「史上最高レベル」の外国人選手たちがリーグワンに参戦 なぜ多くの世界的スターたちが日本を選ぶのか
世界中を熱狂させたラグビーワールドカップ2023フランス大会から約1カ月。12月9日には国内最高峰のラグビー・リーグワン2023-24シーズンが開幕する。近年、海外のトップ選手が日本でプレーする傾向が強まってきているが、今季は「史上最高」レベルと言えるほどの加入状況だ。なぜ、彼らは日本を選ぶのか。その背景も含めて、今季、新たにリーグワンでプレーする注目すべきスーパースターたちを紹介する。
2023年シーズン世界MVPサヴェアは、コベルコ神戸でプレーphoto by Getty Images
史上最高。何を基準に最高とするかは人それぞれだから、簡単には使えない言葉だ。でも、今回ばかりはそう言ってもいいのではないか。それほどの顔ぶれなのである。
ラグビーの国内最高峰リーグ、『ジャパンラグビー リーグワン2023-24』に参戦する海外トッププレーヤーの話だ。先に行なわれたラグビーワールドカップ2023フランス大会のファイナル、南アフリカとニュージーランドの決戦に出場したメンバーのうち、実に13人が今季日本でプレーする。他にもウェールズやオーストラリア、トンガ、サモアといった強豪国の主軸中の主軸が、リーグワン各チームのメンバーリストに名を連ねる。
世界のラグビー界はワールドカップを起点にした4年サイクルで物事が進む。そのためワールドカップの翌シーズンは、それまで代表チームに入るために自国のリーグでプレーしていた選手が、より良い条件を求めて他国のクラブに移籍するケースが多い。とはいえ、なぜこれほど多くの世界的スターが数あるリーグの中で日本を選ぶのか。そこにはいくつかの理由がある。
プロのアスリートである以上、金銭面の条件は当然ながら重要な要素だ。強豪国の代表選手が日本で手にするサラリーは、ニュージーランドや南アフリカでプレーするよりはるかに高く、フランスのTOP 14やイングランドのプレミアシップと並んで世界トップクラスといわれている。
加えて日本はそうした海外のリーグに比べ試合数が少なく、選手はコンディションを維持しやすい。しかも近年は日本ラグビーのレベルが飛躍的に向上し、競技力という点でもプレーヤーにとって価値のあるコンペティション(競争の場)になってきた。特に試合展開のスピードは際立っており、ダミアン・マッケンジー(ニュージーランド代表/2022シーズンに東京サントリーサンゴリアスに所属)やファフ・デクラーク(南アフリカ代表/現・横浜キヤノンイーグルス所属)といった超一流選手は、「日本の早いテンポのラグビーを経験することで成長できた」と語っている。
治安や生活インフラの水準が高く、パートナーや子どもが暮らしやすいという点も、異国でプレーする選手にとって大きなメリットだろう。2019年のワールドカップ日本大会で滞在した際の印象が良かったことから、日本への移籍を決断したという声もしばしば耳にする。いまやリーグワンでプレーすることは、世界中のラグビー選手にとって魅力ある選択肢なのだ。
【"黒衣軍"が続々来日。世界MVPのサヴェアは神戸へ】超一流の名手が並ぶ今季の新加入選手の中でもとびきりのビッグネームといえば、ニュージーランド代表のナンバーエイト(No.8)、アーディー・サヴェア(コベルコ神戸スティーラーズ)だろう。ワールドカップ・フランス大会では6試合に出場して攻守に圧倒的な存在感を発揮し、"オールブラックス"(黒衣軍)を頂点へあと一歩のところまで牽引した。決勝翌日の10月29日にパリのオペラ・ガルニエで行なわれた国際統括団体・ワールドラグビーの年間表彰式において、2023シーズンの世界最優秀選手にも選出されている。
プレーの特長は、全身から闘志を発散させて相手を制圧する猛烈な突進とタックル。フォワード(FW)ながらバックス(BK)並みの走力を有し、エネルギッシュに走り回ってあらゆる局面で驚異的な働きぶりを見せる。ここ数シーズン、やや元気のない戦いが続いている神戸に、特大の活力をもたらしてくれるはずだ。
