吉野家といえば牛丼のはずだが…(公式ホームページより)

写真拡大

吉野家もついにタブレットを導入

 筆者は週に2〜3回は店に足を運ぶほど、「吉野家」の牛丼が大好きなヘビーユーザーである。他店には目もくれず、とにかく吉野家にばかり行く。そして、基本的に注文するメニューは牛丼並盛と生卵である。なお、少しリッチな気分を味わいたい時は生卵を半熟卵に変更することもある。特に、原稿を書き上げた後に味わう牛丼はたまらないのだ。

【実録】看板商品なのに…「吉野家」のタブレットで牛丼と生卵を注文するまでの長すぎる道のり

 さて、牛丼チェーン店の注文方法は店によって様々だ。松屋のように事前に券売機で食券を購入するパターンが増えている一方、吉野家は店舗によって細かく注文方法が異なる。とはいえ、基本的には、店員に「牛丼並盛と生卵」と伝えればオーダーが通り、食後に会計するという流れであった。いわば、吉野家がもっとも古典的なやり方で注文を受けていたといえる。

吉野家といえば牛丼のはずだが…(公式ホームページより)

 そんな吉野家にもついにタッチパネル式のタブレットが導入されはじめた。すべての店で導入されているわけではないが、筆者の自宅(埼玉県内)の近所にある吉野家3店のうち、2店はタッチパネルが導入済みである。ちなみに、新しく開店する店は最初からタブレットを導入しているようだし、既存店も改修に合わせて設置する例が多いようだ。

 深刻な人手不足の影響もあり、タブレットの導入は時代の流れだと思う。しかし、この吉野家タブレット、異様に使いにくいのである。使いにくいせいで、注文に時間がかかる。これまでは店員に「牛丼並盛と生卵」と伝えれば3秒で済んだ注文が、タブレットが導入されたことで優に1分はかかるようになってしまった。

時間がかかる理由は明確だ

 なぜ、そんなに時間がかかるのか。

 実際にタブレットを操作すればすぐに理解できるはずだ。端的に言えば、「トップページに牛丼の注文ボタンがない」のだ。牛丼の“牛”の字すらない。カレーや定食などの高価格帯のメニューばかりが表示され、筆者が一番食べたい牛丼がないのである。

 吉野家はカレー屋でも唐揚げ屋でもない。牛丼屋であるはずなのに、牛丼がトップページにないとは、いったいどういうことなのだろうか(ここは重要なので強調したい)。

 牛丼を注文するためには、トップページから「おすすめメニュー」もしくは「すべてのメニューを表示する」のボタンを押し、そこからさらに画面をスクロールして“牛丼”のボタンに辿り着く必要がある。既に述べたように、筆者は牛丼に“生卵”をつけたいのだが、そこでも壁が立ちはだかる。タブレットが最初におすすめしてくるのは、サラダやみそ汁などがついたセットメニューなのだ。

 筆者がそんな高価格帯のセットメニューを頼めるはずがないだろうと言いたくなるが、それはさておき、再び画面を操作して生卵を探さなければならないのは面倒である。吉野家は「早い」「安い」「うまい」をウリにしている。今まで通り口頭で注文すれば早く出てきてすぐに食べられたのに、タブレットの操作にてこずると「早い」というメリットが損なわれてしまうのだ。

トップページに「牛丼」があればいいだけ

 タブレットのメリットももちろんある。例えば、昼食の時間帯などで店内が混雑している時には、店員を呼ばずに注文できるので利便性が高い。しかし、それ以外の時間帯は店員に口頭で伝えた方が絶対に早いうえに、楽なのだ。

 せめて、トップページに牛丼のメニューを表示してくれていれば、何も文句はない。ちなみにすき家もタブレットを導入しているが、トップページに牛丼の表示があるのでありがたい。吉野家もこれを見習ってほしいのである。そして、生卵(と、半熟卵)の注文がサッとできるようにしてほしいのだ。

 既に述べたように、吉野家ではタブレットが導入されていない店もまだある。移行期であるため、店員も、客も、まだ十分に使い慣れていないように思うし、店側も柔軟に対応している。筆者の近所の吉野家タブレットが導入されているが、高齢者の利用が比較的多いこともあってか、口頭でも注文できるようになっている。

 しかし、昼過ぎに都内のある店舗に入ったら、店内に客が誰もいなかったので店員に口頭で注文しようと思ったら、「注文はタブレットをお使いください」と全力ですすめられてしまった。これには参った。「お客さんがいないんだから、口頭でもいいじゃないですか」などと言うとモンスタークレーマーのようになってしまうので、グッとこらえてタブレットを操作したが、何度やっても使いにくいと感じた。

電子機器のせいで不便になっている

 人口減少などもあって労働力の確保が難しくなっている令和の時代、タブレットは飲食店の必須アイテムになるだろうし、目にする場面も増えていくことだろう。筆者は合理化には理解を示すし、致し方ないと考える。しかし、導入するからには操作性をもっと検討してほしいものだ。

 本来、便利であるはずのタブレットが煩わしく、人間がやっていたことの機能を十分に代替できていない事例が目立つのである。JR東日本のみどりの窓口の削減に批判が集まったのも、窓口のかわりに推奨されている「えきねっと」などのアプリや指定席券売機がとにかく使いにくいためであった。これでは本末転倒である。

 ところで、日本企業や政府が開発したアプリは何かと使いにくいものが多いと感じるのは筆者だけだろうか。直感的に操作できるようにしてほしいのだが、余計な広告がでてきたり、おすすめ商品の画面が出てきたりして、目的とする画面までスムーズにたどり着けないのである。

 IT関連の商品やサービスは、人がやっていたときよりも便利で使いやすくなったものは歓迎され、一気に普及していく。しかし、どうにも人にやってもらったほうが便利な例はまだまだ多いようだ。吉野家さん、これからも通い続けますので、どうか、タブレットのトップページに“牛丼”を置いていただけますでしょうか。これだけは切に要望したいのである。

ライター・宮原多可志

デイリー新潮編集部