これ、できるようでなかなかできませんよね。恥ずかしい、ガツガツしているみたい、など守りに入ってしまうのが世の常。トライ&エラーなしに、本気の婚活はありえません。

「自分の中で『いい人』と思ったら、まず結婚できるかどうか聞いてみるという行動を繰り返しました」という影木さん。

影木さんには、「一人で生きていく分だけの体力(お金)」はあります。「でも、お互いに困ったときに支え合えるって理想的じゃない?」。これは、影木さん独自の口説き文句です。

自分の意思を明確にして、大胆かつ的確に行動に移しました。やがて影木さんの願いは実を結びます。婚活を開始して4年後、現在の伴侶と出会うのです。

◆全方位から疑い、ついに結婚

なじみのマッサージ屋さんからの紹介、というつながりで、影木さんはご主人と知り合いました。LINEのやりとりは「堅苦しくて真面目だった」そうですが、会ってみると感じがよくて気遣いも好ましく、さらにオタク気質。

バツイチで1歳年上の鍼灸マッサージ師という彼もまた、「将来一人でいることが不安」と考えていたそうです。価値観も似ていて、あとは籍を入れるだけ、というほどの好条件ですが、影木さんも伊達(だて)に人生経験を積んではいません。確認すべき事柄はまだあるのです。

「バツイチにはいいバツイチと悪いバツイチがいる」

浮かれる前にここをチェック。離婚原因が当人の浮気やモラハラやギャンブル癖だったら、先を進むのはNG。慰謝料や養育費がある場合はお財布事情が苦しいかもしれませんし、多額の借金は論外です。

彼はこれを見事にクリア。離婚原因は元妻の浮気で、むしろ慰謝料をもらう側だったのだとか。

「まず疑う」が信条だった影木さんは他にも「実は景子ちゃん(北川景子さん)のファンなんじゃないか」「一周回ってDAIGOのファンかもしれない」「竹下の地盤を利用して選挙に出馬」など、本人にしつこく尋ねたそうです。もちろんオールクリア。

出会ってわずか10ヶ月で入籍、結婚という運びになりました。

◆お互いがハッピーになれる結婚って?

「実家で暮らして父ちゃんの最期を看取る」

これは影木さんが実家に戻る時にした決意で、揺るぎないものでした。つまり「別居婚」が前提の婚活だったのです。

「別居婚」を選んだもうひとつの理由は、影木さんの職業にあります。漫画家ですから、どうしてもひとりで集中する時間が必要になります。

影木さんは50歳、夫は51歳。ひとりが長い者同士、いきなり一緒に生活するのも窮屈(きゅうくつ)かもしれません。実際、ふたりの生活スタイルはかなり違うといいます。

夫にとっても好都合だった別居婚ですが、影木さんの実家から徒歩5分のところに引っ越してくれました。まさにスープの冷めない距離。必要な時にはそばにいてくれるし、恋人気分のまま結婚生活を送れるのです。

「財布は分けるべき」「仕事が第一主義」など、影木さんの条件はまだありましたが、彼はすべて飲んでくれました。

お金、生活スタイル、家族のこと、事細かく話し合った末に結論を出したのです。これは結婚のその先、病める時も健やかなる時も、お互いを最良で最高のパートナーとして過ごすために、必須なベースではないでしょうか。

結婚は、甘いだけの夢ではありません。本書には、大人の女性が苦心してつかみとった世界でひとつだけの結婚が描かれているのです。

<文/森美樹>

【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx