マンションの配管は普段目にしない部分だからこそ、知らないうちに劣化が進んでいることも…(写真:y.uemura / PIXTA)

少子高齢化が進む日本。居住者同様、「住まい」であるマンションも高齢化・老朽化が進んでいる。

「うちのマンションは建ってから時間が経過しているけれど、一見しただけではそれほど劣化しているように感じない」という方もいるかもしれない。しかしながら、表に出ない部分においても少しずつ、確実に劣化は進行している。

例えば建物の内部に張り巡らされている配管類も、外側からの劣化状態がわかりにくい設備のひとつだ。私たちの生活に深い関わりのある「水」に関連する給排水管などで劣化が進むと、水質の変化や水漏れなどのトラブルの原因にもなりかねない。

目にする機会が少ない部分だけに、大幅な老朽化が進んだ後に気がつくことも多く、負担も大きくなりがちだ。では、目視での確認が難しい給排水管については、どのようなタイミングでメンテナンスを考えればいいのだろうか。

建築年代によって異なる「給排水管の寿命」

マンションに設置されている「水」に関連する配管設備にはさまざまな種類がある。おおよそ次の4種類に区分され、例えばもっともよく知られているのは、飲料水やその他生活に使う水を建物内に供給する「給水管」だろう。

さらに熱した湯を供給するための「給湯管」、建物内で出た汚水を外へ排出する「排水管」、屋内消火栓やスプリンクラーなど消火設備に使われる「消火管」などがある。

注意したいのは、これらの給排水管の材質がマンションが建てられた年代によって大きく異なる点だ。

例えば1960〜1970年代にかけてよく用いられたのが水道用亜鉛めっき鋼管(SGPW)で、通称「白ガス管」と呼ばれる材質だ。さびやすいため、配管内面の腐食が進むと、赤水や漏水などの不具合が生じやすい。耐用年数も15〜20年と短いのが特徴だ。


さくら事務所が中古マンションで、キッチンの床下にカメラを差し込んで内部を確認した事例。給水・給湯管ともに金属管が使用され、管の継ぎ手ネジ部分やコンクリート床にさび跡が見えている。将来的には耐久性に優れた樹脂管への更新が望ましい(写真:さくら事務所)


洗面室の床下にカメラを差し込んで内部を確認したところ、床下の給水管はさびや腐食が激しいことが判明した(写真:さくら事務所)

その後「硬質塩化ビニルライニング鋼管」をはじめ、さまざまなさびにくい素材が使用されるようになり、給排水管自体の寿命は35〜40年くらいまで延びた。新しいマンションほど、配管内部の腐食を防ぐ耐久性の高い材質が使われているということになる。

給排水管の一般的な寿命は35〜40年

現在一般的に使われている材質を使用していれば、給排水管の寿命は35〜40年が目安となる。ただしあくまで目安にすぎず、まずは自分たちのマンションの配管がどのような材質で作られているのか、耐用年数はどのくらいなのかを確認することが重要だ。

さらに消火管の場合、湿気が多い地下などに埋設されていることも少なくない。条件によってはネジ部分がさびてしまって穴が開くなどし、耐用年数を迎える前に不具合が生じることも想定される。

また配管トラブルが発生後、劣化対策としてどのような工事を行うかについても考える必要がある。劣化した配管を取り除き、新しい配管に取り換える「更新」と、現状の配管を生かした「更生」の選択肢があるためだ。

更生は、配管内部を洗浄し、新たに樹脂などを塗布して皮膜を張ることで配管の延命を行う工法だ。工期は短めで、コストも抑えられるメリットがある。ただあくまで延命処置にすぎず、後々更新工事を行う必要も出てくるのが難点だ。

さくら事務所では、飲料水などに用いる給水管にはできる限り更新工事をおすすめしている一方で排水管に関しては、状況次第では更生工事の選択肢でも問題ないと考えている。給排水管の材質や現状を知っていれば、このような柔軟な対応も可能となる。

先ほど「給排水管の寿命は約35〜40年」とご紹介した。この数字を聞いてお気づきになった方もいるかもしれないが、実は3回目の大規模修繕工事の周期と重なっているのだ。

大規模修繕工事の3回目といえば、マンションの経年劣化がより目立ち始める時期でもある。給排水管だけでなく、サッシやドア、電気系統までさまざまな部分について改修を検討しなければならない。

事前に行う劣化診断でも「給排水管」の劣化が認められ、「2、3年以内に改修が必要」との報告が管理会社から上がってくるケースが多い。長期修繕計画上も赤字で余裕がないうえ、その他の箇所も改修しなければならないとなると、どのように優先順位をつけるべきか管理組合としても思案どころだ。

さらに、給排水管に関しては、共有部分だけでなく専有部分も関係している。マンション全体の劣化状況を判断し工事を進めるためには、専有部分である住戸内の共用配管を確認し、見積もりを作成する必要があるためだ。

例えば排水竪管を確認するためには、専有部に入り、壁を壊して開口しなければならないこともある。居住者にとって負担も大きく、丁寧な合意形成が求められる。また専有部分の状況によっては、具体的な見積もり後にも予備費を設けておく必要もある。

大規模修繕ありきの工事を見直すべき

専門的すぎて工事の妥当性の判断、費用負担などが難しい場合には、専門のコンサルタントに橋渡しを依頼するのも一案だ。公平性を持ってしっかりとジャッジメントしていくために、専門知識の通訳ともいうべき、第三者のコンサルタントの力を借りるメリットは大きい。

理事会での検討時間も短縮でき、適切な時期に必要な工事が行えることが、ひいては修繕積立金の不足を解消することにもつながっていく。

実際、さくら事務所で相談を受けたケースでは住戸の浴槽下に配管があり、現在使用しているタイル張りの浴槽を壊さなければ、竪管(縦方向の配管)が交換できないということがあった。

このケースではユニットバスに変えることで漏水リスクが少なくなる旨を説明し、段階を踏んで居住者の合意を得ることができた。管理組合の漏水対応もなくなり、保険料が上がるリスクを低減できるなどトータルでコストダウンを実現できた。

建設業界では人材不足も課題となっている。

特に給排水工事に関しては職人不足が深刻で、配管工事を引き受ける設備会社そのものも減ってきている。このような厳しい背景の中、配管の素材が何でできているか、劣化の現状を確認し、修繕計画を見直さなくてはならない。

「大規模修繕工事で予定されている」という理由で何となく工事を行えば、必要のない工事を行い、費用負担が増えるリスクもある。マンションによって劣化状況も異なり、配管に使用する材質も異なる。

どのような範囲で工事するのか、あらかじめ施工会社としっかりと話をしたうえで計画を作っていくことが大切になる。

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))