ニュージーランド代表では他にもラグビー王国の司令塔、スタンドオフ(SO)リッチー・モウンガ(東芝ブレイブルーパス東京)と、魔法のようなパスワークで"トライアシストキング"の異名を持つスクラムハーフ(SH)アーロン・スミス(トヨタヴェルブリッツ)の移籍も世界的なニュースになった。なお東芝にはパワーとスキルを兼ね備えたフランカー(FL)シャノン・フリゼル、トヨタには世界最高のプレーメーカーとも称されるSOボーデン・バレット、神戸には2014年世界最優秀選手のロック(LO)ブロディー・レタリックも合わせて加入する。バレットは2021シーズンに東京サントリーサンゴリアスで、レタリックも2020、2021シーズンに神戸でプレーしており、3季ぶりの日本復帰を歓迎するファンは多いだろう。
さらに11月には、2020年から"黒衣軍"のキャプテンを務めてきたFLサム・ケインのサントリー入りというビッグニュースも飛び込んできた。今年のワールドカップ決勝では前半29分にレッドカードを受け(退場処分)、失意に沈んだケインだが、献身的なタックルとボール争奪局面でのハードワークは世界最高レベル。周囲の雑音に惑わされず黙々と役割を果たす人間性でも信頼を集める選手であり、チームにさまざまな好影響を与えそうだ。
【世界王者・南アの"ポケット・ロケット"コルビがサントリーに】今回のワールドカップで単独最多となる4回目の優勝を果たした世界王者・南アフリカは、これまでも多くの現役代表選手が日本で活躍してきた縁の深い国だ。ただ今シーズンより東京サントリーに加わるウイング(WTB)のチェスリン・コルビへの期待は、過去最大級といっていい。
南アの「ポケット・ロケット」コルビは爆発的な加速が魅力 photo by Getty Images
チーム発表の数字では身長172センチ、体重80キロ。日本の平均的な成人男性とさして変わらぬ体格ながら並外れた身体能力を有し、爆発的な加速と「目の前から消える」と評される鋭いステップでトライを量産するワールドクラスのフィニッシャーだ。相手ディフェンダーを一瞬で置き去りにするランから「ポケット・ロケット」の愛称で世界的人気を誇り、多くのファンが目の前でその走りを見る日を心待ちにしていることだろう。
なお東京サントリーには日本代表のフルバック(FB)松島幸太朗も在籍しており、コルビと形成するバックスリーは対戦相手にとって今まで以上の脅威となるのは間違いない。同じ1993年生まれで、プレーヤーとして円熟期を迎えつつある2人が、どのように持ち味を引き出し合い、相乗効果を生み出すかという点も注目だ。
昨季のリーグワンでクラブ創設45年目にして悲願の初優勝を果たしたクボタスピアーズ船橋・東京ベイには、ウェールズからFBリアム・ウィリアムズが加入した。188センチ、85キロの長身BKでハイボールの競り合いに強く、重心の低いランと切れ味鋭いサイドステップにも定評がある。ウェールズ代表として95キャップを積み重ね、ワールドカップには2015年、2019年、2023年と3大会連続で出場。外国人選手といえばほとんどが南半球出身者という日本のリーグワンで、ヨーロッパの熟練のベテランがどう持ち味を発揮するか興味深い。
最後に紹介するのは、静岡ブルーレヴズに入団したトンガ代表のFBチャールズ・ピウタウだ。2013年に21歳でニュージーランド代表デビューを果たし、2015年までに17キャップを獲得。23歳でイングランドのワスプスに移籍した際は、「甚大な損失」とニュージーランド国民を落胆させた(編注:ニュージーランドでは自国以外のクラブでプレーする選手は例外条項があるものの、原則、代表に選ばないというルールがあるため)。その後、2018年にイングランドのブリストル・ベアーズと契約した際は、「世界でもっとも年俸の高い選手(125万米ドル=約1億8750万円)」とも報じられている。
2022年に国代表選手の資格規定が改正され、最後に出場した代表戦から36カ月以上が経過していれば自身がルーツを持つ国に代表資格を変更できるようになったため、2023年のワールドカップ・フランス大会には両親の祖国であるトンガ代表の切り札として出場。全選手で最多となる10回のオフロードパスを決めるなど、卓越したパフォーマンスでチームを牽引した。群を抜く脚力とボディバランス、精度の高い左足のキックを兼ね備えた世界有数のアタッカーであり、昨季あと一歩で勝ちきれない試合が続いた静岡にとって大きな補強となりそうだ。