(写真:つむぎ/PIXTA)

「モンテッソーリ教育」といえば、日本では幼児のための教育法として知られているが、世界を見渡せば小学生のための教育法も存在している。書籍『学ぶのが好きになる! 小学生のためのモンテッソーリ教育』は、これまで日本ではほとんど紹介されてこなかったその内容について、0〜12歳までのモンテッソーリ教師・あべようこさんがまとめたものだ。本書の内容を抜粋しながら、小学生の知的好奇心を刺激することで「学び好き」になってもらうためのヒントを紹介する。

※本稿は『学ぶのが好きになる! 小学生のためのモンテッソーリ教育』の一部を抜粋し、著者による追記・編集を行ったものです

知識を教え込むより、大切なことは?

前回記事「小学生に暗記ばかりさせる親がもったいない理由」では、6〜12歳の「児童期」にいる小学生の学習意欲に火をつけるために、大人は子どもの好奇心を掻き立てるような「興味の種」をたくさん蒔くことが重要である、とお伝えしました。

では、具体的にはどうやって「興味の種」を蒔けばよいのでしょう? 今回はそのことについてお話ししますが、その前に、モンテッソーリ教育のある特徴についてお伝えします。

それは、「先生主導」ではなく、「子どもが主体」で学びが進むということ。一般的な学校では先生主導で授業を進めますが、大人に「これをやりましょう」と一方的に言われても、子どもはワクワクしないので、なかなかやる気が起きません。学習意欲に火がつかないわけです。それでは「子どもの主体的な学び」が進みません。

そこで、子どもに自ら「学びたい!」「繰り返したい!」という気持ちになってもらうために、モンテッソーリ教育の先生は、知識を教え込むよりも、手(感覚器官)を使って感じる(印象を得る)ことや、ワクワクする気持ちを生むこと、プロセスを大切にします。

良い先生は、意外な事実や謎を物語る

そのためにモンテッソーリ小学校の先生がすることのひとつが、意外な事実や謎を物語にして子どもにお話しすることです。そうすることで、子どもの「それって、どういうことなんだろう?」という好奇心を掻き立てて、「知りたい! 学びたい!」という学習意欲に火をつけるのです。

実は、モンテッソーリ教育では、「良い先生は、良い物語の語り手(ストーリーテラー)」と言われています。子どものワクワクを喚起するお話を、いかに上手にできるか。それが先生の腕の見せどころなのです。

そのため、先生は普段からあらゆる分野に興味を持つことを心掛け、興味を持ったことをくわしく調べておきます。子どもたちが「何それ、知りたい!」と興味を持ってくれそうなことのネタを、普段から探しておくように努力しているのです。

先生は日ごろから集めておいたネタを、子どもたちが興味を持ってくれそうなタイミングでお話しします。例えば、「○○君が大好きなけん玉って、誰がつくったか知ってる? もともとはフランスからやって来て……」という具合です。子どもが話の内容をイメージしやすいように、写真やイラストを見せながらお話しすることもあります。


熱心に先生の話す物語を聞く子どもたち

先生は前もって話す内容を5〜10分程度の物語にまとめておきます。まとめるときは、子どもがワクワクするような事実や歴史を盛り込むようにするのがポイントです。また、先生はスムーズにお話しできるように事前に練習もしておきます。

すると、先生のお話で興味を持った子どもの中に、気になった事柄について、自分で調べ始める子が出てくることがあります。

モンテッソーリ教育といえば、いわゆる「教具」を用いて、やり方を「提供」して見せることがメイン……とお考えの方も多いと思いますが、決してそうではなく、教具がなくても、小学生(児童期)になっても、こんなふうに大人が子どもにしてあげられることはたくさんあるのです。

家庭でもできる「物語」とは?

こうした「物語(ストーリーテリング)」は、おうちでママやパパにしていただくこともできます。もし話すことが得意なら、ぜひ子どもの興味を搔き立てる「ストーリーテラー」になってみてほしいと思います。

難しく考えなくて大丈夫です。子どもが興味を持ちそうなことや、自分が「面白い!」と思っている事柄について、くわしく調べて、5分程度の物語にまとめます。可能なら、イラストや写真を用意して、それを見せながらお子さんに話してもいいでしょう。

物語の内容は、基本的に事実に基づくものを選びます。例えば、「種なし果物はどこから来たか知ってる?」「この古生物が生きていた時代って、どんなだったと思う?」「パソコンの発明者って誰か知ってる?」「北半球から南半球へ初めて航海したとき、どんなことがあったと思う?」「レオナルド・ダ・ヴィンチって、どんな人だったのかな?」などなど。

