ミステリー小説の大家として知られる作家・松本清張は、「点と線」、「ゼロの焦点」、「砂の器」など数多くの名作を世に残し、その多くの作品が映像化されている。

重層的なストーリーもさることながら、舞台となる土地や人物造形の秀逸さ、社会や世相を巧みに捉えたリアリティあふれる背景など、清張作品は映像化に適した要素が満載。そんな数多の清張ミステリーの中でも、「白い闇」という短編は屈指の名作だとファンの間でも評価が高い。人気推理作家・有栖川有栖をして、「当時の推理小説のひとつの完成形」とまで言わしめている。

本作は1959年にTBS系でドラマ化されたのを皮切りに、計8回映像化されている。中でも、1977年にTBS系で放送された日曜劇場「白い闇」は、視聴率21.5%を記録し、傑作と評されてDVDも発売されている。DVDは松本清張の生誕100周年を記念し、過去の作品の中から選りすぐりのドラマを収めた傑作選に選定されたもの。吉永小百合が主演を務めたが、吉永が清張作品に出演したのは本作が初めてのことだった。

夫が突然行方不明となってしまった小関信子(吉永小百合)は、従弟の高瀬俊吉(草刈正雄)に相談する。俊吉の話では夫には田所常子(二木てるみ)という女がいたことを知らされた。そんなある日、常子の兄だという男・白木淳三(井上孝雄)が上京し、信子は常子が白骨死体となって発見されたことを知る。常子の死は自殺と断定されたらしい。夫の行方が分からないまま、信子の心は次第に俊吉に傾いていった。俊吉も以前から信子に思いを寄せていたのだ。やがて2人は、夫の出張先をたどりながら旅に出るが...。

旅の中で距離を縮める俊吉(草刈正雄)と信子(吉永小百合)

本作の魅力は、まずは清張原作の良さを存分に生かしたストーリーの妙だ。ショッキングで興味を引かれる発端から、2人が旅をする映像の魅力と、旅路の中で次々と浮かび上がる衝撃的な事実、そして最後に待ち受ける意外な結末。どれをとっても完成度が高い。脚本を手掛けたのは、隆巴。名優・仲代達矢の妻でもあり、俳優養成所・無名塾の創設者である。吉永小百合が草刈正雄と本格的な共演をしたのも初めてだったが、当時20代半ばの若さだった草刈の容姿の美しさは当時の俳優の中でも群を抜いていた。吉永は当時32歳だったが、際立つ美貌に加えて10代からトップ女優だっただけに既に貫禄の演技力を誇っていた。そんな吉永が、本作では複雑な心情の変化を要求されるヒロイン役を表現力たっぷりに巧みに演じている。

ちなみにタイトルの「白い闇」とは、本作の重要な舞台となる霧の十和田湖を意味し、牛乳のような霧に包まれた湖を背景に、殺人犯を執拗に追い詰めていくカップルの姿を映像美と共に鮮やかに描き出している。

松本清張作品の中では、「白い闇」は短編ということもあって「砂の器」などと比較して知名度は高くないものの、前述した通りに小説としての完成度はピカイチ。8回も映像化された事実からも、優れた原作であることが窺い知れる。

ちなみに本作以外で歴代の信子役を演じた女優には、第1作の乙羽信子をはじめ、月岡夢路、吉行和子、音無美紀子、大竹しのぶという錚々たる顔ぶれがいる。いずれも昭和期を彩った名女優たちであり、演技力に定評のある人ばかりだ。もちろん、吉永小百合は名実ともにその中でもひけを取らない大女優だ。彼女をキャスティングしたのは、敏腕で名を馳せた石井ふく子プロデューサーのこだわりだったろう。

吉永は後に女優業を映画にフォーカスしてドラマに出演しなくなったこともあり、本作は希少価値が高い作品だ。この度TBSチャンネル2で放送されるのは、清張ファンやサユリストならずとも嬉しい。草刈正雄の類まれな魅力と共に、この機会に清張ミステリーの醍醐味をじっくり味わってみてほしい。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

白い闇
放送日時:10月26日(水)07:00〜
放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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