「やや大袈裟かもしれないが、藤田(譲瑠チマ)はロドリ(マンチェスター・シティに所属し、ユーロ2024では優勝したスペイン代表で大会MVPに選ばれた現代最高のプレーメイカー)を彷彿とさせた」

 スペインの慧眼、ミケル・エチャリはそう言って、パリ五輪開幕戦、日本がパラグアイを5−0と下した試合を振り返っている。開口一番、藤田を激賞するほどの高評価だった。

「日本はすばらしい勝利だったが、藤田がそのプレーを担っていた。中盤で正しい位置を見つけ、ボールを受け、捌き、あるいは力強く前に運ぶ。その技量において、藤田は傑出していた。パラグアイを苛立たせ、焦らせ、手も足も出させなかった。パス出しにセンスがあり、プレーに落ち着きがあって、さらに体格にも恵まれている。日本のフル代表は長くスカウティングしてきたが、ひとつの発見だった」

 エチャリが、ほとんど手放しでプレーメイカーを称賛している。その意味はとてつもなく大きい。たとえば、育成年代では評価がそこまで高くなかったシャビ・アロンソ(元スペイン代表。現レバークーゼン監督)のプレーセンスを、レアル・ソシエダでいち早く見出したのが、当時、ダイレクターだったエチャリだった。そんな目利きが、藤田をロドリと比較したのだ。

 ちなみにエチャリの一番弟子と言えるのはフアン・マヌエル・リージョ(元ヴィッセル神戸監督)だが、そのリージョはロドリが所属するシティを率いるジョゼップ・グアルディオラの師匠であり、現参謀である。

「日本は藤田のいる中盤がパラグアイを制圧することによって、試合の行方を決定づけた」
 

パラグアイ戦で日本の中盤をコントロールしていた藤田譲瑠チマ photo by JMPA

 そう繰り返したエチャリは、試合のディテールをどう分析したのか?

「大岩剛監督が率いる日本は、4−3−3というフォーメーションを選択していたが、実にいい運用を見せている。ふたりのインサイドハーフとふたりのサイドアタッカーは常に斜めに動き、相手を撹乱。その一方で、それぞれがいるべきポジションを失わず、攻守両面で優位を成立させていた。序盤、ポゼッション率自体はほぼ互角だったが、日本のほうが積極的に敵陣に入っている。

 これは冒頭に書いたように、藤田が中盤の攻守でリードしていたのが大きいだろう」

【各選手がよく戦いを理解していた】

「前半19分、日本は左サイドを破って、折り返したところを三戸舜介が確実に決めている。その後も、パラグアイにリズムを与えていない。中盤での争いに敗れた相手選手がストレスを溜めたところだった。25分、背番号10のワイルダー・ビエラに平河悠が足を暴力的に踏まれ、レッドカードを誘発。敵をひとり少ない状況に追い込んだ(平河は負傷交代を余儀なくされ、気の毒だった)」

 日本は先制に成功し、11人対10人の状況を作り出したのである。

「日本はチームとして見事な戦いをしていた。各選手がよく戦いを理解していたと言える。

 たとえば両サイドバックは、守備だけでなく、攻撃でタイミングよく奥深く攻め込むことができて、それを組織の中でやってのけていた。ふたり(関根大輝、大畑歩夢)とも、チームプレーヤーとしての能力が高い。また、ふたりのセンターバックも出来がよく、特に木村誠二はよく集中していた。それはいいセンターバックの資質である。

 前線では細谷真大が、相手センターバックをしばしば引き連れることによって、味方にスペースを与えていた。その点、"周りを生かす"という戦術的な動きは及第点を与えられるだろう。ただ、欲を言えば、ストライカーとしての怖さも見たかった。

 やや不安だったのは、GK小久保玲央ブライアンの軽率さか。前半終了間際、不必要な時間稼ぎでカードを受けていたし、後半頭にはビルドアップのミスが味方のイエローカードにつながってしまった。上位に勝ち上がるほど、こうしたミスは大きなツケを払わせられることになるだろう」

 エチャリはそう言って、いつものように建設的な指摘をしながら、将来性のあるチームを称賛した。

「後半18分、左からのクロスを三戸が押し込み、試合の流れは決定づけられたと言えるだろう。その約5分後には追加点で3−0に。ひとり少ないパラグアイの心を折った。

 交代で入ったFWの藤尾翔太は、前線に活力を与えていた。ヘディングがうまく、カウンターにおけるストライカーとしての怖さも見せている。彼が2得点したのは偶然ではない。興味深いFWだ。

 今回の五輪代表メンバーは、これから少しずつフル代表に加わっていくだろう。パラグアイ戦を見た限り、日本サッカーの前途は明るい。技術やスピードだけでなく、戦術レベルも高く、戦力に厚みを与えられるはずだ。

 もっとも、若いチームだけに、注意深く見守る必要はあるだろう。まずは次のマリ戦、どのように戦うのか。日本サッカーの未来と現状を見極めたい」