多くの人が忘れている…じつは、対称性は「数学的に分類」されていた

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ノーベル賞学者としても有名な天才物理学者・数学者のロジャー・ペンローズが、1970年代から半世紀にわたって探し求めてきた「ある図形」が話題になっています。

その名は「アインシュタイン・タイル」。

2023年にようやく発見されたその図形とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

ペンローズが考案した「ペンローズ・タイル」を超える“幾何学上の大発見”について、ビジュアル重視でやさしく詳しく解説した『ペンローズの幾何学』が刊行され、たちまち大増刷と大きな反響を得ています。

パズル感覚で楽しむことができ、しかも奥深い「平面幾何」の世界を探訪してみましょう。

※この記事は、『ペンローズの幾何学』の内容から再構成・再編集したものです。

「対称性」とはなんだろう

前回の記事では、次の図に関連して〈「あ」という文字を180度回転して……〉という表現が登場しました。

このように、ある図形は、形状については回転しても元と同じように保つことができます。ただし、表面に描かれた内容については元と同じに保つことができるとは限りません。

たとえば「あ」の代わりに「H」という文字が書かれていたなら、回転しても同じに見えます。このように、回転しても形状も表面の内容も元と同じに保つ図形は、「回転対称性をもつ」と表現されます。

回転対称性は、畳タイルの例のように180度の回転とは限りません。120度(正三角形)でも、90度(正方形)でも、60度(正六角形)でも可能ですし、平面充填にこだわらなければ、さらに別の角度でも可能です。

対称性についての注意点

注意が必要なのは、多角形や文字のような図形の「対称」と模様の「対称」とでは、ニュアンスが異なっていることです。平面に広がる模様は、たとえその一部の領域が対称に見えなくとも、模様全体として対称であることがあるのです。

今回上梓した『ペンローズの幾何学』では、「対称性」という言葉を「ある移動をしても元と同じ図形を保つ」という意味で使用していますが、模様で使われる「対称性」については、数学的な分類上いくつかの要素があります。

先ほど見た「回転対称性」も、数学(幾何学)の世界で対称性を分類する一つの要素です。他に、「平行移動対称性」「鏡映対称性(線対称性)」「すべり鏡映対称性」の3つがあり、これらに加えて「拡大・縮小対称性」という要素も知っておく必要があるでしょう。

順に解説していきますが、その前に一点、平面を充填する一つ一つの形状単体を「セル(cell)」とよぶことをご了承ください。上図の例では、畳タイル1枚がセルです。

平行移動対称性

「平行移動対称性」は、平面に広がる模様だけがもちうる対称性です。

多角形や文字などの図形では、平行移動すると、必ずどこかがはみ出て元の図形と同じにはなりません。周期的な平面充填模様であれば、うまく平行移動すると、もれなくどのセルも別のセルと重なり、元の模様と同じになるのです。

以前の記事〈じつは「正五角形」では「平面」を埋められない…埋め尽くす非周期タイルを、なんと「2種類」にまで絞り込んだ「驚愕のヒント」〉では、模様が周期的であることの説明を暫定的におこないましたが、「平行移動対称性」を使って言い換えると、次のようになります。

複数の方向(逆向きを除く)の平行移動対称性をもつ模様を周期的とよびます。

それに対し、複数の方向(逆向きを除く)の平行移動対称性をもたない模様を非周期的とよびます。

特に、『ペンローズの幾何学』では「一つも平行移動対称性をもたない」非周期的な模様をおもに扱います。

鏡映対称性(線対称性)

右手と左手はほぼ左右対称と考えられますが、建築物や蝶のような物体や生物などでも、中央で半分に分けると鏡映になっているケースが少なくありません。

左右対称の形状は、数学的にはその半分の形状を鏡に映したものだともいえます。

日本の義務教育で習う対称といえば、いわゆる「線対称」のことがほとんどで、日本人にはまずこの鏡映の概念が浮かぶでしょう。線対称の「2つに分ける線(鏡映軸)」は、縦である必要はありません。横も斜めもありえます。また、鏡映軸は1本とは限りません。

鏡映軸に沿って、左右半分に切った図形は同じように見えますが、左と右をぴったり重ねるためには「裏返す」必要があります。

本記事で取り上げたトピックをはじめ、『ペンローズの幾何学』では、平面図形に現れる対称性や黄金比などのふしぎな性質、最新の発見である「アインシュタイン・タイル(非周期モノ・タイル)」に関する詳しい解説等を紹介しています。

ペンローズの幾何学

対称性から黄金比、アインシュタイン・タイルまで

じつに、美しい…世の数学者を虜にする「平面充填」。なんと、ありうる「回転対称」は、セルによって決まっている、という「驚愕の法則」