「自民以外に投票すれば高市政権が誕生」この当然すぎるロジックを必死で否定「悪質なプロパガンダに騙されるな」石破政権を認めれば大増税

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 石破茂政権が発足した。そして早速解散に打って出た。なぜこのタイミングか。支持率が落ち始める前かつ野党が準備できない今しかないという極めて姑息な古い自民党的政治力学が推察される。一方で次の政権に向けた動きもみられる。日本はこれからどこへ向かうのか。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

自民党支持者にとって都合が悪い呼びかけ

 よほど選挙情勢が悪いのか、自民党支持者の間に苛立ちが広がっているようだ。一部の有権者が「高市早苗氏を総理にしたいなら、自民党以外に投票し、石破茂首相を退陣させよ」という内容をX(旧Twitter)に投稿したことに対し、自民党支持者たちが一斉に「それは違う」と反論している。

 例えば、以下のような意見が寄せられている。

<高市氏の過激な応援団を放置していたら、自民党内で『比例で票が減ったのは高市早苗の責任』となりかねない。高市派は全力で「比例は自民党以外に」と呼びかけるアホを止めろ>

<「高市早苗を応援するなら、比例で自民党と書くな」という呼びかけは、彼女を応援することとは正反対だ>

<「高市早苗を応援するなら比例は絶対自民党と書くな」といった投稿を見て苦笑いした。こんな主張が広まらなければ、高市さんはとっくに総裁になっていたかもしれない。まあ、分からんのだろうな、アホだから>

 など、さまざまな意見が飛び交っている。

自公が過半数割れば、石破首相は退陣せざるを得ない

 しかし、本当にその反論は正しいのだろうか。石破首相が自公での過半数を勝敗ラインに設定しているが、このラインは歴代の政権が引いてきたものであり、自民党内でも一定のコンセンサスがある、いわばオーソライズされた基準と言える。

 つまり、自公連立が過半数を割れば、石破首相は退陣し、総辞職せざるを得ない状況となる。その後の展開は予測の域を出ないが、高市早苗氏が次期自民党総裁の有力候補として浮上する可能性が高いことは否定できない事実だろう。

 もちろん、高市早苗氏が「比例は自民党以外に投票せよ」とか「小選挙区では石破首相に近い議員を落とせ」と直接命じることは反党行為にあたるが、自民党員や支持者が今回の選挙に限って、自民以外の候補に投票することは個人の自由であり、高市首相誕生を望む立場からすれば、それを応援するのも当然の行動と見なせる。

政権交代の実現可能性は低い

 また、現状の情勢から見ても、政権交代が現実となる可能性は低いだろう。仮に自民党が少数与党になったとしても、それが必ずしも悪い結果を招くわけではない。世界を見渡せば、少数与党による政権運営はごく普通のことであり、特に珍しい現象ではない。

 自民党や自公政権が長期にわたり日本で政権を維持してきたため、「少数与党」という概念には馴染みが薄いかもしれない。それゆえに不安を煽る意見も見られるが、正常な民主主義国家では少数与党の政権運営はよくあることであり、「少数与党」だからといって一概に否定されるものではない。

 まず、少数与党とは、与党が議会の過半数(50%+1)を持たない状態で政権を維持している場合の政権を指す。少数与党は、政権を維持するために他の政党からの支持や協力が不可欠であり、議会内で頻繁に交渉や妥協が行われるのが特徴だ。多くの議会制民主主義国家では、少数政権が形成されることが珍しくない。実際、議会制民主主義国家の約3分の1で少数政権が存在するとされているが、その成功や運営方法は国ごとに大きく異なる。 

少数政権は他党との協力が不可欠

 たとえば、スペインでは2018年、ペドロ・サンチェス首相の社会党が少数政権を維持していたが、急進左派や地域の民族主義政党の支持を得ながら政権を運営していた。デンマークでも2016年から2019年にかけて、ラース・ロッケ・ラスムセン首相が保守政権を少数で運営し、極右政党の支持に依存していた。少数政権は、政策を実行する際に他党との協力が必要不可欠であり、そのため妥協が求められることが多い。政権のパフォーマンスは、こうした協力関係の成否に大きく左右される。

