友人から「なんだかヤバいよ」と教えてもらったSNSには…

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【前編】「さらし行為」の結果、不倫は解消、妻子とは別居中…「女性不信に陥った」 39歳夫の告白 からの読き

 弁護士ドットコムニュースのアンケート(717人が対象)によると、不倫をめぐる「さらし行為」をした経験の持ち主は5.2%、被害を受けた経験者は19.1%にのぼる。男女問題を30年近く取材し『不倫の恋で苦しむ男たち』などの著作があるライターの亀山早苗氏が、「さらし合い」のケースを紹介する。

 菅原英登さん(39歳・仮名=以下同)は、同い年の夕子さんと29歳の時に結婚、子宝にも恵まれた。調理の仕事をする英登さんが働く店に、夕子さんが客として来ていたことがきっかけだった。出会った当初、夕子さんは不倫相手の男性との関係を解消したばかりだったが、英登さんは彼女を受け入れた。従順な性格の妻との生活を「幸せだった」と英登さんは振り返るが、一方で物足りなさを感じてもいた。そんなとき、彼は勤務する飲食チェーンの事務方の女性・智花さんと知り合い、恋心を抱いてしまった。

友人から「なんだかヤバいよ」と教えてもらったSNSには…

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【前後編の後編】

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 エネルギッシュであっけらかんと言いたいことをいい、おもしろければガハガハと大声で笑う智花さんに、英登さんはどんどん惹かれていった。智花さんは性的にも積極的だった。子どもが生まれてからほとんどレスだった英登さんだが、智花さんが相手だと自分もどんどんエネルギーがわいてきた。

「店はランチもやっていたので僕はシフト制、智花は昼職。時間を合わせるのが大変でしたけど、関係ができてから半年後に僕、また店を替わったんです。グループがちょっと高級な店を開くことになって、そこの責任者になった。仕事はきついものの、やる気がみなぎっていました。智花もわりと頻繁に土日に仕事が入るので、僕が休みの日に一緒に代休をとってくれたりして会う時間を捻出していました」

 妻の夕子さんもとっくに仕事に復帰、娘は保育園に通っていたが、相変わらず彼女は文句も言わずにワンオペを続けている。たまに英登さんがキッチンに立とうとすると夕子さんは嫌がった。黙ってけなげに尽くす妻を愛していたはずなのに、智花さんを知ってからは、そんな妻がうっとうしく感じられた。遠慮が過ぎると、傍目には傲慢に見えてくるものなのかもしれない。

「どうせ何も言わないのだからと、仕事が早めに終わったときは智花のところに寄って帰ったり、ときには泊まることもありました。妻が出かけてから帰る感じ。それでも翌日、妻は何も言わずに僕を『お帰り』と迎えてくれる。文句のひとつも言えばいいのに言わない。これ、けっこう不気味ですよ」

SNSのこの写真、おまえじゃないの?」

 そんな生活が1年ほど続いたころ、SNSでつながった高校時代の友人から連絡があった。「SNSのこの写真、おまえじゃないの?」と。その友人と久しぶりに会ってから数日後のことだった。

「僕、右手の手首から少し肘よりに痣があるんですよ。友人と会ったとき、『そんなところに昔から痣があったっけ?』と聞かれたので、彼が気づいたんでしょうね。それ、智花のSNSだったんです。『たまたまおまえの奥さんのSNSを眺めていたら見つけたんだけど、なんだかヤバいよ』と彼に言われて、あわてて僕も見てみました。僕は登録はしているけど、SNSはほとんど使ってなかったので」

 智花さんと思われる投稿には、英登さんと一緒に行った店で食べた料理の写真があった。料理の奥に男性の腕が写っており、そこには痣がくっきりと見えている。英登さんの手だった。そしてそこにはyukoという名の女性が「匂わせかよ」とコメントをつけていた。

