@AUTOCAR

写真拡大 (全6枚)

ガソリンスタンドは消えてしまうのか

クルマの電動化が進む中で、ガソリンスタンドはどう立ち回っているのだろうか。EV普及を進める英国では、「給油」を取り巻く環境が急速に変化している。現地記者のレポートをお届けする。

【画像】日本でも売れる? 英国で人気の最新EV【ヴォグゾール・コルサe、フォルクスワーゲンID.3を写真で見る】 全35枚

※※※※※※※※※※※※※※※※※※


EVが普及し、燃料需要が減るとガソリンスタンドはどうなってしまうのだろうか。

ちょうど100年前、英国初のガソリンスタンドがバークシャー州にオープンし、当時多くのドライバーを喜ばせた。

バークシャー州オルダーマストンにあったこのスタンドは、AA(英国自動車協会)が所有していた。燃料をクルマに補給できる便利さが自動車ユーザーに好評で、最初のスタンドがオープンしてからわずか4年後の1923年には、全国に7000台のポンプが稼働していた。

今日に至っては、オルダーマストンの給油所も、ただの待避所と化している。市場がEVに移行している今、多くの給油所がこうして姿を消していくことになるのだろうか?

燃料販売、いつまで持ちこたえる?

オルダーマストンから30kmほど離れたバッキンガムシャー州マーローにあるプラッツ・ガレージという店舗では、係員が給油するという昔ながらの方法を続けている。

新車ショールーム(同店舗はフォードのディーラーでもある)の脇にある小さな給油スペースにクルマを停めると、ドアから係員が飛び出してきて、どの燃料をどれだけ欲しいか尋ねる。給油後は車内に座ったまま支払いを済ませ、エンジンをかけて走り去る。それがいつもの光景だった。少なくとも、マーローの市民がEVを買い始めるまでは。


英国のガソリンスタンドは進化を求められている。

「EVのせいで、ポンプの売り上げが落ちていることに気づきました」と、プラッツの社長で、創業者の孫でもあるティム・プラット氏は言う。「特に軽油の需要は、レンジローバーのようなSUV用に購入していた人がアウディQ8 eトロンなどに買い換えたため、一夜にして落ち込みました」

にもかかわらず、プラット氏は燃料の販売を続けると言う。それだけが彼の仕事ではないし(ショールームだけでなく整備工場もある)、独立系ガソリンスタンドのような大きな間接費もない。

プラット氏はフォードのセールスマンとして、EVを所有する顧客とも話をする。「彼らの多くはわたしにこう言うんです。『通勤や短距離移動には最適だが、長距離ドライブでは充電が不確実で時間がかかりすぎる。ガソリン車に戻るよ』ってね」

プラット氏は、多数のEVドライバーが同じように感じていると仮定し、少なくとも今後15年程度は燃料販売を維持できると確信している。

大手の「デュアルフューエル戦略」

こうしたプラット氏の楽観論は、少なくとも短〜中期的には、英国最大の独立系ガソリンスタンドグループの経営者も共有している。

「2030年までには、自動車市場の約20%がEVになる可能性があります。つまり、化石燃料の需要は依然として大きいということです」と、900以上の給油所を所有するMFGのウィリアム・バニスターCEOは言う。しかし、2035年までにはEVが市場の60%を占めるようになり、その数字はさらに上昇すると予測している。


EV充電器を導入するガソリンスタンドチェーンもある。

そのため、MFGではすでに給油設備のすぐそばで急速充電ができるよう着手している。需要増加に伴い、主役が入れ替わる可能性もあるのだ。

「このデュアルフューエル戦略を実現するために、今後数年間で4億ポンド(約725億円)を投じます。現在、デュアルフューエルをすぐに導入できる700の施設を調査し、そのうち250か所は “通電” を待っているところです。当社の戦略は、整備が行き届いて稼働率の高い(通常は98%以上)複数の充電器を揃え、明るく安全なハブを作ることです」

