日本では6割の夫婦が陥るといわれるセックスレス。「子どものころあんなに嫌だと思っていた父親と同じような人と結婚してしまった」と語る主婦の沙織さん(仮名・45歳)のお話です。レスになった原因は夫のDV。逃れるように実家に帰ったものの、そこも居心地のいい場所ではなく…。

「俺が食わせてやってる」モラハラ夫に疲れ果てて…

年子姉妹を出産したものの、夫からの暴言や暴力がきっかけで距離をおき始めた沙織さん。夫婦生活を拒否すると、ストレスが増える夫。DVが激化していきました。

●育児ノイローゼもあったかもしれない

不動産屋を経営する夫は、一般的なサラリーマンに比べると、圧倒的に労働時間が短かったといいます。しかし、暇があれば趣味のゴルフや釣りへと出かけて行くのです。

「次女はあまり寝てくれないし、ミルクも嫌がってしまう子でした。そのうえ、上の子のイヤイヤ期に入るという、人生でいちばんハードな時期。夫は『俺が食わせてやってる』くらいのことは平然と言ってのけて、相変わらず家のなかでは上司と部下みたいな関係。一方的な暴力が続いていました」と沙織さん。

「睡眠時間も細ぎれで、少しノイローゼ気味になっていたのかもしれません。あの頃の記憶って、すっぽり抜けている部分があるんですよ。わらにもすがる思いで実家の母に助けを求めたんです。そしたらすぐ帰っておいでって言ってくれたんですけれど…」

モラハラ夫から逃れるべく、娘を2人を連れて実家へ戻った沙織さんでしたが、実家もまた、あまり居心地のいい場所ではありませんでした。じつは元々、父との関係がよくなかったのです。

お酒を飲むたびに暴れていた実父。毒親育ちの弊害

沙織さんの父は、若い頃からアルコールに飲まれて、仕事も交友関係も自らダメにしてしまいました。

「飲んでは暴れて…を繰り返していた父。私がDV被害の自覚がなかなかもてなかったのは、そういう家庭に生まれ育ったことも影響しているのかもしれません。母親も、そんな父に共依存し、耐える人でした。毒親育ちって、自分の知っている家庭の見本が異常だから、自分で築いた家庭がおかしくなってもその異常に気がつけないのかもしれません」

そしてそんな父親は、子どもたちを連れて実家へ逃げ帰ってきた娘を受け入れられる余裕はない様子。

「父は無職。母のパート収入に頼っているような生活です。私が子どもを2人も連れて一緒に暮らし続けるゆとりはありませんでした。酔っては暴れるので、子どもも懐くどころか怖がってしまって。すぐに役所へ行って、子どもたちを保育園に預け、私も働きに出ることにしたんです。正直、実家は居づらかったですね。助けようとしてくれた母に辛い思いをさせてしまうだけだと感じました」

低収入の別居暮らし。公共の支援もなく孤立

実家から働きに出ることにしたとはいえ、幼い子どもを2人も育てながら、以前と同じように美容師としてフルで遅い時間までの勤務はできません。アルバイト程度にしかシフトにも入れてもらえず、子ども2人を育てていくために十分な稼ぎを得ることができませんでした。

一方で、役所へ足を運び、福祉の助けを得ようとしましたが、「実家のサポートがあるなら…」と言われてしまい、思うように手続きを進めることもできませんでした。

●世の中って厳しい。一人じゃどうにもならなかった

「まず家を出たいと思っても、アルバイトのシングルマザー予定という時点で、家すら借りられなかったんです。そういう人にも優しい不動産屋があるって紹介されたけれど、結局、希望に見合う物件は全部審査前に断られるような状態。もしかしたら自治体によって受けられる支援が違うのかもしれませんが、世の中の厳しさを思い知らされました」

心が折れていたとき、実家に夫がやって来て…

完全に心が折れてしまったという沙織さん。幼い2人の娘とこれから先の人生、どうしようと途方に暮れていたとき、夫が実家にやって来たのです。

「結果からいうと、これ以降、夫がDVをすることはなくなりました。私が家を出て、決別を表明したことがかなり堪えた様子で、久しぶりに会ったら、パッと見てわかるほどにやつれていました。夫は『反省した。だから家に帰ってきて欲しい。離婚だけは絶対に無理だ。沙織と娘たちとまた一緒に暮らしたい』と言うし、私も行くところがなくて困っていたので、消去法でよりを戻すのが最善策だなと思って別居を解消することにしたんです」と沙織さん。

「自分で働いて、子どもたちを養っていく、シンママでがんばる。強い覚悟を持って家を出たのですが、結局うまくいきませんでした。自分の稼ぎでは家すら借りられないというのが現実。実の父とも、これ以降は距離をおいています」

子どもの頃からあんなに毛嫌いしていた暴れる父親。しかし、結局、自分が結婚した相手もまた同じような人でした。もし結婚してつくれる家庭が、育った家庭の焼きまわしなのだとしたら、娘たちに自分と同じ思いをさせたくないと思ったともいいます。

反省の弁を述べる夫は、本当に改心できるのでしょうか? 同居を再開してからのお話はまた次回。

パートナーからの暴力のほか、怒鳴る、侮辱する、脅すなどの行為、また性行為を強要する、避妊しないこともDVに相当します。警察のほか、以下の相談窓口も利用できます。
DV相談ナビ #8008(はれれば)
DV相談+(プラス)0120-279-889(つなぐ はやく)