ちを大切にというよりも、与えられた指示をただ実行するような生活をしてきたからなんじゃないかと。一方で、雪さんの本質ってすごく温かい人なんですよね。「人のために何ができるだろう」と考えて、人の喜びが自分の喜びになるような、そういう柔らかさを根っこに持っているんです。だから、クールな外見と温かい内面のバランスを意識しながら演じていました。

ーー他に雪を演じる上で大切にしたことはありますか?

上田:雪さんの素直さもすごく大切にしました。クールに見えても、人と関わっていく中で少しずつ変化していくんです。自分の気持ちにも相手にも誠実で、本当に真面目。そういった雪さんの素直さを一番大事にして演じるよう心がけました。

ーー上田さんが演じられるキャラクターは、悲しい過去がありつつ、素敵な人と出会って、元々あったかわいいところが花開くキャラクターが多い気がします。

上田:そうですね。自信がなかったりとか、自尊心が低かったり。その大きいも小さいも、きっと私の中にもあるんです。だから理解できることも多いし、演じるのは大変だけど、やりがいも感じています。

ーーこの作品は、雪さんのチャレンジを見守る周りの人々の温かさも描かれています。先ほどの熊谷さんのお話も踏まえ、現場の雰囲気もそれに通じるものがあったのでしょうか?

上田:そうなんです。特に監督がすごく優しくて、いつも現場を優しく包み込みながら盛り上げようとしてくださる方でした。今回は音響監督さんがいらっしゃらなくて、渡辺(歩)さんが全てのディレクションを担当されていたんですけど、度々ブースに入ってきてディレクションしてくださっていました。その時に、ちょっとした冗談やギャグを交えながら、和やかな雰囲気を作ってくださったんです。時には「これだと今の若い子たちには分からないかな」なんて言いながら(笑)。監督のおかげで、フレッシュなメンバーも多かった中で、柔らかい空気が流れる現場になっていたと感じています。

■上田麗奈を“最も応援してくれた人”ーーこの作品の雰囲気そのものみたいですね。では、上田さんご自身のこれまでのキャリアを振り返ると、「最も応援してくれた人」はどんな方でしょうか?

上田:いろんな方が浮かんで、本当に人に恵まれていたなと感じます(笑)。でも、家族の存在がすごく大きかったですね。口下手で、あんまり言葉には出さないタイプなんですけど、応援してくれているのは感じていました。具体的に言葉には出さなくても、私の仕事をちゃんと追ってくれていたり、こっそりグッズを集めてくれたり。

ーーあったかいご家族ですね。

上田:特に、声優の仕事を始めた頃って、バイトをしながら養成所に通っていたので、お金も全然ない状態だったんです。そんな中、何も言わずに口座に仕送りを入れてくれていて、本当に心配してくれていたんだなって。実家からお米を送ってくれたりもしました。家族以外にも、周りの先輩とか事務所の方、事務所外のスタッフさんや共演者の方々とか、本当に多くの人が気にかけてくれました。今でも昔一緒にレギュラーやっていた方と友達になって遊んだり、私の猫ちゃんたちの世話をお願いしたりすることもあるんです。東京でも、いろんな場所で大切な人ができたことが本当に励みになっています。相談もできるし、みんな意図的に支えようとしているわけじゃないかもしれないけど、結果的に、私にとっては大きな支えになっているので。そういう関係性がたくさんあるなと感じています。

ーーそういった温かい関係性を築く中で、上田さん自身が心がけていることはありますか?

上田:長らく心がけていたのは、無理をしてでも「常に笑顔でいること」だったんです。

ーーなるほど。「心がけていた」ということは、今は違うのでしょうか?

上田:そうなんです。尖のない空気感を作ろうとしていたんですよね。でも最近、そうしていると、無理して笑っているのを分かった上で「ありがとう」って言ってくれる人がいることに気づいて。そういう人たちに対しては、もう少し無理して笑わないで、素直な気持ちを言葉にしてみるようにしています。「どう思う?」と相手に問いかけて、ちゃんと言葉でコミュニケーションを取る。以前は相手の気持ちを推測して行動することが多かったのですが、今はちゃんと確認した上で、相手が望んでいることを理解して行動するよう心がけています。

ーー相手を傷つけないために、先回りするコミュニケーションが正しいとは限らない、ということですね。

上田:人にちゃんと問いかけて、自分の思いを伝えることが本当の優しさなんだなと気づいたんです。勘だけじゃ当たらないこともあるから、聞いてみないとわからないことってたくさんありますよね。特に大切な人に対しては、そうしていかなきゃと思っています。(文=すなくじら)