Photo: Nathan Angelakis

BUSINESS INSIDER 2024年8月18日掲載の記事より転載

・ビデオカメラを装着したオーストラリアのアシカたちが海底の全く新しい世界を見せてくれた。

・映像には海綿動物やサンゴ礁、海藻が広がる、驚くほど多様な生息地の様子が捉えられていた。

・アザラシやイルカ、アシカにカメラを装着して撮影した映像は、科学者が海の未知の部分をマッピングするのに役立っている。

アシカは科学者に海の秘密を教えてくれている。

人間は世界の海の約5%しか調査できておらず、野生の海の生物を研究できる範囲は限られている。だが、イルカやアザラシのような大型の捕食動物が研究を手助けしてくれている。

オーストラリアの研究チームが、8頭のメスのアシカに小型のビデオカメラを装着してもらったのもそのためだ。

8頭のアシカたちは皆、子どもを育てているので、大陸棚の浅瀬で魚やタコ、小さなサメをとったら、子どもの世話をするために戻らなければならない。

おかげで研究チームはアシカの視点で撮影された89時間分の映像を手に入れることができ、これまで誰も見たことのないオーストラリア南部沖の未知の海底の様子が明らかになった。

これはこの海域の海洋生物を理解するのに役立つとともに、新たな発見につながるだろう。

アシカの視点で海を見る

Angelakis et al. 2024

生命であふれている海底の映像を見たアデレード大学の博士課程の学生で、南オーストラリア研究・開発研究所(SARDI)で研究しているネイサン・アンジェラキス(Nathan Angelakis)氏は「アシカの生息地の多様性には本当に驚いた」とBusiness Insiderに語っている。

アンジェラキス氏によると、アシカは海綿動物や海藻、サンゴの間を「ジグザグに進んで」長い距離を移動していたという。こちらの動画では、アシカの冒険の一部を垣間見ることができる。

この海底での発見に関してアンジェラキス氏が共同執筆した論文が、学術誌『Frontiers in Marine Science』に8月7日に掲載された。

「海底に何があるのか… むき出しの砂地が広がっているのか、海藻がたくさん生えているのか、全く分からなかった」とアンジェラキス氏は話している。

そして、今回撮影されたのは海底のほんの一部にすぎない。この海域にはもっと大規模な、未知の海綿動物やサンゴの生息地があるかもしれない。

新たな生息地や種の発見がアシカの保護につながる

Angelakis et al. 2024

このような研究は、海底の生き物のすみかを保護するための大切な一歩となる。人間の活動と地球の温暖化によって、わたしたちが知っているサンゴ礁は破壊されつつあり、世界中の科学者たちはサンゴ礁を救う方法を見い出そうとしている。

海洋生物の生息地を守るには、まずそこに何があるのかを知る必要がある。カメラがその姿を捉えた海綿動物や無脊椎動物の中には、科学的に未知の種が含まれている可能性もある。というのも、海底の生息地には特定の限られたエリアにしか存在しない固有種がいることが多いからだ。

アシカが撮影した映像には彼らにとって最も重要な生息地が映っており、それを利用して海底の地図を作成することは極めて価値がある。

アンジェラキス氏はこの89時間分の映像を全て見た。1時間の映像を分析するのに約3時間かかったという。それぞれのアシカのGPSデータと映像を照合し、捕獲した生き物を特定したり、生息地を分類したり、アシカの特定の行動を類型化しなければならなかった。

ただ、仕事をしている感覚はなかったという。

「アシカの背中に乗って、全く違う世界を見ているようだった」とアンジェラキス氏は語った。

「アシカが見ているのと同じように海を見ることができた」

Photo: Nathan Angelakis