「あわててふたりの投稿を遡って見てみました。すると数ヶ月に渡ってバトルが繰り広げられている。智花は“ともちゃん”というアカウントで投稿していた。yukoはともちゃんのスレッドに『あんた、〜〜会社だよね』と社名を暴露、ともちゃんは『あんたは“菅原夕子”でしょ』と実名で返していた。『あんたみたいな人を泥棒猫って言うんだよね。妻子が泣いてると思うけど』とyukoが言い、ともちゃんが『取られるほうがぼんやりしているからじゃない?』といった具合。でも驚いたのはyukoの攻撃性でした。どちらかというとともちゃんが受けに回っている。yukoは『不倫して罪悪感も持ってないあんたなんか、生きてる価値ないよ』とまで言っていた。僕はもう、読んでいてめまいがしました。僕の知らないところで女ふたりがこんなやりとりをしているなんて……」

 ふたりとも有名人でもないし、フォローしている人がそう多いわけでもない。だが、一部、ふたりを煽るような投稿をしている人もいる。このままではいい恥さらしだ。そもそも、ふたりとも立派な社会人なのに、どうしてこれほど社会性のない行動をとるのだろう。

裏のやりとりはもっと苛烈だった

 どうすればいいのか彼は悩んだ。そして、待てよと思ったらしい。

「表だったところでこんなさらし合いをしているなら、裏では何を言い合っているのだろうと、ある日、こっそり妻の携帯を見たんです。するとふたりだけのメッセージのやりとりがあった。夕子が『なんだかんだ言っても、夫は私の元に戻ってくるの。あんたのところには立ち寄っただけ、身も心もね』と智花に送っている。智花は無視しようとするんですが、夕子が『こら泥棒、何とか言え』と煽る。すると智花も『うるさいわねえ。こんな妻の元に返る英ちゃんがかわいそう』と。『あの人はね、私がいないと生きていけないの』と夕子はさらに煽っていく。『ま、あんたは公衆便所みたいなものね』とまで言って切り捨てる。そら恐ろしくなりました。いつもの忍耐強いおとなしい夕子ではなかったから」

 彼は教えてくれた友人に相談、とにかく公の場でのふたりのバトルをやめさせたほうがいいということになった。まずは智花さんに、こんなの見つけちゃったんだけどと言って「妻が名誉毀損で訴えたりすると困るから」とアカウントを削除させた。だが、夕子さんにはなかなか言い出せなかった。

「智花には心から謝りました。だけど智花は『別のアカウント作って見てみたら、あなたの奥さんはまだアカウント削除してない。私だけ削除させて、やっぱりそうやって奥さんをかばうのね』と。そうじゃない、妻の意外すぎる本性を見て怖いんだと言ったけど、智花にその気持ちは伝わらなかった」

 一方で、夕子さんは智花さんがアカウントを削除したのは、智花さん自身の意志だと思い込んだようだ。

尋常ではない夕子さん

 ある日、智花さんから電話がかかってきた。仕事中だったが、何か嫌な予感がして出てみると「助けて」という智花さんの悲鳴が耳に飛び込んできた。そのまま電話は切れてしまったのだが、やきもきしているとしばらくたって再び智花さんから連絡が来た。

「病院にいると言うんです。夕子に襲われたと。あわてて夕子に電話をすると『あらあなた、どうしたの?』って。今日はちょっと残業になるかもと適当なことを言って切りました。仕事が終わるとすぐに智花のところに行きました。智花はたいしたことないと言いましたが、突き飛ばされて足首を捻挫、さらに頭も打って切ったと。智花には知り合いの医者がいて、そこへ駆け込んだとか。警察に通報するというのを、自分が転んだだけだからと言いはったそうです。ただ、翌日、脳の検査はしたほうがいいと言われたと。顔色も悪かったので気になって、その日は智花のところに泊まって翌日、病院につれていきました。脳に異常は認められなかったのでホッとしましたが、夕子のしたことは尋常ではないと痛感したんです」

