この宇宙の出来事はすべて「弦」同士の反応でできている!?究極物質の反応を表す「世界面(ワールドシート)」とはなにか?
宇宙はどんな形をしているのか? その謎に迫るために取り入れられているのが「トポロジー:位相幾何学」と呼ばれる数学です。このトポロジーの中でも、超弦理論との関係から近年注目されている「結び目理論」や、宇宙空間を考えるうえで重要になる「高次元幾何学」を中心に、この不思議な世界を紹介する新刊『宇宙が見える数学』。その中から、この記事は万物の素となる「究極物質」がどんなものなのか?その思考の軌跡を「超弦理論」そして「世界面(ワールドシート)」というキーワードをもとに紹介します。
*本記事は『宇宙が見える数学』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
究極物質を求めて
「自然界にある、すべてのもの」は何からできているでしょうか? 言い換えると、さまざまなものを細かく分けていくと、どのようなものになるでしょうか? 人類は、古来この問いを考えてきました。
古代ギリシアの偉大な哲学者デモクリトスはすでに原子という考え方を持っていました。彼は、さまざまなもの、石には石の、植物には植物の性質をつくる原子が存在するのだと考えていました。
時代はくだり19世紀、英国の高名な科学者ジョン・ドルトンは元素を構成する根源的な物質が原子であるという考え方を提唱しました。ドルトンは、原子と原子がつながって物質をつくるという考え方にたどり着いています。これは、非常に革新的な考え方でした。
現在の私たちは、原子を分けていくと電子やクォークと呼ばれる何種類かの素粒子になることを知っています。また、この考えがおおよそ正しいことは実験からもわかっています。
素粒子をさらに細かく分けると「点」にはならない!?
それでは、素粒子をさらに細かく分けていくことはできるのでしょうか。考えてみましょう、物質の最小単位だとされる素粒子は点粒子だと考えられます。点には大きさがありません。たてにも、よこにも、たかさにもありません。言い換えるなら0次元だと考えられます。
2つの点粒子があったとします。この2つが距離0まで近づいたとき、その相互作用はどのように考えればよいのでしょうか。じつはこの答えは無限大になってしまいます。これは物理学にとって非常に大きな問題なのです。この問題は重力以外の相互作用(電磁力、強い力、弱い力)では、いちおう解決しました。しかし、重力も考える場合は未解決です。
これを説明するために、さまざまなモデルが考えられています。そのなかでも有力なものが「超弦理論」と呼ばれるものです。
究極物質の姿が「超弦」だと予言される理由
超弦理論では、素粒子をさらに細かくしていった「究極物質」は、長さのある線分(まっすぐだったり、曲がったりしてもよい)、もしくは円周(曲がってもよい)ではないかと言われています(図1参照)。
「点である素粒子をわけると、なぜ線分や円周になるのだ?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。おおまかに説明すると、こうです。
線分をものすごく遠くから見ると点に見えます。我々のできる実験はエネルギーが低いので線分を遠くから見ているようなものなのです。そのために点に思えます。しかし、我々が現在直接できないような高エネルギーの実験では線分として扱わないと説明できません。超弦理論は、こう主張しています。
点ではなく線分か円周と思うと、さきほどの「重力も考えた場合の無限大に関する問題」が解決できます。「点と点なら距離0になりえる」という問題を避けられるからです。
このあたり、おおまかに説明していますので気になるかもしれませんが、ここではおおらかに捉えてください。数学や物理を学ぶときは、まず鳥瞰(ちょうかん)することが必要です。これは入門だから言っているのではなく、専門家もそうしています。
この線分と円周は「超弦」と呼ばれます。「超対称性」という性質を持つので超という字が付いています。
超弦理論の精確さは、まだ実験から確定していません。現代では不可能なくらい、とてつもなく高エネルギーの実験をしないといけないからです。しかし、多くの物理学者が正しいと信じています。いくつもの理論的根拠があるからです。
図1を見ると2種類の弦が描かれています。左側のものを「閉弦」、右側のものを「開弦」と呼びます。
宇宙の出来事は、これらが動いて結合したり分離したり、反応し合って起こっています。
弦同士の反応を表す「世界面」
それでは、閉弦の場合を見ていくことにしましょう。
閉弦が動くとどうなるでしょうか。答えは筒のような円柱の側面になります(図2)。この筒は曲がっていてもかまいません。
さらに、この弦が複数存在して反応するときは、どうなるでしょうか。例えば、図3のように複雑な曲面になります。自然界で起こる物質の反応は、このような弦同士の反応で説明されます。
「ものAとものBが反応して、ものCとものDになる」という現象を考えます。この現象は図3のように曲面で描かれます。
図3の曲面には4個の「穴」が空いています。曲面の境界は4個の円周です。4個の円周のうち2個はA、Bが入ってきた、残り2個はC、Dが出ていったことを表すと解釈します。それを視覚的に描いたものが図の矢印です。
さて、この曲面を「ワールドシート(world sheet)」もしくは「世界面」と言います。
自然界で起こるものの反応はすべてこのように説明されます。
自然界で起こるものの反応を表す「世界面」
この超弦が反応するのは実験時間全体からしたらほんの一瞬だと考えられます。そのため、A、B、C、Dを表す超弦は無限の遠方からきたものだと考えることができます(図4)。
また、A、B、C、Dを表す円周は点と見なすことができます。これらのことから、超弦の反応するようすは、図4のように境界のない曲面を描いてそこに弦が飛び込んできたということを点で描いて表せます。
図4の無限に伸びたところの端っこ(図3で境界、円周であるところ)は、無限に伸びたことから点と見なせるのです。
図4を図5のように描いて、ものA、B、C、Dを点と表すこともできます。
なぜこのように図を描き直すことができるのかという大雑把な理由は、ものをぐにゃぐにゃ曲げたり引き延ばしたりしても同じ図形だと考える立場だからです。
このように「究極物質」は点ではなく、弦のようなものだという考えが予言されました。以降の記事では、「曲面」をキーワードにしながら「曲がった空間」とについて考えたいと思います。
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