相続登記にはどのような費用がかかるのでしょうか (c)Getty Images

2024年(令和6年)4月1日から相続登記が義務化されたことにより、相続登記への関心は高まっています。しかし、相続登記にはどのような費用がかかるのか、誰がどれだけ支払うのかといった点はあまり知られていません。相続登記にかかる費用の種類から司法書士報酬の相場、費用を安く抑える方法まで司法書士が解説します。

1. 相続登記にかかる3つの費用

相続登記とは、不動産を所有する人が亡くなった際、その不動産の名義を相続人に変更する手続きを指します。相続登記にかかる費用の種類は、以下の3つに分けることができます。

登録免許税

申請に必要な書類の取得費用

司法書士への報酬

1-1. 登録免許税 

法務局に相続登記を申請する際には、収入印紙代が必要です。これを「登録免許税」と言います。計算方法は以下のとおりです。

登録免許税=不動産の評価額×1000分の4(0.004)

たとえば、相続する不動産の評価額が855万3549円である場合、千円未満を切り捨てた855万3000円を課税価格として計算します。これに1000分の4をかけると3万4212円となり、百円未満を切り捨てた3万4200円が納付すべき登録免許税額となります。

納付方法は相続登記の申請の際に印紙を貼付するか、納付書による現金納付もしくはオンライン納付(オンライン申請の場合)でも可能です。なお、不動産価格が100万円以下の「土地」については、登録免許税が免除されます。建物については100万円以下であっても免除されません。

不動産の評価額は、市場価格ではなく不動産を管轄する役所から毎年送られてくる固定資産納税通知書に記載されている額を採用します。

固定資産納税通知書を紛失している場合には、不動産を管轄する市区町村役場、もしくは市税事務所で「不動産評価証明書」を入手できます。被相続人(以下、亡くなった人)名義の不動産評価証明書を請求する際は、相続人であることを証明する必要があり、亡くなった人の死亡の記載がある戸籍謄本と、請求者が相続人であることがわかる戸籍謄本をセットで提出します。この戸籍謄本はコピーでも対応してもらえます。

なお、登記申請の際には固定資産納税通知書、または不動産評価証明書を添付しますが、原本でなくてもよく、コピーで対応してもらえます。

1-2. 申請に必要な書類の種類と取得費用

相続登記の申請には、法律で決められた添付書類を準備する必要があります。添付書類は、自分で作成するものと市区町村役場で発行してもらうものがあり、役所で発行してもらうものには手数料がかかります。特に、戸籍謄本類は相続関係によって集める分量が異なるため、相続人が多い場合には発行手数料が高くなります。相続関係が複雑でなければ、市区町村役場に支払う手数料は5000円前後で収まることが多いです。

相続登記に必要な書類の種類と手数料は以下の表のとおりです。

1-3. 司法書士への報酬|8万円~10万円前後が目安

相続登記を司法書士に依頼した場合には、戸籍謄本などの取得費用や登録免許税のほかに司法書士への報酬がかかります。司法書士への報酬は、法律などで規定された一律の基準はなく、それぞれの事務所で定めた報酬基準に委ねられています。一般的な相場としては、複雑でない相続登記であれば8万円~10万円前後になることが多いでしょう。

金額に幅があるのは、事務所ごとに報酬基準が設定されているうえ、手続きをどこまで依頼するかによっても報酬が変わってくるからです。たとえば、戸籍謄本などの書類は自分で集めて、それ以外を司法書士に依頼する場合には、書類の取得代行報酬を節約できるため、司法書士にすべて依頼する場合に比べて報酬が安くなるでしょう。私が司法書士として経験してきた感覚で言うと、2万円前後安くなるイメージです。

【関連】相続登記にかかる費用は? 司法書士報酬、必要書類の取得費用、税金を解説

2. 相続登記の司法書士費用は誰が払う?