 いつかはちゃんと話さなければならないことだ。英登さんは、ようやく決心した。その晩、帰ると夕子さんも起きて待っていた。いったい、どういうことなのと彼が言うと、それはこっちのセリフだと思うわと夕子さんは言った。

「きみがこんなに攻撃的なタイプだとは思わなかったと言うと、『あなたがこんなバカだとは思わなかった』って。夕子が初めて投げつけてきた強い言葉でした。そもそもSNSで接触してきたのは智花のほうだった。智花は僕の妻を探したみたいですね。夕子の投稿に智花がごく普通のコメントをつけたりして、夕子も智花の投稿を見るようになったらしい。そして写真に写り込む男が僕ではないかと気づいたという。智花は、かなり匂わせ投稿をしていましたからね。夕子が怒るのも無理はないけど、あんなひどいコメントをつけて互いをさらし合うのはどうかと思うと言ったら、『私は私を攻撃してくる人間を許さない』って」

 そのとき英登さんは、ふと思い出した。夕子さんとつきあうきっかけとなった、あの晩のことを。不倫相手に別れを切り出されて泣いた夕子さんだったが、もしかしたらあのあと何かしたのではないだろうか。

「すると夕子は、相手の男の会社に通報したし、妻にも直接話した、と。別れてからそんなことをするなんてと言ったら、『一方的に私だけ損するのは嫌』と。相手の男は閑職に異動となり、妻はショックで入院するはめになったそうです。ざまあみろってことよ、と夕子はぽろっと言いました。夕子は今までずっと猫をかぶってたわけかと言ったら、『あなたは私を傷つけなかったもの、こういうことが起こるまでは』と。あなたはたぶん、あの女にたぶらかされただけとも言っていましたが、僕は夕子の二面性に衝撃を受けて、それ以上、対応することができなかった……」

バトルの顛末は…

 その後、智花さんは「結局、あなたは家庭に帰るのね」とメッセージを残して去っていった。仕事で会う可能性もあるが、智花さんは何もかも暴露するようなことはするまいと英登さんは信じている。

 夕子さんは「あの女と別れたのね」と彼に言った。智花さんから連絡があったのかもしれない。

「戻ってくるわよね、あなたがいてくれないと私は寂しくて……と夕子は言うんです。あの強烈なさらしあいからのメッセージのやりとりが忘れられなくて、僕は夕子とともに暮らすのはむずかしいという気持ちになっていた。だから悪いけど家を出るよと。少し頭を冷やしたいと言いました」

 昨年の秋から、彼は勤務先の近くにアパートを借りている。夕子さんは「私はいつまでも待っているから」と言うが、7歳になった娘が成人になったら離婚しようと英登さんは考えている。どうしても妻のあの二面性を受け入れることができないのだ。人は怒ればどういう反応をするかわからない、自分が悪いのだから妻の行動も認めたほうがいいと何度も自分に言い聞かせた。アパートを借りてからも、何度か家に戻ろうとしてみた。だが、妻の顔を見ると吐き気がしてとどまっていられない。

「娘に不穏な空気を感じさせたくない。だから今年の春の入学式には参列しました。外だと気も紛れるので、妻と少しは会話できる。妻は本当にいつも通りなんです。だからよけい怖いんですが……」

 さすがに夕子さんも、いつの間にかSNSのアカウントを削除したようだ。

 妻と恋人がSNSでバトルを繰り広げ、それを知り合いに見られてしまった気恥ずかしさはなんとも説明しがたい気持ちだと彼は言う。3人とも職場の人には見られていなかったのは運がよかったが、危ないところではあった。

「公私ともに怒濤の3年間でした。今でも気持ちは沈んだままです。それなのにときどき智花に会いたくなる。彼女があっさり去っていったからかもしれませんが。大事なものを手放したような気がしてなりません」

 智花さんへの未練がくすぶっている。彼女との第二章がありそうな気配だ。

こじれてしまった夫婦関係、いったいどこで間違えたのか――【前編】で英登さんと夕子さんのなれそめに触れている

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部