年初からの日本株の上昇は能登半島地震の影響も大きかった。2月以降、外国人投資家はどう動くだろうか(写真:ブルームバーグ)

まずは1月の出来事と株価の値動きを振り返りたい。2024年は元日から最大震度7の能登半島地震が発生、波乱の幕開けとなった。だが日経平均株価は、1月4日の大発会の寄り付きから大幅下落となったものの、3万2693円(昨年末比771円安)で底打ち、大引けは3万3288円(同175円安)まで値を戻した。

その翌日からは周知のとおり、株価は6連騰。一時調整したものの、1月22日には終値で3万6546円となり、短期的な高値を付けた(ザラバ高値は1月23日の3万6984円まで上昇した)。

日本株が急上昇した3つの要因とは?

では、なぜ年初から日本株は急騰したのか。以下の3つの要因が挙げられる。まず1つ目は能登半島地震によって、日銀のマイナス金利解除見送りの可能性が高まったからだ。

昨年はエコノミストや為替専門家の半数近くが1月22〜23日の金融政策決定会合での金融緩和修正を予想していたが、想定外の大地震でこの見方を修正せざるをえない状況になった(ただし私は昨年末から、2024年4月のマイナス金利解除を予想している)。

実際、昨年末は1ドル=約141円まで進んでいた為替が、148円台まで一気に円安に戻ったことで、日経平均も上昇した。これは、日経平均の採用企業は輸出産業の比率が高いため、為替が円安になると収益改善が見込めるからだ。

2つ目は、1月からスタートした新NISA(少額投資非課税制度)開始に伴う、株式市場への個人資産流入を期待した海外投資家の買いだ。

海外投資家は国内の個人投資家が日本株を買ってくることを期待して、年初から株式を一気に買い越した。実際は、個人投資家はこの上昇局面で日本株を1月19日まで6週連続で売り越した。個人投資家は人気の世界株や米国株を買っており、資金フローから円高になりにくいことが、円ベースの日経平均の下支え要因になった可能性もある。

ちなみに、2月1日引け後に開示された1月22日〜26日の海外投資家動向(現物・先物合計)は▲5705億円と3週間ぶりの売り越しだった。一方で、個人投資家売買動向(現金・信用・先物合計)は+6905億円で、7週間ぶりの買い越しとなった。現物だけに限ると小幅の売り越しだったが、やはり株価の下落局面で買ってくるという個人の逆張りスタンスは健在のようだ。

3つ目は、1月15日に東京証券取引所が発表した「低PBR(株価純資産倍率)改革による一覧表公開」への期待」だ。海外投資家は、改革の進展によるサプライズを期待して、年初から先回り買いしていた。

海外投資家の過剰な期待がいったん幻滅に変わる懸念

では、今後はどうなるだろうか。私は短期的には前述の3万6984円(1月23日ザラバ)が当面の上値と見ている。ここから最長で1カ月程度の健全な株価下落があることも想定したい。もし調整ということになれば、今回の高値から2000円前後(5%前後)の下落は覚悟しておきたいところだ。

下落の主な理由は、海外投資家の「2つの過剰な期待」が短期的には幻滅に変わるとみているからだ。

まず1つ目は新NISAだ。海外投資家は、前出のとおり、新NISAスタートで個人投資家の大幅買い越しを期待した。だが、個人投資家は6週連続で売り越し、今年1月1週目から3週間連続で期待を裏切った。これは保有していた株式が急上昇したことで、断続的な売り(利益確定売りや、長期で塩漬けになっていた株式のやれやれ売りなど)が続いているからと推測する。一方で、今後5%以上の下落がある局面では、押し目買いに入ってくるとみている。

2つ目は、「東証の低PBR改革による一覧表公開」への期待が一巡することだ。海外投資家は、さらなる改革進展によるサプライズを期待しているようだが、実は次回の2月15日の一覧表公開後は半年先の8月まで開示件数の増加ピッチが鈍くなることが事実上判明している。このことで東証の改革に期待していた投資家が、一時的にがっかりするのではないか。これが今回の配信で最も言いたいことだが、まだ市場参加者の多くは、この事実に気づいていないのではないのかと心配している。

東証は2023年3月から東証プライム市場とスタンダード市場の上場企業に対して、再三「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」としてPBRの改善を求めてきた。

同年8月29日には、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を踏まえた開示状況を集計して公表。さらに今年1月15日にも最新の状況を公表、マーケットに影響の大きいプライム市場では49%が開示した(対象の1656社中815社、検討中の9%分155社を含む、昨年12月末時点)と発表している。

