パリ五輪ハンドボール男子日本代表入りした藤坂尚輝【写真:編集部】

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パリ五輪の男子日本代表14人を発表

 日本ハンドボールの超新星が、五輪に挑戦する男子日本代表にサプライズ選出された。日本協会は28日、36年ぶりに予選を突破して臨むパリ五輪の代表14人を発表。東京五輪以降、主将としてチームの急成長をけん引してきた東江雄斗(30=ジークスター東京)が落選し、代わって公式戦代表経験ゼロの21歳、藤坂直輝(日体大)が名を連ねた。

 驚いたのは、まさかの選出となった藤坂だ。「びっくりしました。ここ(会見場)に来るまで、信じられなかった」。これまでの代表合宿に参加したことはあるが、公式大会のメンバー入りはなし。「こんなすごい選手たちと並んで会見するなんて」と戸惑いさえみせた。

 16日から都内で始まった強化合宿に参加したのは19人。五輪代表は14人と狭き門だ。ハンドボールの1チームはGK1人とCP(コートプレーヤー)6人の計7人で、基本的に1ポジションにつき枠は2。藤坂と東江はCB(センターバック)で、同じCBには今やチームの大黒柱でもある安平がいる。

「東江さんは中学生の時からの憧れ、安平さんは日体大1年の時の3年で、目標の選手。パリは意識したけれど、合宿のメンバー表を見た時は(代表入りは)無理だなと思いました」と藤坂は明かした。

 それでも、サプライズは起きた。サッカーでいえば遠藤航、バスケットボールなら富樫勇樹が外れるようなもの。それも、代わって入ったのが代表経験がほとんどない大学生の藤坂。マイナー競技で世間の関心度は低いが「ハンドボール界の中だけで言えば、サッカーW杯のカズ落選くらいの衝撃かもしれない」とまでいう関係者もいた。

 オルテガ監督が「プロとして、難しい決断だった」というほどギリギリの選考だった。当初20日の発表予定は「見極める時間がほしい」という同監督の要望で28日に延期。「東江か藤坂かは、最後まで悩んでいたと思う」と帯同する荷川取義浩ハイパフォーマンスディレクターは言った。

 この合宿でも主将を任されていた東江は、26日の公開練習の時もチームの中心としてインタビューに答えながら「選ばれるか、必死。(主将に指名されても)代表の座が約束されたわけじゃないので」。今一つ調子が上がらなかった30歳のベテランの前に、23歳の安平はもちろん、21歳の藤坂も立ちはだかったというわけだ。

藤坂に「秘密兵器」としての期待「東江さんの分までやらないと」

 もちろん、藤坂の能力は一級品だ。司令塔として抜群のスピードを誇り、自らゴールもあげる。昨年の世界ジュニア選手権では日本人として初めて得点王も獲得。8月のパリSGとの親善試合で初めて日本代表のユニホームを着ると、わずかな時間で鮮やかなゴールも決めてみせた。

 オルテガ監督は体格に勝る欧州の強豪を相手に「日本人のスピードとハードワークを生かしたハンドボールがしたい」と話す。司令塔としてチョイスしたのは、経験と安定感の東江ではなく、若さと速さの藤坂だった。攻撃のリーダーが安平であることは変わらないが、控えとしてリズムを変え、大黒柱の負傷などにも備える。代表経験がないのは、相手にデータがないということ。「秘密兵器」としても、藤坂の役割は大きい。

 この日朝、東江は合宿を後にした。日本代表の「魂」をチームに置いていくかのように、選手1人1人を抱きしめ、声をかけた。「思い切りやってこい、って言ってもらいました」と藤坂。「頑張ります。としか返せなかった」と言いながらも「東江さんの分までやらないと」と強い決意を口にした。

 司令塔で精神的支柱でもある主将が五輪直前でメンバーから外れ、代わって代表公式戦経験のない大学生が選出されるサプライズ。「スピードが通用するところを見せたい」と藤坂。五輪は、来春の日体大卒業後にも視野に入れる欧州移籍へアピールの場でもある。(荻島弘一)

◎パリ五輪ハンドボール男子日本代表

▼GK
・中村匠(27=豊田合成)
・岡本大亮(29=トヨタ車体)

▼CP
・安平光佑(24=RKバルダル)
・桜井陸哉(24=トヨタ車体)
・杉岡尚樹(30=トヨタ車体)
・吉田守一(23=ナント)
・部井久アダム勇樹(25=ジークスター東京)
・徳田新之介(28=アル・ドゥハイル)
・渡部仁(34=トヨタ車体)
・元木博紀(32=ジークスター東京)
・玉川裕康(29=ジークスター東京)
・吉野樹(29=トヨタ車体)
・藤坂尚輝(22=日体大)
・高野颯太(25=トヨタ車体)

▼AP(交代)選手
GK 坂井樹(28=大崎電気)
CP 水町孝太郎(29=豊田合成)
CP 笠原謙哉(36=ハルズール)

※年齢は開幕時

(THE ANSWER編集部)