「最近、アマゾンからの荷物がヤマトや佐川の従業員ではない配達員によって配達されることが多くなったな」と感じている消費者も少なくないはずだ(写真:Luce/PIXTA)

2017年にヤマト運輸がアマゾンの当日配達業務から撤退し、段階的にアマゾンの配送を縮小して以降、「最近、アマゾンからの荷物がヤマトや佐川の従業員ではない配達員によって配達されることが多くなったな」と感じている消費者も少なくないはずだ。

バンタイプの軽自動車を使って荷物を運ぶビジネスを「貨物軽自動車運送事業」と呼び、この配達員はしばしば「軽バン配達員」と呼ばれる。軽バンさえあれば、誰でも個人事業主として始めることができる事業で、実は拡大するアマゾンや楽天などのEC・通販配達はこうした配達員によって支えられている。

ところが、個人事業主という立場の弱さや、あるいは、昨今厳しくなる労務コンプライアンスをかいくぐる抜け道として利用されることもあり、大手EC事業者や大手物流事業者らに過重労働を課されるケースも散見されるようになってきた。

軽バンよりハイヤーの方が「ラク」

個人事業主・フリーランスの軽バン配達員の働き方を紐解きつつ、その課題を考えよう。

「サラリーマンが嫌で、独立起業し、軽バン配達員として数年働きましたが……。今は再びサラリーマンに戻り、ハイヤー運転手として働いていることに満足しています。正直、精神的にも体力的にも、軽バン配達員の頃よりも、今のほうがラクですしね。稼ぎもハイヤー運転手のほうが、ぜんぜんいいです」

これは、2年前に筆者が出会った、ハイヤー運転手A氏の言葉である。

彼は、もともとある中堅運送会社のトラックドライバーだったそうだが、サラリーマンに嫌気がさして、軽バン配達員として独立起業し、アマゾン・フレックス(アマゾンが直接業務委託契約を結ぶ、軽バン配達員のこと)や、ヤマト運輸等大手物流事業者の下請けとして働いていた。だが、今はサラリーマンに戻り、ハイヤーの運転手として働いている。「精神的にも体力的にも、軽バン配達員は厳しかったから」である。

現在は、ある運送会社の営業所で所長を務めるB氏は、15年ほど前に軽バン配達員として働いていた。B氏は運送会社に勤務するトラックドライバーだったのだが、サラリーマンとして宮仕えすることに嫌気が差し、自由な働き方を求めて軽バン配達員へ転身、大手物流事業者の下請けとして数年働いたという。

「結果を言えば、拘束時間は長いし、まったく自由ではありませんでした。売り上げは月で40万〜50万円ほどありましたが、割に合わなかったですね。

個人事業主ですから、軽バンの減価償却や燃料代、オイル類やタイヤのメンテナンス費用に加え、税金や健康保険、年金なども売り上げの中でやりくりしなければなりません。こういった諸経費は、当時で月20万円を上回っていました」

現在の所長という立場上、「軽バン配達員として、独立起業したいと考えています」という相談を受けることがあるB氏だが、自身の体験を踏まえ、思いとどまるように諭すのだという。

「今は、私が軽バン配達員だった頃よりも物価も上がっていますし、何よりも燃料代が高騰しています。月40万円くらいの売り上げでは、生活していくのが精一杯でしょう」

軽バン登録数は5年間で3割増加

近年、軽バン配達員は急速に増えている。

「貨物軽自動車運送事業適正化協議会」(国土交通省)によれば、事業用の軽バン登録数は、2021年で28万8226台と、過去5年間で31.4%も増えている。ちなみに営業用トラックの登録台数が約150万台であることを考えると、軽バン配達員がどれほど増えているかがわかるだろう。


ただ、軽バン配達員らの労働環境は厳しい。軽バン配達員の37%が週6日労働、週7日というツワモノも5%存在する。1日あたりの労働時間は、「8時間以内」が41%いる一方で、「11時間以上」が42%。平均月収は、「30万円未満」が55%。一番のボリュームゾーンは、「30万円以上40万円未満」の29%に上る。