相続人が複数人いる場合、司法書士の報酬を相続人のうちの誰が負担するのかについても気になるところです。誰が支払うかに法的な決まりはないため、相続人の話し合いで決めることになりますが、大きく分けて2つのケースがあります。

2-1. 不動産を相続する人が支払うケース

司法書士として相続実務に携わっていて一番多いのが、実際に不動産を相続する人、つまり新しく名義人になる人が負担するケースです。自分の名義にする登記であるため、最も多いケースになるのはある意味では当然と言えます。

ただし、不動産の名義を一人が承継しても、実際にはすぐに売却して、得られた売買代金から司法書士報酬や相続登記にかかった費用を差し引いた額を相続人で分配する内容の遺産分割協議をするケースがあります。

不動産名義を法定相続の割合で相続人全員の共有名義にして売却すると、売買契約などの際に相続人全員が関与しなければならないため、便宜上一人の名義にして売却するというものです。最終的に売買代金から相続登記にかかった費用を控除して分配するため、相続人全員で司法書士報酬を負担するかたちになります。

2-2. 不動産を相続しない人が支払うケース

不動産を相続しない相続人が司法書士報酬を負担するケースもあります。たとえば父親が亡くなり、一緒に住んでいた母親がその不動産に引き続き住むケースでは、母親の名義に相続登記をすることも多いです。この場合、年金暮らしの母親の負担を考えて、司法書士報酬や相続登記にかかった実費を息子や娘が支払うかたちもよく見受けられます。

一方、相続しても管理しにくい不動産や売却が難しい不動産においては、取得してもデメリットしかない場合もあります。このようなケースでは、不動産名義を自分にする代わりに司法書士報酬や相続登記にかかる実費をほかの相続人に負担してもらうこともあり得ます。

3. 相続登記の司法書士費用はいつ払う?

司法書士への報酬をどのタイミングで支払うかについては、実際に依頼する事務所によって異なるものの、登記手続きの完了時に支払うケースが一般的です。ただし、書類の準備が終わり、法務局に申請をする前に戸籍謄本などの取得費用や登録免許税といった実費だけを先に支払うよう求めてくる事務所もあります。

3-1. 相続登記にかかる費用を安く抑える方法

このように、相続登記の申請にはある程度の費用がかかります。相続登記にかかる費用を少しでも安く抑えるには、主に以下の5つの方法があります。

3-2. 相続登記の手続きを自分で行う

戸籍謄本などの取得費用や登録免許税といった実費は必ずかかりますが、司法書士への報酬については自分ですべてを準備して登記申請までを行えばゼロ円にすることができます。

ただし、複雑なケースや書類作成に慣れていないケースでは、かなりの時間と労力がかかる点は理解しておきましょう。また、登記申請したあとで不備があれば、基本的には法務局に出向いて補正をしなければなりません。遠方の法務局であればかなりの負担がかかるため、司法書士に依頼しないことのデメリットも認識しておく必要があります。

3-3. 相続登記の手続きの一部を自分で行う

専門的な知識をあまり要しない部分の手続きを自分で行い、自分で行うには難しい部分を司法書士に依頼することで報酬の負担を一部軽減できます。

たとえば、相続関係が複雑でないケースにおいては、戸籍謄本などの収集はさほど困難ではない場合もあります。戸籍謄本の見方や集め方がわからなくても、役所に問い合わせたり、窓口で聞いたりすれば親切に教えてもらえる場合も多いです。また、戸籍の広域交付の制度を利用することで、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せる際の負担をかなり軽減できます。戸籍の広域交付とは、ほかの市区町村役場の戸籍謄本であっても、最寄りの市区町村役場で一括して取得できる制度です。

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3-4. 過去の相続で取得した書類を再利用する

新たに戸籍謄本を取得しなくても、過去に亡くなった親族などの相続手続きに使用したものと重なる部分があれば、それらを再利用できる場合があります。改製原戸籍謄本や除籍謄本は、時間の経過とともに更新されることがないため、次の相続手続きにおいても流用できます。こうした再利用により、戸籍謄本の発行手数料や司法書士への戸籍謄本取得代行の報酬の一部を軽減できる場合があります。

