不動産需要を振興するために、5月にはローン金利の引き下げや頭金比率の引き下げ、代金前受け済みの未完成物件の完成のための不動産業者への融資拡大、売れ残り住宅在庫の政府買い取りと公的住宅への転用などが打ち出されたが、その規模は小さく焼け石に水であった。10月には国債増発による国有企業への資本増強や不動産業界の支援が発表されたが、その規模は市場期待(2~10兆元:40~200兆円)には遠く届かないようである。

 雇用不安が高まり、不動産価格の先安観が高まっている状況では、国民は消費を切り詰めざるを得ず、それがさらなる経済収縮を招いている。社会保険・年金未整備の中国では、唯一庶民が頼れるものは貯蓄のみなのである。なお、中国の個人資産の7割が不動産、中国人の持ち家比率は9割と言われており、バブルが本当に崩壊した時の家計の損失は公的部門が被らざるを得ないだろう。

(4)日本株、全投資主体が一斉に買い始める

 ウォール街に「FOMO」と言う言い回しがある。「Fear of Missing out」の略で、取り残されることに対する不安を意味する。今の日本株式市場はまさにそのような状態に入りつつあると予想する。日本株のばかげているほどの割安さにようやく人々は気づき、日本株を持たざるリスクを真剣に考えざるを得ない。

1)外国人投資家→昨年来、世界主要市場で最も値上がりした日本株比率を高めるどころか、ほぼすべてを売ってしまった。日本株の勢いを見て慌てて買い戻し始めるだろう。

2)個人投資家→NISA改革が始まり投資ブームが起きている。2024年1~6月で10.1兆円のリスク商品が買い付けられ、年間では20兆円を超え、前年比4倍増のペースである。今のところこの大半が海外投信だが、日本株への急シフトが起きるだろう。

3)企業→PBR1倍以下の是正を求める金融庁、東証に押されて自社株買いに走っている。年間20兆円、前年比倍増ペースが続いている。

4)年金など機関投資家→インフレ定着、金利上昇の下で日本国債投資比率の引き下げと株式シフトを余儀なくされている。政府による国公共済(KKR)など公的年金運用の積極化の要請などを受けている。

 このように全ての投資主体が日本株に向かって押し出されていくだろう。日本で株式主体の資金運用体制が怒涛の勢いで始まることは疑いない。

 2点、重要だと思われることを付記したい。第一は、日本株のリスクは一にも二にも、時期尚早の金融引き締めである。日本株式のリスクプレミアムは、米国に比し著しく高い。その意味するところは、米国とは異なり日本の中立金利は未だに著しく低い、ということである。尚早の利上げは命取りになる。植田ショックの教訓を胸に刻むべきである。第二に、米国の金利高止まりは円安の継続を意味する。それは日本株高要因となる。

(2024年10月15日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン366号」を転載)

株探ニュース