スタイリスト主導&動画ベースのショッピングでラグジュアリーeコマースをディスラプトする、ベティアの計画



ファッション業界20年のベテランのケイト・デイビッドソン氏は、動画ベースのショッピングがeコマースの未来であり、それが高額の購入客を獲得する秘訣になるだろうと予想している。

デイビッドソン氏は3月に、「スマートショッピングアプリ」と彼女が呼ぶベティア(Vêtir)をソフトローンチした。現在、ホームページでは3つの製品カルーセルを介してショッピング方法が3つ提供されている。1つめは、ベティアの高級ブランドパートナーからの最新製品を紹介して発見の機会を提供するもので、品揃えはリアルタイムで更新される。

2つめの方法は「For You」というラベルがつけられており、ユーザーのアプリ操作やチャット会話、実際のクローゼットからアップロードされたスタイルに基づいて、注目のスタイルを含むパーソナライズされたフィードである。3番目のカルーセルは、今後のイベントや既存のワードローブに基づいて買い物客のパーソナルスタイリストが揃えるものである。

デイビッドソン氏によると、ベティアでは、商品カルーセルに加えて、軽めのコピーの「コンバージョン主導型」のエディトリアルストーリーが掲載されているという。ショッパブル動画もあるが、デイビッドソン氏のビジョンが実現されれば、それがこのアプリの中心となるだろう。

ショッパブル動画の成功は「このテクノロジープラットフォーム全体を構築する最大の推進力だった」とデイビッドソン氏はいう。アジアにおけるこのフォーマットの幅広い人気、米国のeコマース売上高に占める動画ショッピングへの移行と割合の増加、このフォーマットがもたらす高いコンバージョン率を指摘した。

同氏は、「TikTokのような大規模なプレイヤーを除けば、米国市場やファッションに関して動画ショッピングに精通している人は誰もいない」といい、バンブーザー(Bambuser)など以前のアプリは管理が面倒だったと述べた。

「我々はすべてをモバイルファーストで行った。iPhoneを使って動画をキャプチャすると、動画は自動的にアプリにアップロードされるため、製品を検索してタイムスタンプにタグをつけて展開するだけだ」。

ショッパブル動画技術とマーケットプレイスモデル



ベティアはマーケットプレイスモデルで運営されており、アプリ内販売では手数料が発生する。そのショッパブル動画技術は現在特許出願中だが、ブランドパートナーらはまもなくライセンスベースでその技術を自社チャンネルに導入できるようになる。

デイビッドソン氏とチームは、その機能がスタイリストやインフルエンサーが2分でショッパブル動画を作成して公開できるほど直観的だと判断できるまで、アプリのソフトローンチを延期したという。「セレブリティやインフルエンサーが主導する動画コンテンツには大きなチャンスがある」と同氏はいう。

デイビッドソン氏のファッション業界での経歴には、高級リテーラーのルイーザヴィアローマ(Luisaviaroma)での最高開発責任者の役職、エル(Elle)とハーパーズバザー(Harper's Bazaar)でのアクセサリー編集者などがある。彼女はまた、パーソナルスタイリングサービスを提供するeコマースプラットフォームのエディトリアリスト(Editorialist)を2012年に共同設立している。

デイビッドソン氏は次のように語る。「ファッションはもっとも断片化された業界だ。パーソナルショッパーという非常に強力なグループが出現して、信じられないほどの量の商品を動かしている。なぜなら、パーソナルショッパーと協力することは購入客にとってずっと効率的だからだ」。

「また、実店舗とeコマースがあるが、雰囲気は異なっている。ベティアを使うことによって、すべてをひとつのスマートな環境に同期したいと考えている」と話す。

デジタルクローゼットでファッションの新時代を切り拓く



デイビッドソン氏によると、ベティアに掲載されている動画の多くはブランドがほかのプラットフォームに投稿しているものと同じだが、ショッパブルになっているという。また、ブランドの新発売スタイルを顧客に紹介するために、スタイリスト兼ストアアソシエイトが作成した動画もいくつかある。

現在、このアプリは主にスタイリストのツールとして機能している。100万ドル(約1億5700万円)から200万ドル(約3億1300万円)の予算のあるパーソナルショッパーで、ベティアに推薦された人たちが、自分たちの顧客とともにべティアに参加するように招待されている。

デイビッドソン氏によると、まもなく数名の有名スタイリストの参加を発表する予定だという。

デイビッドソン氏とチームはスタイリストとその顧客へのアクセス提供を優先している。また、それに該当しない約500人の個人客が許可され参加している。8月1日にアプリの制限が解除されると、ウェイティングリストに載っている4000人の購入客にアプリへのアクセスが許可されることになる。

長年にわたり、多くのテクノロジー企業が(1995年の映画)『クルーレス(原題:Clueless)』スタイルのデジタルクローゼットを軌道に乗せようと試みてきた。ベティアはワードローブ内のアイテムの写真撮影を行うことができる優秀なコンシェルジュチームを提供しており、これにより補完的なアイテムをベティア上で簡単に購入できるようにしている。

ユーザーは自分が持っているスタイルをGoogle画像検索からこのアプリに取り込むことも可能だ。取り込みプロセスは、ベティアのテクノロジーを使ってユーザーのEメールをスクレイピングしeコマース購入の領収書を取得して、自動化することもできる。

デイビッドソン氏によると、ベティアにはインド、ニューヨーク、南フロリダを拠点とする社員チームが発展しつつあり、加えてフリーランサーも数名抱えているという。同社はシードラウンドとシリーズA資金調達ラウンドで資金を調達しており、2025年の第1四半期までに損益分岐点に達する軌道に乗っている。