検討中の9%を除いた「開示40%」という数字は昨年夏の20%から一気に2倍なった勘定だが、この理由は東証が「2024年1月15日から取り組みを開示した企業名を毎月公表する」と企業にプレッシャーをかけたためだ。これによって、昨年末までに取り組み等を開示する企業が駆け込みで急増した。

この改革の進捗状況が急増する一気に進むと期待した目ざとい海外投資家が、年初から一気にプライム市場の株式を買ったため、日経平均は急騰したのだ。

しかし、足元ではすでに短期的な天井を打っており、2月の外国人投資家は様子見となる可能性が高い。繰り返しになるが、東証の「一覧表毎月公表」の効果は、2月以降数カ月間は期待できないと見ている。残念ながら、次回2月15日公表分では1月15日の公表に間に合わなかった企業の駆け込みが一部はあるが、公表数が大きく増えることはないだろう。その後、3月15日から7月15日まではほとんど増えず、次回の開示増は8月15日になると見る。

なぜ次の開示件数増は8月になるのか?

ではなぜ次の開示件数増は8月15日になるのだろうか。日本の上場企業の多くは3月末が決算期だ。改革の状況なども記載される重要なコーポレートガバナンス報告書の多くは、6月の株主総会終了後、7月上旬までに提出・公表される。東証がそのコーポレートガバナンス報告書から、7月末で改革への取り組みを記載して集計、公表するのは8月15日ということになる。

よって、当面は東証改革への期待が継続してモミ合いが続くかもしれないが、2月15日の公表で、市場が開示件数の増加ピッチが鈍ることを認識すると、短期的に株価が下落するリスクもある。

だが海外投資家による東証のPBR改革期待が一巡しても、米国株高と円安が続けば、日本株の上昇基調は続くとみている。私は1月10日に日経平均の高値予想を3万7000円(3〜5月)、安値も3万3000円(10月)にレンジをすでに引き上げたが、早期に年間の高値(3万7000円)をほぼ達成したことで、さらに年間高値予想を3万8000円前後(3〜5月)に引き上げたい。また年間レンジも高値3万8000円前後〜安値3万4000円へと上方修正する。

また一時的な失望が起きたとしても、投資家と企業との対話が途切れるわけではなく、投資家は「8月15日以降、再びプライム市場全体の本格的な対話のスタートが切られる」と今から準備していただきたい。

1年から3年をかけた投資家と企業の真摯な対話による成果によって、いずれ株価は本格的に上昇していくはずだ。実際、日経平均のPBRは2024年1月になって、直近の上限だった2023年7月の1.39倍を上抜けて1.41倍(1月22日時点)になった。当面この値は1.4倍前後で推移する可能性が高いが、中長期的に稼ぐ力(ROEの向上など)でPBRのレンジが切り上がっていくことを期待したい。

日米金利差は縮小しづらく、円安が継続

今後の日本株上昇のカギを握るのは何だろうか。佳境を迎えた日米の主要企業業績はもちろんだが、日米の中央銀行の金融政策による為替の動向によっても影響を受けそうだ。そのため、中小企業を含めた賃上げ動向も踏まえ、日銀のマイナス金利解除のタイミングなどを見極める必要がありそうだ。

1月22〜23日に行われた日銀金融政策決定会合では、サプライズこそなかったが、日銀は次回3月18〜19日のマイナス金利の解除の可能性は否定しなかった。ただ、市場のマイナス金利解除のコンセンサスはその次の会合である4月25〜26日のままだ。

一方、1月30〜31日に開催されたFOMCも想定通りで大きなサプライズはなかった。利下げの時期のマーケットコンセンサスが次回FOMC(3月20日)から、5月以降に後ずれしたため、米10年国債の利回りは3%台へと低下、円は対ドルで一時1ドル=146円台前半まで上昇した。だが2月の日米の金融政策会議の開催はないため、少なくとも3月中旬の次回会合まで日米の金利差は縮小しづらく、円安傾向が続くとの見方に変更はない。

ただ、日経平均が高値をとったとしても、今年は11月5日にアメリカの大統領選挙を控えており、年後半に向けては波乱も予想される。アメリカ経済はソフトランディング(軟着陸)の可能性がある一方、景気後退リスクも懸念される。アメリカ企業の業績が極度に悪化すれば、影響を受けやすい日経平均は3万2000円を下回る場面もあると考えておきたい。

(糸島 孝俊 : 株式ストラテジスト)