賛否両論・笠原さんの食育「のり巻」に込めた思い
笠原さんが考える「和食の未来」とは(写真:pearlinheart/PIXTA)
予約の取れない和食店として有名な「賛否両論」店主・笠原将弘さん。50歳の節目に、「和食」への想いを綴ったエッセイ『今さらだけど、「和食」をイチから考えてみた。』より一部抜粋し、3回に渡って掲載します。
第3回は、和食の未来、子どもたちの未来についてです。
子どもには可能性がたっぷりある
これからの和食のこと、和食の未来を考えると、ついつい子どもたちの未来のこととかぶってきてしまう。
子どもたちにはまだまだたくさんの時間がある。それは可能性がたっぷりあるということだ。
たとえば、料理教室に来た子どもたちにも、のり巻き作りを通して何かを感じ取ってほしいと願っている。
「料理って面白いな」でもいいし、「きれいに巻くのって難しいな」でもいい。
自分が作ったのり巻きを見て、
「なんて下手くそなんだ! デパ地下とかに並んでいるのり巻きって、すごいんだな」
「めちゃくちゃ練習して、もっと上手に作れるようになりたいな」
でもいい。
その気づきから、のり巻きを作るにも技術がいるということ、料理をきちんと作ってくれる人がいるということ、料理人さんってすごい、ということになんとなく気づいてくれることを願ってやまない。
その気づきがあれば、出されたのり巻きを、大事に食べようとする大人になるのではないかと思うからだ。
そして、食べ物やそれを用意してくれた人に対して、感謝の気持ちも持てるようになると信じている。
(消しゴムはんこイラスト・とみこはん)
出会いの喜びが夢になる
料理人同士で「なぜ料理人を目指すようになったのか」を尋ね合ってみると、「初めて作った料理を『おいしい』とほめられたから」という答えがわりと多く聞かれる。
最初にほめられたその喜びが忘れられなくて、料理の世界に入る人がとても多いのだ。
ほかによくあるのが、「間近で見た料理人さんがとてもかっこよかったから」というもの。たとえば、「家族でよく行っていたラーメン屋さんのマスターに憧れて」というように。
僕は現在、自分の店やメディアを通して、「見られる立場(存在)」になっている。
だから、調理師を目指して修業中の若者が来たら、
「カウンターからきれいな仕事を見せたい」
「包丁さばきの上手なところを見せたい」
「包丁を使うたびにささっと拭いて、また切って……、美しい流れ作業を見せたい」
というように、料理人・笠原将弘に魅力を感じてもらえることを意識して仕事をしている。
ほかにも、ちょっと面白いことを言って笑わせたりとか。料理人というのは職人だから、怖くてとっつきにくいというイメージがつきまといがちだが、あえてそのイメージを崩すように、ユーモアやジョークの1つや2つ、言うようにしている。
「料理人って、料理ができるだけじゃなくて、こんなに面白いことも言うんだ」
と、見ている人、特に若い人たちに感じてもらうことは、僕にとって嬉しいことだ。
それで、若い人たちが、和食をもっと身近なものとして受け入れてくれたり、和食料理人を目指してくれたりしたら尚のこといい。
和食に魅力を感じてもらえるなら、そして、少しでも関心を持ってもらえるなら、お笑い芸人と絡んで面白いことも言いますよ。それもかっこよさの一つだと思うから。
かっこよく、きれいな仕事をしたい
僕が子どもの頃に見ていた料理番組に出てくる和食料理人は、どうもみんな話が固かった。
料理の腕はもちろんすごいのだけれど、不器用で、話し方もぼそぼそしているために、何が言いたいのかわかりづらかったり……。
「もっと面白いことを言えばいいのにな」なんて、子ども心にも思っていた。
しかも、丸坊主や角刈り頭で、「ちょっと怖い」みたいな雰囲気も漂っていて、近寄りがたいイメージがあった。
でも、今の料理人は、料理だけできればいいわけじゃない。料理人のイメージを僕は変えたいと思っている。
僕はテレビ番組にもよく出演しているが、行ったら堂々と振る舞うように心がけている。僕の本来の活躍の場ではないかもしれないが、周りの出演者に引けをとらないように見せる努力は惜しまない。
僕の一挙手一投足が、新しい料理人像として、子どもたちや若い世代に記憶されることを願っているからだ。
昔は、ちょっと学校の成績がよくなかったり、素行不良だったりすると、「勉強したくないなら板前の修業にでも行け!」
などと親から言われていた。
とりあえず、調理師やコックにでもなって手に職をつけたら、食うには困らないだろうという考えで、親もそんなことを言っていたのだろう。
でも、それはもう大昔の話だ。
今、料理人に必要なこと
料理人には、自由な発想と応用力が必要だし、食材に関する知識も必要。
自分の料理の魅力や味を伝えるための語彙力も必要。
本当はそれなりに頭がよくないとできない仕事なのだ。
とにかく、料理人にもインテリジェンスが必要とされているのは、間違いないだろう。
僕自身のことを言うならば、勉強ができたと誇れるほどではないが、料理とその周辺の知識や語彙力を、日々アップデートする努力は怠っていない。和食の魅力、そして和食料理人としての自分の魅力を感じてもらえるように、アピールし続けている。
そういう和食料理人を身近で感じてもらえたら、子どもの将来の夢のランキング に、「料理人」が入ってくるような日がいつか来るのではないかと信じている(いや、そうなってほしいと願っている)。
夢の入り口として、リアルに自分の人生のお手本となるような料理人と出会えることは、子どもの一生を左右するのではないか。僕はそういうことをイメージしながら、今日も和食を作り続けている。
(笠原 将弘 : 「賛否両論」店主)