TikTokで有名なKビューティブランドであり、アモーレパシフィック(Amorepacific)傘下のラネージュ(Laneige)は、模倣品の問題を抱えている。

数週間前、ティームー(Temu)で同ブランドの売れ筋商品であるリップスリーピングマスク(Lip Sleeping Mask)を検索したところ、この人気リップクリームのメーカー希望小売価格24ドル(約3700円)の数分の一の値段で販売されている模倣品のリストが何百も表示された。

現在はラネージュによる多面的な取り組みや消費者向けの新しい偽造品報告サイト、サイト削除のために熱心に偽造品を報告する業者の協力のおかげで、ティームーでの偽造品はほとんど姿を消している。

ラネージュとイニスフリーの模倣品問題



ラネージュとイニスフリー(Innisfree)の米国ゼネラルマネージャーであるジュリアン・ブジタット氏は米Glossyに対し、「ブランド全体の人気の上昇に大きく追随して、マーケットプレイスのサイトで販売される安価な模倣品の増加が過去3年間で拡大している」と語る。

模倣品業者は、カルト的人気のあるこのリップクリームの定番フレーバーや限定フレーバーだけでなく、同ブランドのフェイスモイスチャライザーのウォーター・スリーピング・マスク(Water Sleeping Mask)にもっとも力を入れているようだ。

商標登録されたブランド名やロゴはないが、ほとんど同じようにみえる製品を指す「デュープ」とは異なり、買い物客がこうした偽物を見分けるのははるかに難しい。詐欺まがいのイメージで販売されることが多く、オリジナルより数ドル安いだけの品物も存在するため、見込み客や既存客が本物を手に入れたと容易に騙されてしまう。

過去10年間で、カイリーのリップキット(Kylie Lip Kits)、アーバン・ディケイのネイキッドパレット(Urban Decay Naked palettes)、ベン・ナイのバナナパウダー(Ben Nye Banana Powder)、MACのリップスティックといった人気アイテムをターゲットにした美容製品の偽造が流行しているが、こうした問題が繰り返し発生することに対して、ブランドは商標の争い以上に頭を抱えている。

化粧品偽造業者は製造上の監督責任や説明責任が欠如しているため、エンドユーザーに多くの問題を引き起こしていることが報告されている。唇がしびれたりくっついてしまう、さらには化学薬品による火傷や、もっと一般的なものでは皮膚の発疹や目の感染症なども起きている。

ラネージュのブジタット氏は、「偽物を防止することは、マーケットプレイスにおけるブランドの混乱を防ぐことと同様に、消費者の安全と満足を守ることでもある」と語った。

業界内では「モグラたたき」と表現されることが多いように、模倣品はいつまでも続いている問題であり、その時々でもっとも人気のあるブランドや最新のマーケットプレイスサイトへと次々に鞍替えしていく傾向がみられる。現在はそれがラネージュとティームーなのだ。

グローバル躍進と模倣品対策



アモーレパシフィックは1994年にラネージュをローンチし、現在は雪花秀(ソルファス)、エストラ(Aestura)、ヘラ(Hera)など、25以上のブランドを所有している。2015年、同ブランドはリップバームのリップスリーピングマスクを発売、現在はさまざまなフレーバーやサイズがあり、米国ではセフォラ(Sephora)やD2Cで購入できる。

1月、ラネージュは初のグローバルブランドアンバサダーとしてZ世代の女優シドニー・スウィーニー氏を起用したと発表し、3月にはロサンゼルスのザ・グローブ(The Grove)のグラスハウス(Glass House)でポップアップイベントを開催して話題を呼んだ。

4月に行われたアモーレパシフィックの2024年第1四半期決算説明会では、米州市場での売上が前年同期比で40%増加したことが発表された。これは、ラネージュのリップケア市場のシェアが倍増したことと、ブランドの最新のスリーピングマスクのフランチャイズであるバウンシー&ファーム(Bouncy & Firm)のモイスチャライザーのおかげである。

その一方で同時期の韓国での売上は2%減少し、中華圏での売上は19%減だった。昨年のアモーレパシフィックの収益は9115億ウォン(約1038.7億円)に達している。

ブランドの成長とともに知的財産(IP)を保護し、消費者の安全を守るために、ラネージュのブジタット氏のチームは、業界の監視とデータ収集を含む「強固で総合的な知的財産保護戦略」を導入、ティームーを含むマーケットプレイスやさまざまな無許可のオンライン小売業者からの模倣品や侵害品の撤去、および再犯者に対する訴訟を実施している。

これには、外部のIP保護ベンダーとアモーレパシフィック社内の強力なチームの両社の協力を必要とする。

最新の偽物を理解することも重要であるため、ラネージュのチームは定期的に模倣品業者から商品を取り寄せ、消費者が受け取っているものを把握し、偽物の可能性のある商品に関する顧客のメールやDMに備えている。