3-5. 複数の司法書士事務所で相見積もりを取る

司法書士報酬に相場はあるものの、依頼する事務所によって多少異なります。そのため、いくつかの司法書士事務所で見積額を比較してみるのも一つの方法です。より正確な見積額を提示してもらうためには、登録免許税の額がポイントとなりますので、見積もりを依頼する際は固定資産納税通知書を持参して計算してもらうようにしましょう。

4. 相続登記を依頼する司法書士の選び方

相続登記を司法書士に依頼する場合、どのような基準で依頼先を選べばよいのでしょうか。主に以下の4つのポイントに注目すべきと考えられます。

相続を専門分野にしている

税理士や弁護士との連携がとれている

親身に話を聞いてくれる

費用が適正でわかりやすい

4-1. 相続を専門分野にしている

司法書士であれば相続登記ができないということは本来あってはいけませんが、実際には相続案件自体の取り扱いが少ない事務所もあります。ホームページなどを見ると、相続登記にどれほど重きを置いているのかがおおよそわかるはずです。相続案件の扱い方や実績をどう発信しているかも参考にしてみるとよいでしょう。 

4-2. 税理士や弁護士との連携がとれている

相続登記の相談を受けていると、司法書士だけではトータルな解決ができない場面があります。代表例としては、相続税の申告が必要なケースや相続人の間で遺産分割について揉めているため、まずはその調整が必要になるケースです。

そのような場合であっても、司法書士が懇意にしている税理士や弁護士に話をつないで、相続登記を含めたトータルな解決をしてくれる事務所があります。それぞれの専門家を自分で探すのは大変ですから、ワンストップで話ができる司法書士に依頼することが重要です。

4-3. 親身に話を聞いてくれる

どの司法書士に相続登記を依頼しても、登記記録に記載される内容は同じです。だからこそ、手続きを行うなかで司法書士の親切さや信頼感が非常に重要になります。最初の相談の際に話してみた印象や、的確な説明であったかどうかなどを基準に選ぶとよいでしょう。

多くの司法書士事務所が初回の相談を無料としているため、まずはこのような無料相談を利用して実際に司法書士に会って話してみることをお勧めします。

4-4. 費用が適正でわかりやすい

司法書士事務所のホームページを見ていると、報酬がわかりにくいものもあります。「相続登記5万円~」などと記載されていても、実際には登記申請分の報酬が5万円で、ほかに遺産分割協議書の作成費用や戸籍謄本の取得代行報酬などが加算され、予想以上に高い金額を請求されるケースがあります。依頼の際に総額でどのくらいかかるのかをしっかり提示してくれる事務所を選ぶのが望ましいです。

5. 相続登記の司法書士費用に関してよくある質問

Q. 相続登記の費用はクレジットカードで支払える?

相続登記にかかる費用の中にはクレジットカードで支払えるものもあります。

【登録免許税】
クレジットカードで納付できます。

【必要書類の取得費】
自治体によっては戸籍謄本などの郵送請求にクレジットカード決済が使える場合があります。ただし、一般的ではありません。請求先の自治体に、事前に確認することをお勧めします。

【司法書士費用】
クレジットカード決済に対応している事務所もありますが、現金払いのみの事務所もあります。依頼する際に直接確認してください。

6. まとめ|相続登記に詳しく信頼できる司法書士に相談を

相続登記の費用は「登録免許税」「申請に必要な書類の取得費用」「司法書士への報酬」の3種類に分けられます。相続登記を司法書士に依頼した場合の報酬の相場は8万円~10万円前後で、不動産を相続する人が支払うケースが多いと言えますが、ほかのケースも見受けられます。

相続登記の手続きを自分で行えば、司法書士への報酬はゼロ円に抑えられますが、一方で一定の労力と時間がかかります。司法書士に依頼したい場合は、「相続を専門分野にしている」「税理士や弁護士との連携がとれている」「親身に話を聞いてくれる」「費用が適正でわかりやすい」といった点を重視しましょう。理想的な司法書士を探すうえでは、「相続会議」のようなポータルサイトを活用するのが便利です。

(記事は2024年8月1日時点の情報に基づいています)