ワンオペ育児を「仕方ない」「当たり前」とせず、もう一度、家族のあり方を考えてみませんか(写真:mits / PIXTA)

「ワンオペ育児」という言葉をご存じですか? 今回の記事では共働き育児歴11年、コロナ禍前まではほぼ7年間、ワンオペ育児をしていた私が、「ワンオペ育児は頑張ればできるけれど、しないほうがいいよ」という話をお伝えしたいと思います。

私もまさにワンオペ育児の当事者だった

「ワンオペ」とは「ワンオペレーション」の略語で、もともとコンビニや飲食店の従業員が1人で店舗を回すことを意味していました。

2014年頃に、牛丼チェーン店の「すき家」が深夜帯営業時間を、ほぼ従業員1人にワンオペ労働をさせ、過酷な労働や防犯上の危険があるとして問題になったのを覚えている人もいるでしょう。

いつしか、そのような過酷な労働状況にならい、夫婦どちらかやシングル家庭が1人で家事や育児を担う状況を「ワンオペ育児」と呼ぶようになりました。その後、この言葉は、2017年の第34回「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートもされ、広く認知されるようになりました。

私が長男を産んだのは2013年。産後に職場復帰してからは、コロナ到来の2020年までは、ほぼワンオペ育児でした。私もまさにワンオペ育児の当事者として、流行語大賞にノミネートされるような最前線を走り抜けた1人でした。

なぜ、私がワンオペ育児をしていたか、ですが、それは、夫婦ともに長時間労働だったからです。

子どもが生まれると、夫婦2人で長時間働くわけにはいきません。そこで、わが家では、母親である私が育休明け後は毎日18時に退社。19時に子どもを保育園へ迎えに行き、子どもの寝かしつけまでの育児・家事をしていました。

夫は連日朝も早く出勤し、帰宅時間は21時から23時が多く、土日も出張がありました。今からほんの10年弱前ですが、当時は男性の育休取得者なんて、ほぼ聞いたこともなく、保育園の送迎で見かけるのは、ほぼ母親でした(その数年後、次男出産後には、父親の送迎も、ぐっと増え時代の変化を実感しています)。

こう書くと「さぞかし大変だった」という話になりそうですが、実は、私は長男が1人のときは、ワンオペ育児でも、家電製品やベビーシッター、延長保育に病児保育をうまく利用し、なんとか1人でも乗り切れていたのです。

これは、たまたま、長男が病気がちでなかったこと、良い保育園、良いシッターさん、良い病児保育などに出会えた運の要素が大きいのですが、それでも「ワンオペ育児でもどうにかなりそう」という実感を持っていました。

ところが、2016年末に次男が生まれてから、それは甘い考えだったと思いました。子ども2人を保育園に預けて職場復帰したのですが、早々に「これは1人目のときとは違う。なかなか大変だぞ」と感じました。

まずは次男が喘息持ちのため、頻回な病院通いがありました。それに加えて、保育園に通う子どもはよく風邪を引いたり、病気をもらってきたりします。

2人まとめて病気にかかるならまだしも、どちらかが交互に体調を崩す、スケジュールのやりくりに追われる、呼び出しの頻度も2倍になる、子どものぐずりも2倍になる。

長男1人ならまだしも、2人になると、それまでのワンオペ育児のライフハックを駆使しても、思うように生活が回らなくなりました。

余裕がなくなり募るイライラ

そんな生活をしていると、ワンオペ育児の当事者である私は、日々神経が張り詰めていきます。

とにかく毎日「子どもが体調を崩さないように」「食事を早く食べてくれるように」「早く寝てくれるように」と、日々が円滑に終了することばかりに気が向くようになります。子どもの成長に目が向くより、「日々の生活をどうやって回すか」ばかりに意識が取られるようになるのです。

そして、少しでも生活リズムが乱れるような事態が起きると、ワンオペ育児をしている当事者は、心の糸が切れやすくなります。その結果、子どもや夫へイライラしやすくなったり、寛容な心を保てず不機嫌になりやすくなったり。

時間や体力に余裕があれば気にならないことも、余裕がないからつい怒ってしまう。もちろん「私だってイライラしたくない」。こんな状況が一番つらいのは、ワンオペ育児の当事者本人です。

