「札幌ドーム」最終年より観客動員数が爆増中…!日ハム「エスコンフィールド」試合がなくても稼げる「驚きの理由」

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新球場建設で来場者爆増!

プロ野球・北海道日本ハムファイターズの本拠地となる野球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」(北海道北広島市。以下「エスコンフィールド」)が2023年3月に完成して、2年が経とうとしている。

2022年までの本拠地であった札幌ドーム(現在は「大和ハウスプレミストドーム」)から20km近く郊外、かつ最寄駅(JR千歳線・北広島駅)から2km近く離れた場所への移転で、従来通りに集客できるのか?という懸念の声も多く聞かれた。

しかし、今年(2024年)のエスコンフィールドでの観客動員は、レギュラーシーズン最終戦を終えた段階で「1試合平均2万8830人・年間207万5734人」。札幌ドームの最終年(2022年)の「1試合平均1万7937万人、年間129万1495人」をはるかに上回っている。

この数字は、ファイターズが最後に日本一を勝ち取った2016年の「1試合平均2万9281人、年間207万8981人」(2022年以前は旭川スタルヒン球場・東京ドームなどの開催分含む)に並ぶほどの高水準だ。

決算の数字はどうか?

経営面でも、必要な利益をしっかりと出している。エスコンフィールドを含む「北海道ボールパークFビレッジ」の運営を行う「ファイターズスポーツ&エンターテイメント」の2023年度の売上は251億円。札幌ドーム時代・コロナ禍前の2019年の157億円から、100億円近くも上積みした。

営業利益で見ても、札幌ドームでは数億〜10億円であったのが、2023年度は36億円(当初目標は26億円)。今年(2024年度)の売り上げもここまで前年比を楽々クリアしており、かつファイターズはパ・リーグ2位のままCS(クライマックスシリーズ。上位3位の決戦)に進出したため、大幅な増収は間違いない。

このあたりの数字を見る限り、エスコンフィールドの球場経営は極めて順調。業績は“そら高く”“あかね雲”の上まで(「ファイターズ賛歌」より)伸びていきそうだ。

しかし一般的に、「球場ビジネス」は実入りの良い商売とは言えない。試合での稼働は多くても年間数十試合、1日数時間。維持費や税金は取られつつ、空き時間や空間で副収入(テナント料など)が生み出せる訳でもなく、経営資源として冷静に見ると、非効率にもほどがある。にもかかわらず、約600億円を投じてファイターズのためのエスコンフィールドが建設され、そこで想定外の利益を獲れたのか。

なお、この記事が公開される数日後には、6年ぶりにCSに進出したファイターズと、千葉ロッテマリーンズ(3位通過)の熱戦が繰り拡げられる予定だ。こんな経営の話より、新庄剛志監督率いるファイターズの試合の方が面白いことに間違いないが、邪魔しない程度に「球場ビジネス」のあり方をひも解いてみよう。

滞在時間が伸びるほど収益向上?

エスコンフィールドでの野球観戦者が順調に増加しているのは、先に述べた通り。しかし、試合がない日にも平日4500人、休日1万人ほどを集客しているといる。利益を押し上げているのは、こういった「試合以外での来場者の増加」、そして「滞留時間の増加」だ。

まず、球場を含めた「北海道ボールパーク」は池や花畑を中心とした広い公園となっていて、家族で散策するのにちょうど良い。ここまでは無料で過ごせるが、周囲には、知育玩具で有名な「ボーネルンド」直営のあそび場「PLAYLOT」、空中アスレチックやZIPラインなどの有料アクティビティが点々と存在する。子供にせがまれて、結局は上手い具合に財布の紐がゆるんでしまうのだ。

球場や一部シートは、試合がない日は無料開放されている。入場した瞬間、視界にパッと広がるグラウンドや天然芝(もちろん本物、プロ野球仕様!)はインパクト絶大!選手やコーチが間近で歩いている時もあり、球場全体が「野球」をテーマにした一大テーマパーク、といったところか。

ここまでは無料で過ごせるが、客席背後のフードホール(日本ハム直営)では名物の「シャウエッセンホットドッグ」「シャウMeatマフィン」が味わえ、球場内で醸造したクラフトビールを出す「そらとしば」など、最大で約40店舗の飲食店が来場者を誘惑している。敷地外には焼き立てパンを出すカフェテリアもあり、グルメフードコートと化した敷地を歩けば歩くほど、財布の紐をゆるめざるを得ない。

エスコンフィールドでの非試合日の来場者の平均滞在時間は3時間8分。試合日の観戦客は平均で3時間44分も滞留するという。特に野球観戦の来場者は、実際の試合時間(3〜4時間程度。投球のテンポが良い加藤貴之投手などが先発だと、もっと早く終わる)より1時間近く長めに滞在、飲食やアクティビティを楽しむ、といった統計が出ている。追加で料金を払わず楽しめるものの、訪問者の滞在時間が伸びれば伸びるほど、単価は上がる。

さらに、試合日以外の来場者に「次は野球を見てみたい!」と思わせ、ファン=コアターゲットになってもらえれば、チケット収入やグッズ販売で選手への“お布施”にも、移籍を引き止める資金にもなる。野球場の発想にとどまらない「ボールパークビジネス」が、来場者の増加・利益の向上、そしてチームの強化に繋がるという訳だ。

10年後も「勝利の男」でいられるか?