(グラフ:国交省「貨物軽自動車運送事業適正化協議会」より)

「月40万円ももらえるのであれば、まあまあいいじゃないか?」と思う人もいるかもしれないが、それはサラリーマンの発想である。

軽バン配達員の収入は、あくまで売り上げであって、軽バンの購入費用(減価償却)、メンテナンス費、燃料代、配達員当人の税金や健康保険・年金などの経費が差し引かれる。実際の手取りは月30万にはとても届かないはずだ。

もちろん、「自分のペースでコツコツ稼ぐ」、あるいは「ガッツリ働いて、ガッツリ稼ぐ」という軽バン配達員も存在する。だが総体的に見れば、軽バン配達員は、「安い賃金で長時間働かされる」存在へとなりつつある。

軽バン配達員が運んでいる荷物

そもそも軽バン配達員は、何を運んでいるのだろうか? 国土交通省が、軽バン配達員1万人に対し、2023年3月に実施した調査によると、主要取引先は以下のようになっている。

大手通販事業者:37%
運送マッチングサービス事業者:27%
大手運送事業者:30%
※複数回答可

「大手通販事業者」とはアマゾンや楽天などEC・通販事業者のこと。先に挙げたアマゾン・フレックスのようにEC・通販事業者と直接契約を結ぶケースもあれば、アマゾンのデリバリープロバイダなど、EC・通販事業者と運送契約を結んでいる元請運送会社の下請けとして働いているケースもある。

その意味では、ヤマト運輸や佐川急便など、大手運送事業者の下請けで働くケースに近しい働き方だ。ちなみに、ヤマト運輸・佐川急便の制服を着ていたとしても、それは制服を貸与された個人事業主の軽バン配達員の場合もある。

運送マッチングサービス事業者は、軽バン配達員と、「荷物を運んでほしい」荷主を結ぶサービスである。「PickGo」(CBcloud)や「ケイハイ」(パラダイム・ラボ)などがある。

この3者の割合がほぼ拮抗しているのは、軽バン配達員の多くが、複数の取引先と取引をすることで、仕事を得ている(あるいは、「得ようとしている」)からだと推測される。

軽バンは、車両の都合上、「大きくて重たい」もの(例えば鉄骨など)は運べない。「小さくて軽いもの」を運ぶことに適した軽バン配達員が運ぶものは通販などのBtoC、あるいはメルカリなど個人間売買(CtoC)の貨物が中心となる。

「個人宅への配送」は薄利多売

宅配便の取扱個数は、2022年度、50億0588万個と、ついに50億個の大台を超えた。ただし、この50億個には、アマゾンの自前物流(アマゾン・フレックスやデリバリープロバイダ)による配達個数が含まれていない。

日本での自前物流取扱個数は公表されていないが、アメリカでは宅配大手であるUPS、フェデックスの取扱個数を、アマゾンの自前物流の取扱個数が超えていること(UPS約53億個、フェデックス約33億個、対してアマゾン約59億個)を踏まえると、日本国内においても同様のことが考えられる。

これだけ個人宅への配送個数が増えているのだから、「さぞ宅配大手は儲けているだろう」と思うかもしれないが、実はそうではない。

ヤマト運輸の2023年3月期における営業利益率は3.3%。一方で、ヤマト運輸と並ぶ宅配便の雄である佐川急便における2023年3月期の営業利益率は9.4%。この違いについては、2013年にアマゾンからの撤退を決めるなど、利益率の薄いBtoCではなく、BtoB(企業間)輸送にいち早く舵を切り直したことが要因であるとの見方がある。

ではなぜ、個人宅への配送が儲からないのか? 端的に言えば、再配達などの手間が掛かるのに、荷物1個あたりの売り上げが低いからである。BtoB輸送であれば、1つの荷物(=1カ所の配送先)が、数トンになることもあるが、個人宅への配送は、せいぜい数キロ程度である。個人宅への配送は、薄利多売のビジネスモデルなのだ。