特に子どもに対する怒りというのは、子育てしている方はわかると思いますが、突然湧くわけではありません。

日頃から、「こういうことはやめようね」「こうしようね」ということを、何度も話しているのに、こちらがたまたまとても疲れているときや、急いでいるときに限って、子どもは同じことをする。伏線があるんです。

大人2人で家事・育児をしているなら、「もう!」で済ませられるかもしれない。しかし、ワンオペ育児をしていると、余裕がない分、その怒りへの導火線は短くなりやすい。

たまたま、そこにいたワンオペ育児してない側のパートナーや、外部の人からみると、そんな子育ての伏線が見えてないがゆえに、「そんなに怒らなくても」「怖い」なんてことになります。

会社で働いているみなさんも想像してみてください。毎日朝から晩まで細かく仕事のスケジュールがぎっちり詰まっている。それが同僚によって何度も中断や延期を余儀なくされるけれど、仕事の締め切りは毎日やってくる。

365日、体調が悪い日も、寝不足でも関係なく続きます。このような状態であれば、誰だって心の寛容さを保つのが難しくなりますよね?

「リベンジ夜更かし」で悪循環

ワンオペ育児が問題なのは、いくら、ワンオペで生活を回せているように見えても、その内実として、当事者の親の心の余裕を減らしてしまうことです。

私も、長男のときはワンオペでもどうにかなった、と思っていましたが、振り返ると1人でやらなければいけないストレスを、身体的にも精神的にもずっと感じている状態でした。

当時は「リベンジ夜更かし」もよくしていました。

「リベンジ夜更かし」とは日中、仕事や育児などで忙しく過ごした人が、本来なら早く寝て体を休めたほうがいいとわかっていても、つい夜更かしをして動画を見たり、漫画を読んだり、自由な時間を過ごそうとすることです。

私は育休明け1年目ぐらいのころ、自分でもなんだかよくわからないストレスを抱え、子どもを寝かしつけたあと、ワインを飲みながらパソコンを開いたり、Amazon Primeを見たりしていました。

当時の心境としては、早く寝たほうがいいのはわかっていても、無駄に時間を過ごした感覚がないとやっていられなかったのです。

その時間のおかげで心の平穏が保たれていたわけですが、問題は睡眠時間を削っていること。リベンジ夜更かしが続くと、疲れが一層募る、という悪循環になっていたと思います。

緊張度が高く余裕がない状態というのは、人を余計にイライラさせます。そのイライラは、家族というシステムの中で、最も弱い子どもに向いてしまいやすくなる。

そんな状況を作り出す可能性を持っているワンオペ育児は、たとえできたとしても、すべきではない、というのが今の私の実感です。

その後、我が家はコロナ禍を経て夫の帰宅時間が早まり、私のワンオペ育児度は大幅に改善されました。また自分がコントロール権を持てる時間を意識して増やしたおかげで、朝にヨガやランニングの時間を確保できるようになり、リベンジ夜更かしもしなくなりました。

自由な時間を捻出できるようになったのは、他人の「こうしたほうがいい」とか「こうすべき」という声に振り回されず、嫌なことは嫌、できないことはできない、と言えるようになったのも大きかったと思います。

そのおかげで、以前より子どもにイライラすることがずっと少なくなったと感じています。この経験を踏まえて、私は「ワンオペ育児はできてもしないほうがいいよ」という話を、音声メディア(Voicy)でもするようになりました。

過去の私と似た立場の人へ伝えたい

かつての私は、ワンオペ育児を乗り切るために、家電や外注を最大限に活用したり、時間の使い方を効率化したりといったライフハックを駆使していました。

しかし、今はそうしていません。仕事も家事も、育児もとライフハックの方法を模索するより、長い目で見て、ワンオペ育児にならないように、夫婦で働き方を考え直したり、他者に頼ったりしたほうが家族全員の幸せにつながると考え方が変わったからです。

「ワンオペ育児はできるけれど、しないほうがいいのではないか」「 ワンオペ育児の弊害が家族のどこかに表れていないか」。

もし今、ワンオペ育児の方、もしくはパートナーにワンオペ育児をさせているという方は、ぜひ立ち止まって考えてみてください。この話が、過去の私と、似たような状況にいる誰かの役に立てば幸いです。

(尾石 晴 : Voicyパーソナリティ)