「何を話せばいいのかわからない」という方もいるかと思いますが、大人が子どもに話せることは、いくらでもあります。宇宙の始まりのこと、初期の地球のこと、昔の人間の暮らしについて、古生物や恐竜のすごさ、ある生きものの一生、命がけで海を渡った人たちのこと、私たちが今使っているものをつくった人のこと……などなど。物語をきっかけに、子どもが、宇宙の不思議や、自然の不思議、動植物や人間のすばらしさに関心を持てる話題を選べるとベストです。

可能なら、子どもが関心を持っていることに絡めて、こうした話をしてあげられるといいでしょう。子どもがサッカー好きなら、「サッカーは最初、どんなスポーツだったか知ってる?」とか、「サッカーボールって、五角形と六角形でできてるって知ってた? なんでこの2つの図形でできてるんだと思う?」など。

好きなことなら、お子さんは興味を持って、ワクワクして研究を発展させていくかもしれません。お子さんが興味を持ってくれることが、何より大切なのです。

物語の「ヒーロー」の選び方

物語を語る際は、過去の偉人や今を生きる専門家など、実在の人物について語るのもオススメです。なぜなら、児童期の子どもは「ヒーロー崇拝」をしやすい傾向があるからです。自分にできないことができる人にあこがれて、自分もそうなるためにはどうしたらいいかと真剣に考えられるのが、児童期の子どもです。

かつて、モンテッソーリ小学校には、海洋生物学者のシルヴィア・アールにあこがれて熱心に研究する子どもや、画家のフリーダ・カーロに夢中になって彼女の作品や生涯を熱心に調べている子どもがいました。また、自分が受けている教育の創始者であるマリア・モンテッソーリにあこがれて、「こんなすばらしい教育法をつくってくれて、ありがとう!」と手紙を書く子もいました。実在の人物にあこがれて、そうした人物の生き方を学ぶことで、子どもは現実の社会を生き抜く力をメキメキとつけていきます。


ⓒ蛸山めがね (出所)『学ぶのが好きになる! 小学生のためのモンテッソーリ教育』

残念ながら日本の場合、動画やゲームといった商業サービスの影響を強く受けて、実在の人物の偉業よりも、そういう刺激に夢中になっている子どもが多いのが実情です。そこから学べることもあるとは思いますが、地球や宇宙の歴史を学び、自分の人生の師となるヒーローを求める時期の子どもが、そうしたものばかりに触れていることが、後々どんな影響をもたらすか、大人は真剣に考える必要があります。

小学生のお子さんを持つ親御さんは、できるだけ、生きる力や魅力に溢れた実在の人物の物語を、たくさん紹介してください。そして、パパとママのお仕事についても話してあげるとよいと思います。

「こんなにすごい研究ができるのは、どんな人なんだろう?」「こんなにすごい都市を作ったのは?」「こんなに魅力的な絵を描いたのは?」「こんなにすごいサービスを作ったのは誰なんだろう?」。偉大な人物に対して抱く、このような疑問が、子どもが社会で生き抜く力を育みます

児童期こそ、空想ではなく「事実」を


「なぜ?」「どうして?」を熱烈に知りたがる児童期に、空想ではなく、事実についてじっくり考えることで、子どもたちは現実を理解し、現実を生き抜くためにはどんな力が必要かを、自分自身で考えられるようになります。

創りものの世界を楽しむことは、もう少し大人になってからでも十分にできます。しかし、宇宙のすべてを知り、地球で本当にあったことを学びたいと熱望するパワーがあるのは、児童期ならではなのです。

ただし、お子さんがすぐ興味を持たなくても、大人は気にしないことが大切です。そこで無理やり調べさせたりすれば、子どもはやる気を失ってしまいます。大人は「興味の種」をできるだけたくさん蒔いて、蒔いたことを忘れるくらいで、ちょうどいいのかもしれません。

そして、1年、2年……と経って、子どもが忘れた頃にまた紹介してください。その頃なら、もしかすると興味を持ってくれるかもしれません。でも、持ってくれなくてもいいのです。子どもが興味を持つ対象は、一人ひとり違います。その違いを観察し、認めて、その子が興味を持っている対象を深掘りして考えられるように手伝ってあげることも、大人の大切な役割のひとつです。

(あべ ようこ : モンテッソーリ教師)