作家・作詞家として活躍する高橋久美子さんによる暮らしのエッセー。もっとも厳しい寒さの今、体が温まるドリンクについて教えてくれました。

第115回「ホットチョコレートでホッと一息」

四国にも寒波が押し寄せて、朝、目を覚まし窓の外をのぞくと山も畑も当たり一面が銀色の世界だった。四国というと温暖なイメージがあるかもしれないけれど、年に数回は雪が降り、10センチほど積もることもある。我が家は古い木造なので寒いのなんの。断熱や暖房が完備されている北海道や東北地方の方が、きっと家の中は温かいだろう。先日は、台所のガスファンヒーターをつけると3度だった。冷気が窓の隙間から押し寄せるのがわかる。

そんな日は生姜をすり下ろして、そこに熱湯と少しの片栗粉、砂糖を入れた手作りの生姜湯だ。市販のものより、生姜が本格的に舌を刺激して、飲んだ後しばらくたっても手足の先までぽかぽかしているのだった。本気で体を温めたい時は、このすり下ろして作る生姜湯がオススメですよ。

子どもがビターチョコレートを食べて驚いた理由

そんな冬のある日、姉がチョコレートを買ってきてくれた。「わーい」と、小学生の姪っ子もかじったけれど、数秒後、「げ!!」と顔をしかめた。

そうです。カカオ95%という、超ブラックなチョコレートだったのです。

「苦い。というか、炭を食べてるみたい」

泣きそうな顔の姪っ子。姉ったら、間違って買ってしまったみたいね。

大人の私も、ここまでストイックだと半分食べたところでお手上げだなあ。

「でもね、本物のカカオの味はこんなんよ。甘くないんよ。チョコレートっていうのはお砂糖やミルクを混ぜているからあんなに甘くなっているんだよ」

と話したら、驚いている。甥っ子の社会の授業では、この苦いチョコレートを先生がもってきて、カカオを味わうことをしたそうだ。みんなとても驚いたという。普段、アーモンドを食べることはあっても、カカオを食べる機会は少ないものね。身近なチョコレートがどのように作られて私達の口に届いているのか大人だって詳しくは知らない。

苦いチョコの箱を見ながら、カカオを作っている子どもたちの話などを姪っ子にした。カカオを作ってはいるけれど、チョコを食べたことはない子どもが殆だということを、私も随分前に知ったのだった。チョコレートが安価に手に入るのは、生産者にそのひずみがいっているからだということは、問題視された。今は、生産者に対等な額が支払われるフェアトレードのシステムを取り入れている企業も増えていると聞く。私達、消費者もそういった商品を選ぶことで、自分の意志を示すことができる。毎日の生活で商品を選ぶことは、投票にも近いかもしれないと思う。苦いチョコのお陰で、姪っ子といろんな話をすることができた。

ビターチョコレートはホットドリンクにしても

かじりかけのチョコレート……。さて、この残りをどうしよう。

「あ、そうだ、ホットチョコレートにしよう!」

鍋で温めたミルクの中に、ビターチョコレートとお砂糖を入れて、くるりくるりと混ぜる。チョコレートがだんだんととけて、ココア色になっていく。

「さあ、飲んでみて」

「うわあ! おいしい!」

姪っ子は喜んで、ミルク多めのホットチョコレートを飲み干した。この苦いチョコは、しばらく家の人気メニューになりそうだな。

雪が降って、外に出られない日はこたつでホッと一息、家族と話をする時間もいいなあと思ったのだった。

本連載をまとめた書籍『暮らしっく』(扶桑社刊)も発売中。