いつかは“人情派”の代理人に…経験豊富なウィリアンが描く未来図
ブラジル代表70キャップを誇るウィリアンは、引退後に指導者ではなく代理人を目指すという。
選手の人生は一瞬で変わる
昨季からイングランドのフルアムでプレーするFWウィリアン(35歳)は、酸いも甘いも噛み分ける。18歳にして母国ブラジルの名門コリンチャンスでデビューを飾ると、19歳で海を渡ってヨーロッパに挑戦。ウクライナのシャフタールで2009年にUEFAカップ制覇に貢献するなど数々のタイトルを獲得した。そしてロシアのアンジ・マハチカラを経由して2013年にチェルシーに鳴り物入りで移籍した。
サッカー選手の人生は一瞬にして変わる。10代で成功を収めたウィリアンは「貧乏なままベッドに入り、翌朝にはお金持ちになっている」と『The Telegraph』のインタビューで説明する。「それくらい一瞬なんだ。だからこそ、しっかりとした家族や良識ある人が必要になる。そうでなければ、簡単に自分を見失ってしまうのさ」
若くして富や名声を手にし、期待やプレッシャーに晒された選手は危うい。だからウィリアンは、引退後に指導者ではなく代理人の道を目指し、若い選手の道標になりたいと語る。
「常に真実を言ってくれる人が周りにいないと、選手キャリアだけでなく人生も台無しにしてしまう。若い選手は気を付けないといけない。サッカーは一瞬でいろいろな物を手にできる。すると、みんなが友人になろうとしてくるのさ」
一夜にしてスターになれるサッカー界だが、失うときも一瞬だという。ウィリアンはピッチ上だけでなく、ピッチ外のことにも気を配る。「15年かけて選手キャリアを築き、お金を稼いできたとしても、わずか5分でそれを失う危険だってあるんだ」
お金よりも優先すべきこと
ウィリアンは、チェルシーでの7年間で2度のリーグ優勝を経験し、ブラジル代表としては2度もFIFAワールドカップの舞台に立った。2020年には契約延長の話もあったが、3年契約を提示してくれたアーセナルへ移籍。しかし新天地では思うような活躍ができず、大金を捨てることを受け入れてわずか1年での契約解除を申し出た。
30歳を超えた選手が2年も残っていた好条件の契約を捨てたことで、周りからは「クレイジー」と言われたそうだ。「普通ならチームに残ってお金をもらう」といった声が世間では飛び交ったが、ウィリアンはお金よりも優先すべきことがあると話す。
「間違いなくお金は大事だ。でも僕の人生における優先順位で1番ではない。1番は神さまだ。2番目が家族で、次がサッカー。他のことはその後に来る。僕はアーセナルで幸せではなかった。だから退団を決めた。それから3年が過ぎ、今はフルアムで楽しめているのさ」
アーセナルを離れたウィリアンは、一度ブラジルに戻ってプレーしたが、2022年に再びロンドンにやってきた。そして十分な実績があるにも関わらず、フルアムで2週間のトライアルを受けてから正式な契約を結び、ベテランながら1年目からプレミアリーグで5ゴール5アシストと結果を残した。今季もフルアムで活躍しているウィリアンは引退後の将来も意識はしているが、あくまでセカンドキャリアの話。まだまだ選手として頑張るつもりだ。
「一番大切なのは睡眠かな」と長寿の秘訣を明かすウィンガーは「確かに僕はキャリア晩年を迎えているが、まだ4、5年はプレーできると思う」と宣言している。いつかは若手選手を助ける“人情派”の代理人になるかもしれないが、それはまだまだ先の話のようだ。
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