【リレーエッセイ「ラブレター from 酒場」】地元の好きな店/スズキナオ

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 私は大阪に住んでいるのですが、地元は東京・中央区の浜町という町です。「中央区」というと、いかにも中心地という感じで、「いい所に住んでいたんですね」と言ってもらうことが多いのですが、浜町は隅田川のほとりの、区域の端っこで、昔はそれほど賑やかな場所ではありませんでした。

「浜町公園」という割と広い公園があり、そこが唯一の近所の遊び場という感じで、あとはもう、隅田川の向こうの江東区や墨田区に行った方がいろいろあって楽しかった記憶があります。

 なので、自分の地元というと、中央区の端の浜町から人形町あたりと、あとは江東区の森下近辺という感じがします。

 で、今回はそんな地元の犢イな店瓩砲弔い峠颪たいのですが…これがあまり思い浮かばないんですよね。「生駒軒」といういわゆる町中華的なお店が人形町の甘酒横丁という通り沿いにあって、そこのラーメン(特にタンメン)は大好きで、東京に行く度に食べに行きます(パリッコさんとも一度一緒に行けてうれしかったです)。でも、そこでのんびりお酒を飲むということはほとんどしたことがなく、いつもお昼に行くばかりです。

 というかそもそも、地元でお酒を飲んだという経験自体がほとんどないんです。私の父は今も地元で仕事をしているので、仕事帰りにふらっと近くに飲みに行ったりもしているようなのですが、私は高校卒業と同時に地元から少し離れた場所に引っ越して1人暮らしを始めたのもあって、地元で飲むというタイミング自体があまりありませんでした。

 今でも東京に行くと実家に泊るので、地元を歩くこともあるのですが、新大橋通り沿いにある「日高屋」とか、箱崎のシティエアターミナルの中に入っている「福しん」で軽く1杯飲むぐらい。書いていて、我ながらもったいないなと思います。

 あ、1つだけ、よく飲みに行く店を思い出しました。新大橋通り沿いの、半蔵門線の水天宮前駅に近いあたりに「龍盛菜館」という中華料理店があります。検索してみるといくつか店舗が見つかるので、ちょっとしたチェーンなのかもしれません。その「水天宮前店」にはよく行きます。というのも、私の両親や私の妹とその子供たちなども含めた大人数でも入りやすい広い席が店の奥にあって、それがありがたいのです。

 お世話になっておいてなんですが、「この店の何とかっていう料理がめちゃくちゃ絶品!」とか、そういうメニューを求めて行くわけではないんです。あくまで大勢で入りやすいからという。でも、何を注文しても結構おいしい。そして重要なのが、土日は生ビールが290円! このあたりはオフィス街なので、平日よりもむしろ土日が閑散とするんです。それゆえの割り引きがとてもうれしい。

 私の妹はめちゃくちゃたくさん食べる方で、いつもこの店に行くと、例えば6人で10品とか頼むんです。餃子と春巻きとチンジャオロースと青菜炒めとチャーハンと、みたいな。私はそれらをほんの少しずつ小皿にもらって、生ビールを何杯かおかわりして、締めにラーメンを食べて大満足。

 この店、麺類メニューがやたらたくさんあって、「これはおいしい!」と思っても、次に行く時にはそれがどれだったか忘れてしまい、食べながら「いや、これじゃなかったな」と思ったりして、まあそんな気楽な店なんです。地元で一番行くのはそこかなー!

 私の家族は、失礼ながら店名をしっかり覚えておらず、外観が赤い感じなのでいつも「赤い中華」と呼ばせていただいています。あの「赤い中華」、いつかパリッコさんをお連れしたいです! パリッコさんにもそういう、「これがおいしいから、とかではなく行く店」ってありますか?

スズキナオ:東京生まれ、大阪在住のフリーライター。著書に「遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ」「『それから』の大阪」他。最新刊「家から5分の旅館に泊まる」が絶賛発売中。