円高で物価上振れリスクは相応に減少、政策判断に「時間的余裕」=植田日銀総裁

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Takahiko Wada Kentaro Sugiyama

[東京 20日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は20日、金融政策決定会合後の記者会見で、8月以降の為替円高を踏まえると「年初以降の為替円安に伴う輸入物価上昇を受けた物価上振れリスクは相応に減少している」と指摘、政策判断に当たって、市場不安定化の背後にある海外経済の状況を確認していく「時間的な余裕はある」と述べた。

植田総裁は、経済・物価見通しが実現していけば、それに応じて政策金利を引き上げ、金融緩和度合いを調整していくことになると改めて話した。その一方で、米国をはじめ海外経済の先行きは不透明で、金融資本市場は引き続き不安定な状況にあるとし、経済・物価の見通しが実現する確度に及ぼす影響をしっかり見極めていくと述べた。

米国経済について「ソフトランディングをメインシナリオとみていることに変わりはない」と述べる半面で、8月初め以降の米経済指標は若干弱いものが続いているとして「リスクは少し高まっている」と指摘。米景気がソフトランディングするのか、調整が強まるのか、米連邦準備理事会(FRB)の大幅利下げを必要とした上でのソフトランディングなのか見極めていきたいと話した。

一方で「物価安定目標の持続的・安定的な実現のためには、それと整合的な形で賃金が上昇を続ける必要がある」と述べた。人手不足感が高まる中、企業収益が好調であることも踏まえると「来年の春季労使交渉でもしっかりとした賃上げが続くことが期待できる」と述べた。

日銀は19―20日に開いた金融政策決定会合で、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.25%程度で維持することを全員一致で決定した。景気の現状判断や基調的な物価の見通しを維持する一方で、個人消費の現状判断を引き上げた。

植田総裁は、経済指標などからみる個人消費は緩やかな増加基調で、所得環境の改善も続いていると指摘。日本経済は足元で「われわれの見通し通りに動いてきている」との見解を示した。

データ等が見通し通りに推移していけば少しずつ利上げしていくという基本的な考え方に変わりはないものの、決まったスケジュールやペースがあるわけではなく、「ある程度まとまった情報が得られたと判断できたところで都度次のステップに移るということにならざるを得ない」と語った。

植田総裁は、中立金利の推計はかなり幅のあるものだと改めて説明した。その上で「中立金利の幅の中に入る可能性が高くなっていくほど、注意深く、利上げの及ぼす影響を見極めつつやっていくことになる」と話した。

7月会合後に金融市場が不安定化した一因として日銀の考え方が十分に伝わっていなかったとの批判があることは「承知している」と述べた。その上で「引き続き私どもの経済・物価情勢に関する認識と、それに基づいてどのように政策運営をしていくかという考え方を丁寧に説明していく」と語った。

現在行われている自民党総裁選について、候補者一人ひとりの金融政策に関する発言にコメントすることは控えるが、「新政権とはこれまでと同様、十分に意思疎通を図っていければ」と述べた。