1か所の充電ハブには約100万ポンド(約1億8000万円)かかるため、そのような投資をする余裕のない独立系の多くは閉店してしまうだろう。(酒場の)パブと同様、給油所も長年にわたり数を減らしてきた。1979年には4万軒の給油所があったが、同年にテスコ(スーパーマーケット大手)が燃料の販売を開始した。他のスーパーマーケットもそれに続き、2000年代初頭までに毎年約400の独立系および地方の給油所が撤退していった。

現在、地方の小規模独立系ガソリンスタンド(業界ではホワイトポール・スタンドと呼ばれている)約1000店舗を含め、合計8400店舗しかない。石油大手BPも、25%の縮小が続くと見ている。

複合施設化するガソリンスタンド

スーパーマーケットの給油所は安泰に思われるかもしれないが、ディスカウント店が市場シェアを拡大しているため、彼らでさえも圧迫を感じている。実際、MFGはモリソンズ(テスコと並ぶ業界大手)の給油所を買収し、さらにEV充電ハブを増設する方向で交渉中だ。

変化のスピードには専門家も驚いている。英国ガソリン小売業協会のゴードン・バルマー専務理事は「ほんの数年前までは、インディーズがスーパーマーケットの土地を買収したり、COVIDで在宅勤務者が増えるにつれて燃料需要が減少したりするなど、誰が予想できたでしょうか」と語る。


電動化に伴い、ガソリンスタンドは単なる燃料販売の場ではなくなった。

「最も大きな変化の1つは、買い物の習慣です。例えば、多くの人が土曜日の朝にまとめ買いするのではなく、より頻繁に買い足しを行うようになりました。これはスーパーマーケットの売上に影響を及ぼしていますが、給油所にとってはチャンスです」

消費者の習慣の変化に伴い、「チャンス」がどこへ移動したのか、英国のガソリンスタンドを利用する人なら体感的に理解しているだろう。

MFGのバニスター氏は、「20年前は、どの通りにもオフライセンス(酒屋などの個人商店)がありましたが、その多くがなくなり、今では給油所にあります。だから今、わたし達は地元のオフライセンスであり、コスタやスターバックスであり、クリーニング屋でさえもあるのです」と言う。

EVの普及が進むにつれて、ドライバーはこうした多様化を期待できる。EVを自宅や目的地などで充電できるようになれば、なおさらだ。ガソリンスタンドは、もはや燃料を売るだけの場所ではない。

ガソリン小売業協会のバルマー氏は、「加盟店の中には、売上の50%が燃料以外の収入になっているところもあります。これからの変化を反映して、英国ロードサイド小売業協会という名前に変更する日が来るかもしれませんね」と冗談交じりに言う。

石油会社の将来

本誌は、石油大手シェルの英国担当ゼネラルマネージャー、バーナデット・ウィリアムソン氏に話を聞いた。

――シェルの給油所はどう変わるのでしょうか?


シェルが構想する複合施設    シェル

「英国内では、今年末までに700か所以上の急速・超急速充電ポイントを設置し、世界全体では2030年までに20万か所を目指しています。一方、従来型の燃料も提供し続けるので、2023年末までには、エネルギーと小売の全サービスをすべて備えたハイブリッド・ハブを15か所ほど設置する予定です」

――顧客体験はどのようなものになりますか?

「中国の深センにある当社拠点では、毎日3300台以上のEVを充電するほか、シェル・カフェ、自動販売機、ドライバーラウンジなど、さまざまなサービスを提供しています。英国では、フルハムのEV専用ハブで、充電の待ち時間向けに座席エリア、コスタ・コーヒー店、リトル・ウェイトローズを提供しています」

――(エンジン車が禁止される)2035年に向けて、電力とガソリン・軽油の需要はどのように変化していくのでしょうか?

「EVの充電と代替燃料は、当社のビジネスにおいて急速に成長している部分ではありますが、ガソリン車とディーゼル車は今後何年間も運転されるでしょう」