「西イチグルメ決定戦 あなたが選ぶ西の丼ぶり王」の九州地区大会に審査員として参加した(筆者撮影)

近年、高速道路のSA/PA(サービスエリア/パーキングエリア)のグルメ競争が止まらない。民放の情報番組では、定期的にといってよいほどハイウェイグルメを取り上げた特集が放送される。もちろんその陰には、たゆまない現場でのメニュー開発の努力がある。

2024年2月初旬、NEXCO西日本管内のSA/PAを運営する西日本高速道路サービス・ホールディングス(以下、西日本高速SHD)主催の「西イチグルメ決定戦 あなたが選ぶ西の丼ぶり王」というイベントの九州地区大会が開かれ、審査員として参加することになった。

今回の「高速道路最前線」では、その裏側を審査員の視点からルポしたい。

「味の素人」が審査に参加したワケ

西イチグルメが開かれるのは、今回で9回目。コロナ禍もあって、4年ぶりの開催であった。筆者に審査員の話が舞い込んだのは、2023年の9月。1本の電話による依頼だった。


西イチグルメ 九州地区大会のポスター(筆者撮影)

以前、高速道路最前線で取り上げた九州のSAの商品について西日本高速SHDに質問したことがあること、2023年6月に放送された『熱狂マニアさん!』(TBS系列)に出演した際、九州支社管内の関門道・めかりPA(北九州市)で現地ロケをして、西日本高速SHDの社員に同行していただいたことなどの縁から、筆者の名前があがったようだ。

筆者は決してグルメ三昧で舌が肥えているわけではなく、普段は勤務先(大学)の学食で十分満足する程度である。しかし、サービスエリアで食事をする人の多くは料理のプロではなく、一般の人であることから、自身も「一般人の代表として素直に審査しよう」と開き直って、オファーを受けることにした。

西イチグルメ九州地区大会の当日は、早朝に羽田から飛行機で福岡に入り、会場となるJR鹿児島本線・春日駅前の「クローバープラザ」に10時前に滑り込んだ。

審査員は全部で5人。審査委員長は、地元福岡の調理専門学校で教鞭を執る料理の専門家。もう1人、「料理の達人」としてブログなどを通じて日々自分で考案したレシピを発信する料理ブロガーもいる。残りの2人は、大会を主催する西日本高速SHDの関係者だ。

「料理のプロ」が2人いるので、筆者はサービスエリア好きの1人の利用客の視点で判断すればよいと安心した。

項目は7つ、100点満点で審査する

このコンテストは、まず地区内にあるSA/PAのレストランが決められたテーマで自慢の一品を提案し、それを実際に昨年10月から各レストランで提供。利用者に投票をしてもらって、その上位のメニューが地区大会で審査される仕組みである。

九州地区では福岡から沖縄まで全部で30の事業者が参加。そのうち利用者からの投票で選ばれた8事業者が、コンテストの当日、実際にそれぞれのメニューを作り、審査員が順番に実食するという手順で行われる。


今回の九州地区大会で調理を行っている様子(著者撮影)

調理時間は40分と決められており、実食の順番に沿って時間差で調理に入る。審査は、実食の時間および各事業者の代表や調理担当者との質疑等で10分。入れ替えの時間をはさんで次のメニューへと進んでいく。

審査はネーミング、ご当地感、オリジナリティ、メニュー説明、味覚(おいしさ)、視覚(インパクト、彩り、盛り付け)、お値打ち感の7項目を1人100点満点で点数づけし、審査員全5人の点数を足し上げて行われ、上位2つのメニューがグランプリ/準グランプリに輝くという段取り。審査員同士で相談は一切せず、自らの判断で点数をつける。

今回、私たちが実食した九州地区のグランプリ候補は、次の8つであった。

(1)これぞ、豚丼。〜耳納(みのう)いーっとんうまみ三昧〜(大分道・山田SA下り)
(2)とんとん丼(沖縄道・伊芸SA下り)
(3)トマトマリネとうまか赤鶏デミカツソース丼(九州道・宮原SA上り)
(4)黒豚のピリ辛丼(九州道・桜島SA下り)
(5)とろっカツ元気丼(九州道・広川SA下り)
(6)秘密の奥八女丼(九州道・広川SA上り)
(7)都城 海はないけど しいチキン(宮崎道・山之口SA上り)
(8)天然穴子のフライと天然真鯛の茶漬け丼 〜宗像・玄界の潮風を丼に乗せて〜(九州道・古賀SA上り)


個別のメニューの感想はここでは触れないが、大きく2つの特色を感じた。

1つは、全体として地域の食材、しかも地元でもあまり知られていない、あるいは地元以外には流通しないような「隠れた名物」を使用したものが多いこと。

もう1つは、愛知県の「ひつまぶし」のように「まずそのまま食し、次に薬味をかけて味変し、最後に出汁をかけて……」というように段取りを重視するメニューがいくつもあったことである。

また、豚や鶏の飼育が盛んな九州を反映して、8番の茶漬け丼以外は「肉」がメイン食材だったことも目立った特徴であった。

途中20分だけ休憩時間が設けられていたが、ほとんどトイレタイム程度しかなく、6食目を終えたころには満腹に近い状態となり、残りの2品目の審査はかなりしんどく、また地元福岡の民放4局とケーブルテレビのカメラがまわっている前でメニューを頬張るのも、筆者にとっては苦行であった。


