ペットの柴犬の写真をX(旧Twitter)に投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている@inu_10kg。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。第66回は「犬のツンデレ」についてです。

犬の“ツン”と”デレ”を感じた1月の出来事

久しぶりに犬のツンデレを感じる出来事があった。令和6年にもなれば「ツンデレ」という響きもあまり聞かないが、犬の性分を明解に表す言葉だと思う。

先日、二日間ほど東京に出掛けていた。ちょうど帰ってきたのが日本各地で雪が降った日の朝だった。雪が帰路を塞ぐ前に帰れて、駅まで車で迎えにきてくれた母と犬の顔を見て、胸を撫で下ろした。

車に乗るやいなや両腕で犬をホールドして、「会いたかったー!」とおでこを背中になすりつける。動物のマーキングやな。腕の中で犬は真剣にやめてほしいときの拒絶はしないが、「もうええって」というような表情をする。しつこくせずに、「はいはい」と身体を離した。

この前テレビでバラエティを見ていたら、10代と思わしき息子と明るそうな母親が六本木で街頭インタビューを受けていた。母親が息子の肩を組むと、息子は肩を回して振り払っていた。その子と「もうええって」の犬がおんなじ目ぇしてた。

家に着くと荷物を部屋において急いで部屋着に着替えて、居間でごろ〜んと大の字に寝転んだ。極楽! 「畑行ってくるで」と母はキュキュキュと長靴で土間を鳴らした。

そうして玄関の開閉音がやがて静まれば、ゆーっくりと別の足音が近寄ってくる。ぬっぬっぬっぬ…。犬だ、緩慢な歩みでカーペットを踏み進める犬だ。

犬は私の顔のそばで仁王立ちになると、上体をかがめて私の眼球に鼻を寄せてきた。「スンスンスンフーーースンスンフーーー」と嗅いでいる。一生懸命嗅いでいる。息継ぎを忘れて嗅ぐので何回かに一回大きく息を吐く。

そのたびに湿った鼻息が眼球に吹きかかる。すっかり慣れているのでこちらも目を開けたまま応じる。

犬が眼球を嗅ぎにくるのはたまにある。気のせいかもしれないが、化粧をしているときや、化粧を落とした直後に嗅ぎにくると思う。

“犬が匂いをかぐのは人が新聞を読むようなもの”だと本で読んだが、今右目を終えて左目を熱心に嗅いでいるのも、なにか情報を得てるんか?

「フ〜ン!」と最後に大きく息を吐くと(もちろん眼球直当たり)、背中を向けて私の頭におしりをつけて座った。

露骨に、そして猛烈に、甘えてくる。二日ぶりやし二人しかおらんから? 犬のデレに応えたくなって、起き上がってみる。犬は離れていかない。

たまに自分から近寄ってきても、私が反応したら「いやそれはちゃうねん」と離れるときもあるのだ。それもしない。ということは、である。

犬の名前を呼びながら背中を撫でてみると、犬はこれまたゆーっくりと上体をおろし、まず腕をついて、頭を倒して、上体も床に預けて、横になった。私が撫でてから寝転ぶまでの判断は超早いのに、「腕をついて次は頭で…」とのっそり動くのが愛くるしいね。

横たわった犬を撫でながら、つぎは私がにおいを嗅ぐターンだ! 最近はマズルのヒゲが生えている黒い点々のあたりを嗅ぐのが好きだ。黒い点々に鼻をつけて、肺いっぱいに吸う。

心の深部から落ち着くにおいを醸し出している。なににもたとえられない。私にとって犬のにおいは犬のにおいでしかなく、連想ができない。だが逆に犬のにおいみたいだと思う場所や物と出くわすのは多々ある! 映画館、おにぎり、お寺、古本…。いろんな場面で犬を思い出す。

マズルから顔を離して犬を見つめる。「ただいま」とほぼ吐息で言うと、犬が相槌を打つように目を細めてくれた。「もうええって」の目はしてへんかった、分からんけど。