ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)によると、絶大な人気がある一方で厳しい批判を受けてもいる中国のファストファッション大手シーイン(Shein)が、ついに米国でのIPOを正式に申請した。これは世界最大級のファッション企業による大きな動きである。シーインのIPOについて知っておくべきことを以下に示す。

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シーインの直近の評価額は660億ドル(約9.8兆円)だった。これは2022年の評価額1000億ドル(約14.8兆円)から下がっているが、この評価額の引き下げは、IPOに先立ち、よりよいポジションを確保するため、1月にシーインが意図的に行った動きだ。

シーインの今年1月から9月の売上高は240億ドル(約3.6兆円)と報じられている。これは前年比40%増であり、同社の超ファストファッションの価格が、インフレが続く影響を受け、価格に対する意識が高まっている顧客の共感を得ていることを示している。シーインの価格は途方もなく安い。多くのアイテムは10ドル(約1480円)以下、中には1ドル(148円)以下で買えるものもある。この記事を掲載した時点で、同社のホームページに掲載されているパンツは2.60ドル(約385円)で販売されている。

シーインは現在の660億ドル(約9.8兆円)よりも高い評価額での株式公開を目指していると報じられており、年間8億ドル(約1184.5億円)の利益を上げていることから、投資家が安全な賭けとみる可能性は非常に高い。

準備段階



シーインのIPOの噂は数カ月前から流れていた。夏にはロイター通信が、シーインがIPOを申請したと報じたが、その後撤回している。

だが、多くの報道機関やアナリストはIPOが今年中に実現するとの見方で一致していた。IPOを裏付ける証拠としては、前述の評価額引き下げや、米国でのイメージアップを図ろうとしていると解釈される動きなどがあった。これは上場に反対する可能性がある消費者と規制当局の両方にアピールすることが動機だと考えられていた。

たとえば、シーインは2021年に本社を中国からシンガポールに移転しているが、これを中国と距離を置き米国の議員をなだめるための施策だと見る向きも多い。そうした議員らは、強制労働を行っているという疑惑や米中政府間のより大きな対立の一環として特にシーインに批判的である。

しかし懐疑的なのは議員らだけではない。シーインは消費者を遠ざけるようなPR上の失態をいくつも犯しており、6月に行われたインフルエンサーのブランド旅行の過ちもそのひとつだ。この旅行は、表向きはシーインの工場労働者がクリーンな環境でよい待遇を受けていることをアピールするためのものだったが、ソーシャルメディア上ではすぐに明らかな「評判のロンダリング」だと非難された。

未来



昨年のIPO市場は厳しいものだった。ビルケンシュトック(Birkenstock)やランバン(Lanvin)といったブランド、そしてインスタカート(Instacart)のようなファッション以外のブランドも、すべて株式公開後に厳しい市場に直面している。米国の金融市場は投資家が大きなリスクを取りたがらないという状況であるため、これらの企業はいずれも上場後すぐに株価が急落している。

「IPOに対する投資家の意欲の欠如もIPO市場の低迷を招いている」と、法律事務所トンプソン・コバーン(Thompson Coburn)の法人および証券プラクティス共同座長でパートナーのデビッド・カウフマン氏は言う。「数年前には投資家が利用できなかった私募、ヘッジファンド、プライベートクレジット市場など、現在ではIPOに代わる選択肢がたくさんある」。

だが、IPOで苦戦する傾向を打破できる企業があるとすれば、それはシーインかもしれない。政府からの監視やファストファッション界でも最たる存在だという評判にもかかわらず、米国でのオーディエンスは増え続けている。シーインの世界のユーザー数は、2020年は1500万人、2021年には4300万人、そして2022年には6500万人となっている。

[原文:What you need to know about Shein’s incoming IPO]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)