だがこうした偽造業者を食い止めようという努力をよそに、消費者は偽物という概念に魅了されている。TikTokでは本記事執筆時点で「ラネージュリップマスク」の投稿が1億900万件を超え、「フェイク・ラネージュリップマスク」の投稿は7200万件とそれに続く。

挑戦と消費者教育の重要性



人気YouTuberたちは、この現象を見逃せないコンテンツフランチャイズへと変えている。Youtubeに150万人の登録者がいるクリエイター、ジェームス・ウェルシュ氏は、25万回以上再生された最近の動画で、テムで注文した偽物やデュープ商品をレビューした。

動画の中でウェルシュ氏は、セイヤーズ(Thayers)、ポーラズ・チョイス(Paula's Choice)、グロウレシピ(Glow Recipe)、ラネージュの偽物やデュープについて、「気持ち悪い」、「臭い」、「タバコの煙」や「古風な90年代の匂いのスキンケア」のような香りがすると評している。

ソーシャルメディア上でラネージュの偽物について議論するクリエイターたちは、濃厚なバームではなく、硬すぎるココナッツオイルや液状のキャノーラオイルを思わせる不快なテクスチャーだと説明することが多い。偽物について話す何百ものコメントがTikTokの投稿に殺到しており、ラネージュの公式プラットフォームにも波及している。

「ソーシャルメディアでは、ティームーに出品されているラネージュの製品が公式のものかどうかを尋ねるコメントが増えているのを目にしている」と、ラネージュのブジタット氏は、現在進行中の課題として消費者の教育があると語った。

顧客からの問い合わせに対しては、ラネージュはティームーでは販売しておらず、また過去にも販売したこともないと説明している。だが教育キャンペーンは一般的には実施していない。気づいていない多くの顧客に対して、問題の存在を明らかにすることになりかねないからだ。だがラネージュの戦略の最新のステップは、もっとよいバランスをとっている。

偽造品報告サイトと模倣品増加の現状



5月上旬、アモーレパシフィックは、消費者に焦点を当てた新たなカスタム報告サイトであるAmorepacificCounterfeitReport.comをローンチ、ラネージュを含むブランドサイトの下部にハイパーリンクを付けてソフトスタートした。

同サイトには報告者の連絡先や偽物に関する詳細、画像をシンプルにドロップダウンしてアップロードするスペースなどがあり、情報を収集できるようになっている。ラネージュのチームは、この新しいサイトによって偽物をより合理的に報告できるようなり、また消費者がこの問題の解決に貢献していると感じられるようになることを期待している。

ヘアツールのパルラックス(Parlux)、スキンケアデバイスのフォレオ(Foreo)、メイクアップアプリケーターのビューティブレンダー(Beautyblender)といったブランドが知的財産権を行使するために利用している著作権侵害ベンダーのレッドポインツ(Red Points)によると、美容品の偽造は増加傾向にある。

レッドポインツはラネージュとは提携していないが、ボリュームベースでは最大のIPベンダーであり、業界を綿密に追跡している。同社の広報担当者が米Glossyに語ったところによると、美容、パーソナルケア、美容機器カテゴリーの侵害侵害件数はここ数年で増加しており、2018年から2023年の年間平均成長率は62%と、過去2年間で大幅に増えている。

「レッドポインツのデータによると、2022年から2023年の間に侵害件数は7.5%増で、特に『美容・パーソナルケア』セグメント内の増加が牽引している」と広報担当者は語った。さらにレッドポインツによると、偽物の40%は最大のセグメントである中国からのものだった。2022年と2023年には、前の2年間とくらべて中国の偽造品販売業者が12%増加し、侵害行為も26%増となった。

レッドポインツは現在、毎月40万件以上の違反メールをマーケットプレイスサイトや模倣品業者に送信していると、戦略的パートナーシップ担当シニアバイスプレジデントのダニエル・シャピロ氏は語る。シャピロ氏は、eBayで2011年に始まった模倣品対策プログラムを監督した経験があり、今日のティームーにおける模倣品の飽和状態と多くの類似点を見出している。

「eBayとAmazonは非常に成熟したマーケットプレイスなので、毎日大量の模倣品をブロックしている。双方とも悪質な業者をブロックするためのプロセスや手順、方法を導入している」とシャピロ氏は米Glossyに語った。しかし、シーイン(Shein)、ティームー、ショッピー(Shoppee)といった次世代のマーケットプレイスサイトは単純にそこまでは進んでいないと同氏はいう。

5月31日公開のVol.2に続く

[原文:How Laneige is taking on Temu counterfeiters]

LEXY LEBSACK(翻訳:Maya Kishida 編集:坂本凪沙)