新球場・エスコンフィールドは、そこまで想定になかった「インバウンド観光客の滞留」という需要も生み出しているという。

バスと鉄道を乗り継げば、球場から新千歳空港まで40分程度。1〜2週間も日本に滞在するインバウンド観光客にとって、子どもを存分に遊ばせつつ、飛行機待ちの時間を潰す場所としてちょうど良いのだ。

いまや世界に知られる「ダルビッシュ有選手・大谷翔平選手ゆかりの球団(過去にファイターズ所属)の本拠地」「2選手の巨大壁画」だけでも、観光地としてのバリューは十分すぎる。

また、地元・北海道に根差した利用の増加も見逃せない。平日昼間には遠足・課外学習も多く、球場前の駐車場には「栗山町」「由仁町」など自治体名入りのスクールバスや、各地の貸切バスがズラリと並ぶ(これはこれで見もの!!)。

学生やツアー利用者も含めた「団体来場者数」は、札幌ドーム時代・コロナ禍前から6倍(約19万人)にも増加するなど、エスコンフィールドが「選ばれる観光地」となっていることは、疑いないだろう。

もちろん、野球観戦の環境も改善している。客席上部への移動手段がエレベーター数基しかなかった札幌ドームに対して、エスコンフィールドはエスカレーター17基・エレベーター13基で、上段まで到達できるのだ。

スポーツ観戦をしない方にはピンと来ないかもしれないが、こういった「上段スタンドへのアクセス」は、チケットがプレミア化するほど人気の東京ドームですら、4階まで相当の階段のぼりを要する。

飲食店街には多量にモニターが設置されており、自席から離れてグルメを堪能しながらの観戦も可能。野球観戦プラス「ラクに移動、美味しいモノ・アクティビティの誘惑満載!」なら、客数・滞在時間・単価ともに稼げるのも納得だ。

もっとも、球場としての収益改善は「札幌ドーム時代の使用料・諸経費(年間約20億円)、飲食店の出店制限からの解放」「北広島市からの固定資産税免除(年間約3〜5億円)」など外的な要因も。かつ、建設にあたって、事前に資金調達で100億円単位の社債を複数回発行している。北広島市の優遇措置終了、債務返済が重なる10年後に、本当の勝負が訪れるだろう。

それでも、長らく「本社からの広告費名義の補助」で生き延びてきたファイターズが、スポーツビジネスを武器に一本立ちできるチャンスだ。これから開催されるCS(クライマックスシリーズ)を勝ち上がれるかは分からないが、2024年に活躍したファイターズ戦士(選手)たちの年俸に、利益がしっかりと還元されることを願いたい。

気になる「アクセスの改善」

ただ、エスコンフィールドが雪に閉ざされる1月〜3月には、来場者が激減する。この期間中に経営上の課題があるとすれば、特設のスキー場と、サウナ温泉など、ごく一部のみが営業する「冬場の集客」だろうか。FSE社でもこの状況は織り込み済みで、来年の決算(2025年3月期)でも下半期(11月〜3月)の赤字を上半期(4月〜10月)の利益で埋める構造となっている。

あとは、冬季限定のスノーリゾートをインバウンド客に利用してもらい、長期滞在によるホテルの稼働率向上・単価向上で、できるだけ赤字を埋めるほかはないだろう。

むしろ、冬場にも賑わいを生みつつ、「春〜秋はたまに野球、あとは年間通じて観光スポット」という、世界でも例を見ない街が完成することになり、日本ハム本社やFSE社の収益となり続けるはずだ。

ここで気になるのが、「アクセスの改善」である。当初から指摘され続けてきた「もうひとつの課題」でもあるのだが、はたして今後どうなるか。

つづく後編記事『「札幌ドーム」とはスケールも発想もケタ違い…日ハム「エスコンフィールド」“衝撃の未来図”がヤバすぎる!」』では、構想の詳細とともに、アクセスのカギを握る「ボールパーク新駅」とJR千歳線の「これから」について、詳報します。

「札幌ドーム」とはスケールも発想もケタ違い…日ハム「エスコンフィールド」“衝撃の未来図”がヤバすぎる!