U−23日本代表には言い訳が多々あった。相手のフランスは開催国。3人のオーバーエイジ枠も、ロイク・バデ(セビージャ)、ジャン=フィリップ・マテタ(クリスタルパレス)、アレクサンドル・ラカゼット(リヨン)という著名な選手が招集されている。優勝候補の一角と言っていい格上だ。対する日本は文字どおりのU−23。昨日、現地に集合したばかりということでアウェーのハンデも膨らんでいた。

 スコアは1−1。強者相手に善戦した。ひと言で言えばそうなるが、内容的にはスコア以上の開きがあった。フランスには、決めて当然という決定機を逃すシーンが3度ほどあり、1−3、1−4で終わっても不思議でない、一方的な展開だった。そこを1−1で収めたのだから、よくやったと言えるのかもしれないが、そう言ってしまうと可能性の低さを認めることになる。相手の猛攻をしのぎ、ドローに持ち込んだことを善戦だと評価するか、落胆すべきか、評価は捉え方次第で大きく変わる。

 シュートは、前半25分に藤田譲瑠チマ主将が放った先制弾を含む3本に終わった。それに至る過程も、相手GKとDFの連係ミスに乗じたものだった。三戸舜介がビルドアップの過程でボールを奪い、そのヒールパスを受けた藤田がゴールに流し込むという、よく言えばプレスの産物。自らチャンスを構築し、シュートに持ち込むという建設的な攻撃機会はゼロだった。この原因をアウェーのハンデ、コンディションおよび相手の強さにすべて委ねるのは情けない。

 日本の先発メンバーを紹介すれば以下のとおり。

 GK小久保玲央ブライアン、CB高井幸太、木村誠二、左SB半田陸、右SB関根大輝、守備的MF藤田譲瑠チマ、インサイドハーフ山本理人、三戸舜介、左ウイング斉藤光毅、右ウイング平河悠、1トップ藤尾翔太。


五輪前のテストマッチで開催国フランスに1−1で引き分けた日本代表 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 1−0で折り返した前半は、むしろフランスのほうを心配したくなる展開だった。身体能力に優れた大型選手が配置された中盤ダイヤモンド型4−4−2(4−1−2−1−2)の布陣どおり、攻撃が真ん中に固まる非効率に陥った。よく言えばダイナミックだが、悪く言えば荒っぽい、どこかユーロ2024を戦ったフランスのA代表とも共通する、身体能力至上主義的なサッカーである。局面で発揮される日本選手の細やかなボール操作に慌てるシーンもあった。

【引っかかった1トップの起用法】

 大岩剛監督は、後半の頭から3人を入れ替えている。ひとつは関根と大畑歩夢の交代で、大畑を戦術的交代で左SBに回し、前半左SBを務めた半田を右SBに回した。残るふたつは木村と西尾輶矢、藤尾と細谷真大のシンプルな入れ替えだった。フランス戦と言ってもしょせんはテストマッチ。本番ではない。できるだけ多くの選手を使い、五輪本番の中2日の強行軍に備えようとする日本ベンチの狙いに共感することはできた。

 しかし、日本はまさにそのタイミングでフランスの同点弾を許した。後半開始2分。交代で入るや右のウイング然と構えたマグネス・アクリウシェ(モナコ)が、対峙する大畑を相手に仕掛けの動作から中央へボールを送ると、オーバーエイジのFWラカゼットがヘッドで落とす。それを2トップ下で構えるミカエル・オリーズ(バイエルン)に蹴り込まれた。3人を入れ替えたことで後半の入り方を間違えたという印象である。大畑とアクリウシェの関係に、特にそれは見て取れた。

 選手交代を優先するが故のテストマッチにありがちな、仕方のない失点と捉えることはできる。だが、ここで失点していなくても、その後の流れを見ればいずれ失点した可能性は高い。嘆くべきはフランスに同点弾を許したことよりも、日本がきちんと攻められなかったことだと考える。

 ほぼ中2日で6試合を戦う五輪において、ベストメンバーはあってないもの。スタメンとサブの境界はないに等しいと考えるべきだろうが、それでもこのフランス戦に先発した11人は、これまでの経緯を辿れば、基本線となるベストに近い布陣に見えた。

 そのなかで唯一、引っかかりを覚えたのが、細谷ではなく藤尾が起用された1トップになる。大岩監督の中で1トップの優先順位は変化したのだろうか。前半プレーした藤尾の出来が特段よかったわけではない。しかし後半、細谷が入ると、事態はさらに悪い方向に進んだ。後半のほうがチャンスは構築しにくくなっていた。

【余裕があった藤田譲瑠チマ】

 そもそも細谷は何度、ボールに触れたのか。細谷は実力者ではあるが、1トップを張るタイプではない。CFとしては幅の狭い選手だ。高いマックス値を発揮することもあるが、展開によっては沈黙する。藤尾が先発を張る姿に、大岩監督の優先順位の変化を見る気がした。

 藤尾は1トップ兼ウイングだ。細谷についてもウイングができないと将来的に苦しくなる。このフランス戦を見て、よりその思いを強くすることになった。

 これまで戦ってきた相手より、フランスは明らかに上だった。選手の能力、調子を推し量るにはいい機会となった。

 よかった選手を挙げてみたい。先制弾を挙げた藤田は終始プレーに余裕があった。アシスト役を演じた三戸も同様。相手に囲まれても安心して見ていられた。守備機会の多かったGK小久保、CB高井、そして右ウイングとして先発し、後半は戦術的交代で左に回った平河も健闘した。軸として使える確信を抱かせた。その他の選手も、強者相手に混乱し、パニックに陥ることはなかった。それが1−1で終えることができた理由だろう。

 オーバーエイジを含まないチームは、蓋を開けてみれば、全16チーム中、日本だけだった。メンバー発表の席上で山本昌邦ナショナルチームダイレクターはその招集の難しさを口にしたが、他国はそうしたなかでも結果を求め、18人の枠内にオーバーエイジを入れ込んできた。

 唯一、権利を放棄した日本の選択が、ひときわ目立つ恰好だ。それが協会の潔く賢明な選択だったのか、努力不足なのか、検証する必要は大いにあるが、それはともかく、選手も監督も、この自らの特殊性についてはすでに十分、認識しているはずである。

 パスワークに1トップをどう絡めるか。筆者が以前から指摘している点は、根の深い問題として残る。一方で、辛うじてとはいえ、強者フランスに最後まで大崩れせず、決勝弾を許さなかったことは大きな自信になるのではないか。このタイミングで大敗をすれば、大会を前に自信を喪失するところだった。1−1で終えてよかったとはいうのが正直な感想だ。チャレンジャー精神を高める結果になったと考えたい。

 唯一、オーバーエイジがゼロの日本がパリ五輪でどこまでやるか。これから始まる実験を見るような気分である。