デイビッドソン氏は、8月のベティアの正式リリースのタイミングは意図的にニューヨークファッションウィークの直前に設定されたと語る。同社はイベントの一部のランウェイアイテムやほかの製品ををベティア経由で購入できるようにする予定である。

「顧客の上位2%に対応する際には、体験とアクセスの要素は非常に重要だ」とデイビッドソン氏は言う。

現在、ベティアの販売は主にチャットチャネルを通して行われている。デイビッドソン氏によると、平均注文額は約1400ドル(約22万円)、コンバージョン率は4.02だという。

「eコマースは15年前にすべてを変えた。ファッション体験の大部分と、人がインスピレーションを感じた瞬間を活用する能力が失われてしまった。動画がそのような要素を再び(ファッション体験に)加えてくれることを願っている」。

今後、ベティアはメンズ製品と美容製品を発売する予定だ。さらに、需要に応じて、近いうちにほかのユーザーのクローゼットの中身と同じものを購入できる機能を提供する可能性もある。デイビッドソン氏は、ベティア限定製品の提供も目指していると述べた。

センチュリー21 NYC、TikTok Shopでのライブストリームショッピングに進出



ライブストリームショッピング企業のショップショップス(ShopShops)は、これまで自社のグローバルアプリで米国拠点のビジネスを構築してきたが、6月6日、TikTok Shopでサービスを開始する。ショップショップスは、TikTokで、パンデミック中に破産しその後事業再建に取り組んでいるオフプライスのデザイナーストアであるセンチュリー21 NYC(Century 21 NYC)の製品を独占的に販売する。

TikTokのフォロワーは、ショップショップスは1万4000人、センチュリー21は6800人だ。6月6日はセンチュリー21のTikTok Shopのデビュー日でもある。

ショップショップスとセンチュリー21は2018年に初めて提携し、ショップショップスのアプリとセンチュリー21のインスタグラムアカウントで毎週ライブストリームを配信した。センチュリー21 NYCのCOOであるラリー・メンツァー氏によると、ショップショップスは当時、中国の消費者にデザイナー商品を販売することに主に注力していたという。

しかし現在では事業はさらにグローバルに拡大して、さらに多くのファッションカテゴリーのオークションや販売などがを展開している。ショップショップスによると、同社にはクロエ(Chloe)、フェンディ(Fendi)、ロエベ(Loewe)を含む1500のファッション小売パートナーがあるという。

メンツァー氏は、センチュリー21は2023年5月時点で「近いうちに」稼働する予定だったeコマースサイトの再ローンチが「ITデータの問題」により引き続き保留されることになったため、ことしこのパートナーシップを復活させることにしたと述べた。

センチュリー21は現在、今秋に新しいERPシステムを導入する予定であるが、従業員がオンライン販売に取り組む前にこのシステムを「理解するのには時間がかかるだろう」と語った。それまでのあいだ、ライブストリーミングにより多くの買い物客にリーチできるようになる。

「パンデミック以前、当社はC21stores.comを通じて世界的に展開しており、13店舗があった」とメンツァー氏は語った。「現在、店舗はニューヨークの1店だけだ。デザイナーブランドを素晴らしい価格で再び世界中の人々に提供したい。消費者の前に存在して、デジタル収益と認知度を推進することが重要だ。認知度は最終的にトラフィックとなり、最終的には顧客になる」。

同氏によると、顧客はソーシャルメディアや店内コメントを通じてセンチュリー21のeコマースサイトに対する要望を伝えているという。さらに、顧客のEメールのクリックスルー率と開封率の高さにより需要が示されている。

ショップショップスとの提携を確実に成功に導くには、センチュリー21の販売チームが適切な商品を店内で確実に入手できるようにする必要があるとメンツァー氏は述べ、「店内での売れ筋商品群はショップショップスのライブストリームイベントで売れている品揃えとは異なっており、またTikTokで人気のものとも異なると想定している。異なるオーディエンスにリーチすることになるだろう。これは当社にとってまったく新しい収益チャネルだ」と付け加えた。

センチュリー21のマーケティングチームも、ソーシャル投稿やEメール、試着室の看板でライブストリームを宣伝して、このパートナーシップに貢献する予定だ。

一方、ショップショップスはオンエアタレントを提供する。ホスト兼インフルエンサーが週に3〜5回センチュリー21のローワーマンハッタン店に来店して、ライブショーを行う。また、ショップショップスは販売された商品の梱包と発送を管理する。

メンツァー氏は次のように語った。「ライブストリーミングがeコマースに取って代わるというのはいい過ぎな感じがする。または、そうなるとしてもかなり先の話になるだろう。だが、ライブストリーミングは間違いなく補完的だ。直接話しかけてくれる実際の人物がいて、見たいと思うものを見せてくれ、すべての質問に答えてくれ、試着もさせてもらえる。これはウィジェットやチャットボットではない」。

TikTok Shopに対する具体的な期待について、メンツァー氏は、「当社は発見モードにある。どの程度の規模になるかはわからないが、大きな機会と捉えている。したがって、この機会を追求し、サポートし、ショップショップスが大規模に拡大するにつれて同社も進んでいく」と述べた。

[原文:Luxury Briefing: Why shoppable videos and livestreams will define the next era of luxury e-commerce]

Jill Manoff(翻訳:ぬえよしこ、編集:坂本凪沙)