加えて、「物流の2024年問題」がある。トラックドライバーの長時間労働が許されない今、運送業界では「より儲かる荷物」へのビジネスシフトが進んでいる。

結果、軽バン配達員は、「儲からない個人宅への配送」を担う存在になりつつある。

週9万円強は稼げると謳う広告

「1週間程度の配達で最大94,300円も可能。自分のペースで、自由に働く。Amazon Flexでは、様々な人がそれぞれの生活に応じた働き方を自由に選択することができます。例えば、子育てや介護をしている方、自分の夢を追い続けている方。そんな方々でも、自分のペースで働く時間を選び、収入を調整することができます」

これはアマゾン・フレックスの募集広告である。週9万円強の売り上げの場合、月40万円の売り上げになる。だが、前述の通り、これはあくまで売り上げであり、ここから諸経費が引かれる場合、これだけで生活を成り立たせるのは難しいかもしれない。

誤解のないように付記すると、こうした費用体系はアマゾン・フレックスだけではない。大手物流事業者の下請けも似たような給与水準だ。

先の国交省による調査では、「軽バン配達員を専業としている人は64%しかいない」ことがわかっている。もちろん、育児や介護があるため、軽バン配達員を専業にできない人もいるだろう。だが、「軽バン配達員だけでは生活ができない」という人も少なくないと思われる。

こうした中、「本気で稼ぎたい」という人は、例えばアマゾン・フレックスとヤマト運輸の下請けを掛け持ちしたり、軽バンでの配達を終えた後、ウーバーイーツなどで働いたりしている。その結果、「軽バン配達員を専業としている人は64%しかいない」のではないか。

ところで、軽バン配達員が運ぶのは、個人宅向けの商品だけではない。通常はトラックが輸送している企業間輸送の貨物を運ぶこともある。

あらゆる貨物には、季節や荷主の状況によって輸送量が増減する「波動」がある。年末や、年度末となる3月に物量が増えるのはわかりやすい例である。従来は物量が増えても、ドライバーに残業などを頼むことができた。

だが、ドライバーの数自体が逼迫していることに加え、4月から労働時間の上限規制が設けられることによって既存のドライバーにすべての貨物をさばいてもらうことは難しくなっている。こうした中、「使いたいときだけ使える」軽バン配達員に、繁忙期に溢れた荷物の輸送を委ねる運送会社や荷主が増えている。

実は先の調査では、軽バン配達員の働き方を、閑散期と繁忙期に分けて調査している。閑散期には66%が月収30万円未満だが、繁忙期になると月収30万円未満の層は25ポイントも減り、逆に月収30万円以上稼ぐ層が59%になる。

2024年問題によってトラックドライバーの待遇改善に対する機運が高まりつつある一方、軽バン配達員については、その実情が知られていないこともあって、以前より状況が悪化している可能性もある。

「軽バン」配達員の労働環境を改善するには

これを防ぐためには、待遇の改善と、軽バン配達員の取引先となる、大手通販事業者、運送マッチングサービス事業者、大手運送事業者への監視と罰則の強化が必要だ。具体的には、運賃をアップすること。立場の著しく弱い軽バン配達員にこそ、最低運賃制度の制定が必要だと筆者は考えている。

その上で、結果的に長時間働かなければ、配達が完了しないような、過度な配達ノルマのようなプレッシャーを廃すること。

そして、軽バン配達員に過重労働を強いる取引行為に対し、監視と罰則を強化することも望まれる。例えば、昨年7月に国土交通省が発足した「トラックGメン」は、今のところ運送会社に対し、優越的な地位を濫用する荷主の行為を監視・摘発する役目を担っているが、これを個人事業主である軽バン配達員まで拡大するのは有効な対策となろう。

トラックドライバー同様、軽バン配達員も日常生活を維持するためのインフラとして欠くことのできない存在である。だからこそ、軽バン配達員を、すげ替えの利く消耗品扱いするのではなく、健全に育成できるよう、環境整備を行わなければならない。


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(坂田 良平 : 物流ジャーナリスト、Pavism代表)