 たとえば、英国では保守党政権(2017年から2019年)が北アイルランドの地域政党からの支持を得て政権を維持していた。少数政権は、特に議会が政府に対して責任を追及し、不信任決議を通じて政権を退陣させることができる議会制度において、興味深い運営形態となる。

 少数与党に関する研究論文『少数与党:比較の視点から』(Bonnie N. Field 博士・カリフォルニア州立大学ら)は、少数政権の存在を次のように示している。

少数政権は政治的不安定を招く要因に

<28か国の民主主義国の中で、1990年から2020年にかけて31.6%の政権が少数政権であった。つまり、142の少数政権が存在し、これに対して306の多数政権が比較された。この中で、イスラエルは19の少数政権が存在し、最も多くの少数政権を経験している>

 日本においても、少数与党が現れたとしても、これは議会制民主主義の仕組みの中で起こり得る当然の現象と言えるだろう。同論文によれば、少数与党になると以下のような影響が考えられる。

<少数政権が政権を維持するためには、他党からの支持や協力が必要不可欠である。このため、立法プロセスがスムーズに進まないことがあり、政策の実現に時間がかかる場合がある>

<一方で、少数政権がうまく機能するケースも存在する。スウェーデンでは少数政権が一般的であり、他国と比較しても高い立法生産性を示している>

<ただし、少数政権は政治的不安定を招く要因にもなり得る。政権が維持されるには常に他党との協力が必要であり、これが失敗すると政権は崩壊する可能性がある。たとえば、スペインでは少数政権が続く中、政策の停滞が生じた結果、早期の選挙が行われたことがある>

 要するに、少数政権の成功には他党との協力や議会内での交渉力が重要であることが強調されているが、これは当然と言えば当然のことだ。もし自公政権が過半数を割った場合でも、共産党を除く他の政党や無所属議員との連立を組む選択肢があり、他国の事例と同様に、一般的な政権運営がなされる可能性が高い。

総裁選前後で政策を大きく変えた石破への不信感

 ただ、石破政権には、防衛増税を推し進め、さらに総裁選前後で政策を大きく変えたことに対して根強い不信感が残っている。また、大阪においては、改革によって財源を生み出すと公約しながら増税を進めている維新の会にも同様の不信感が抱かれている。

 こうした状況を考慮すると、増税に反対する立場からは、大阪では反維新、その他の地域では反自民の投票が極めて重要となる。ここで鍵を握るのが、棄権や白票ではなく、いわゆる「抗議投票」という第3の選択肢だ。

 自民党や大阪維新をこれまで支持してきたものの、最近の一連の行動に納得がいかないと感じている支持者は多いだろう。そういった人々の中には、棄権や白票で抗議の意思を示そうと考える人もいるかもしれない。

一番効果的な抗議方法

 しかし、もっとも効果的な抗議方法は、あえて自分の考えとは異なるが、自民や維新にとっての最大のライバル候補に票を投じることである。

 この方法を実施することで、自分がこれまで投票していた候補の得票が1票減り、ライバル候補の得票が1票増えるため、結果的に2票分の差をつけることができる。棄権や白票よりも、自分の1票をより有効に活用できるのだ。

 与党生活が長くなると、政治家は往々にして傲慢になりがちである。特に、自民党と大阪維新は「ばら撒き」と「増税」を繰り返す悪循環に陥っているため、まさに「バラマキ増税中毒患者」と言っても過言ではないだろう。

 さまざまな実証研究データが、国民負担が小さいほど経済成長が促進されることを示している。しかし、バラマキ増税に依存している政治家たちは、その事実を知っていながら、長年にわたり続けてきたビジネスモデルを破壊することができず、袋小路に追い込まれている。

 だからこそ、私たち有権者が彼らを「治療」する役割を担う必要がある。あらゆる増税が経済成長に悪影響を与えるという実証データを、石破自民党や大阪維新の政治家たちにしっかりと受け入れさせなければならないのだ。