九州地区大会にエントリーした8つのメニュー(筆者撮影)

審査のほうは、すべてのメニューの実食後に結果が集計され、最終的な点数が審査員の前に提示。異論がないことを確認ののち、閉会式で結果が発表された。自分がつけた点数と、全体の順位がほぼ同じだったことに胸をなでおろしたのは、ここだけの話である。

なお、各メニューは、見た目なども審査対象のため、完全なフルサイズで提供される。当然限られた時間で全部は完食できず、かなりの量を残すことになる。一度手を付けているので、他の人が食べることもできない。

審査の後、フードロスが気になると主催者に伝えたところ、「次回以降は展示用メニューを審査員の皆様で分けて実食審査いただくなど、フードロスが少なくなるよう改善に努めてまいります」との返答を得た。

コンテストだからといって、食べ物を無駄にすることは許されない。こうした方向に進めばと思う。

グランプリ/準グランプリ料理は3月の本選へ

グランプリは、(8)「天然穴子のフライと天然真鯛の茶漬け丼」、準グランプリは(5)「とろっカツ元気丼」に決定した。


九州地区大会でグランプリに輝いた「天然穴子のフライと天然真鯛の茶漬け丼」(筆者撮影)


こちらが準グランプリとなった「とろっカツ元気丼」(筆者撮影)

(8)の茶漬け丼は、SAからほど近い玄海の天然素材を前面に出し穴子をフライにして丼からはみ出させるなど、ご当地感や見た目のインパクトが高得点で、もちろん味も素晴らしかった。

(5)のとろっカツ元気丼は、黒い大ぶりの器に緑のバリエーションが映えていて、カツにかかっているとろろも緑色がかっている。聞けば、地元の八女茶をいれているそうで、そうした細かいこだわりも高評価につながった。

この2つの丼は、九州地区大会の代表として、3月に大阪で開かれる本選大会で関西地区の2メニュー、中国地区の2メニュー、四国地区の1メニュー、そして全メニューの中から利用者の投票がもっとも多かったメニューの計8メニューとともに、さらに料理の専門家から審査を受ける。

そして、「西イチグルメ」のグランプリ/準グランプリが決定するのだ。

なお、本選大会の審査員も5人だが、西日本高速SHDの2人を除く3人は全員料理のプロで、筆者のような「味の素人」はいない。ちなみに、九州以外の本選出場メニューは以下の6つのメニューですでに決まっている。

<関西地区>
■どんぶりの味比べ 里山懐石 但馬牛の五種ひしめき丼 〜丹波が奏でるハーモニー愛と想いの五重奏〜(舞鶴若狭道・西紀SA上り)
■播州百日どりの焼鳥丼 〜ひつまぶし風〜」(山陽道・龍野西SA上り)

<中国地区>
■岡山まるごとギュー丼 〜なぎビーフの大人焼きしゃぶと彩り野菜丼〜」(山陽道・吉備SA上り)
■白と黒のごく旨麻婆丼(山陽道・下松SA上り)

<四国地区>
■石鎚山頂丼(松山道・石鎚山SA下り)

<お客様投票ナンバー1>
■里山フレンチ懐石丹(あか)の超他人丼 〜ご当地お肉と卵のマリアージュ〜(舞鶴若狭道・西紀SA下り)


見てわかるとおり、ネーミングにも相当凝っていて、一度で覚えられないくらい長いものもある。

貴重な体験を通じて見直すSA/PAグルメの特別感

どこがグランプリになるにせよ、地元の食材探しから始まり、老若男女幅広い客層が利用するSA/PAにふさわしいメニューを考案する、そのチャレンジングな試みに触れたことで、高速道路グルメへの親近感は増した。

また、これまでは利用客として「提供されたものを食べるだけ」だったが、作り手の顔や調理する姿、そして商品開発に懸ける試行錯誤の様子を垣間見ることができたことも、貴重な体験であった。

ちなみにこれらのメニューは、予選で敗退したものも含め、3月31日まで各SA/PAで実際に味わうことができる。


九州道・基山PAで見かけた西イチグルメのポスター(筆者撮影)

地区大会の審査の翌日、九州道・基山PA(下り線)に立ち寄ってみたら、西イチグルメの大きなのぼりとともに、このPAのエントリーメニューである「九州みつせ鶏YAKITORI丼」も大きくPRされていて、前日イヤというほど丼を味わったにもかかわらず食指が動いたのは、やはりそこでしか食べられないという「特別感」に自身が弱いからだろう。


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なお、地区大会にエントリーした料理や各地区から本選に選出されたメニューは、専用のホームページ「西イチグルメ決定戦」に掲載されている。また、豪華賞品が当たるという本選での順位予想キャンペーンも2024年3月8日まで行われているので、このサイトを参照してほしい。

筆者は今回、審査員として「裏側」からSA/PAメニューを見たが、やはりSA/PAグルメも高速道路旅の楽しみの1つであると再認識した。

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)