記事のポイント

大手ストリーミングサービス会社のほとんどが、米国での脚本家と俳優のストライキにもかかわらず、加入者数の増加を報告。NetflixやPeacockなどは特に大きな増加。

ストリーミング各社の多くが、この四半期に収益性が向上。ただしこれは、ストライキによる制作コスト減少によるもので、利益が増加したためではない。

調査では多くの消費者がサブスクリプションサービスの上限に達したと感じているにも関わらず、多くのストリーミングサービスの加入者数は増加していいる。


2023年はこれまでのところ、メディア業界にとってなかなか厳しい年(特にエンターテインメント業界は、脚本家と俳優のストライキで目も当てられない年)だったが、大手ストリーミングサービス各社の最新四半期収支報告書によると、2023年第3四半期は、サブスクリプション事業を柱にするストリーミングサービスにとって目を引く3カ月だったことがわかった。

この第3四半期では、一般向けのストリーミングサービス大手企業は各社とも(1社のみ、飛びぬけて例外)、ストライキがあったにもかかわらず加入者増加を報告していた。それに、そのストライキのおかげで、事業収益(もしくは減益)の改善も実現した。

それでは、第3四半期末時点のストリーマー各社の加入者総数と加入者増(減。第2四半期比)を簡単にチェックしよう。

各社の状況



AMCネットワークス(AMC Networks):1110万人(10万人増)

ディズニー+(Disney+)(ディズニー+ホットスター[Disney+ Hotstar]は除外):1億1260万人(+690万人増)

フューボー(Fubo):190万人(+32万7000人増)

Hulu:4850万人(20万人増)

Netflix:2億4720万人(880万人増)

パラマウント+(Paramount+):6300万人(270万人増)

ピーコック(Peacock):2800万人(400万人増)

スリングTV(Sling TV):210万人(11万7000人増)

スターズ(Starz)(英国のような撤退もしくは撤退予定の地域は除外):1580万人(24万人増)

ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)(マックス[Max]およびディスカバリー+[Discovery+]を含む):9510万人(70万人減)

加入者は増加傾向



具体的に見ると、2023年第2四半期では、AMCネットワークス、フューボー、スリングTV、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーのストリーマー4社は加入者が連続して減少していた。さらに言うなら、ストリーマーは全社とも、第2四半期よりも第3四半期の方が、加入者数増加数が大きい。これには、前期最大の加入者増加数(それぞれ590万人と200万人)を記録したNetflixとピーコックも含まれる。

こうしたストリーミング加入者増加傾向に関して驚くのは、映画俳優組合の組合員が自分たちのプロジェクトをプロモーションできず、その結果、加入者のコンバージョンが促進できなかった四半期に加入者が増えたことではない。加入者増加がストリーミングのサブスク疲れの話と対照的である点だ。

2023年7月、調査会社ハブ・エンターテインメント・リサーチ(Hub Entertainment Research)が米国在住の1602人を対象に調査したところ、43%が利用予定のTV/ストリーミングが最大数に達したと回答している。おそらくその回答者は皆、上限にも達しているはずだ。さらに今月(2023年11月)に入り、調査会社パークス・アソシエイツ(Parks Associates)が発表した調査では、インターネット加入世帯の29%は8種類以上のストリーミングサービスに加入していることが報告されている。

しかし、残りの過半数はまだストリーミングの加入を追加(もしくは再追加)しているようだ。調査会社アンテナ(Antenna)によると、加入したストリーミングを解約する人の35%は、1年以内に同じストリーミングに再加入している。とはいえ、大手ストリーマーは押しなべて2022年あたりにサブスク料金の値上げを敢行しているようなので、再加入する場合、料金が高くなる傾向がある。

ストリーミング事業は減益も収益性が向上?



一方、従来型有料TVの解約は現在も続いており、その割合は高まっている。2023年第3四半期では、米国有料TV企業上位6社はいずれも加入者数が減少しており、調査会社ライトシェッド・パートナーズ(LightShed Partners)によると、2022年第3四半期の加入者の7.5%から今期は9.3%と全体的に減少している。

しかしながら、ポストコロナの景気低迷後にあって、加入者増加だけでストリーミング事業が盛り上がっているわけではない。実は、ストリーミング事業単体で減益だったストリーミングサービス会社は、全社が減益の減少もしくは利益の増加を記録している。

ディズニー(事業損失):−4億2000万ドル(−約630億円)(70%増)

フューボー(純損失):−8440万ドル(−約127億円)(20%増)

Netflix(手元資金):+20億ドル(約3000億円)(258%増)

パラマウント(調整後OIBDA):−2億3800万ドル(−約357億円)(31%増)

ピーコック(調整後EBITDA):−5億6500万ドル(−約848億円)(8%増)

ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(調整後EBITDA):+1億1100万ドル(約167億円)(118%増)

ストライキのおかげ



勘違いしないでもらいたいが、こうした収益性の向上は、主に脚本家と俳優のストライキが原因である。このストライキは、企画開発と制作の一時中止とコストの低下で、「学生ローンの凍結」に相当する状況、つまり何もできないがコストも生じない状況を作りだした。とはいえ、今回のストライキが実際にどのような影響をストリーミングサブスクリプション事業に与えるのかは、まだわからない。

制作の一時中止で、ストリーマー各社のプログラムラインナップが大幅に入れ替わるのはまだこれからだが、ディズニー+の「Ahsoka(スター・ウォーズ:アソーカ)」、Huluの「Only Murders in the Building(マーダーズ・イン・ビルディング、国内では Disney+ 内のスターで配信)」、Netflixの「One Piece(ワンピース)」は、いずれも第3四半期に新シーズンを公開している。

業界関係者がストライキのおかげで持続的にコストを抑えられているのではないかと考える企業の場合、コスト引き締めとストライキ後の制作停滞が組み合わさり、ストリーマーの新しいショーや映画のラインナップに悪影響を与える可能性があり、それはこの1、2年では終わらないだろう。

その間は、加入者の成長に勢いがついたかと思えば、また数字が下がるの繰り返しを続けることになる。なお、第3四半期にストリーミング事業を減益から増益に変えた唯一の企業(ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー)は、同時期に加入者数が減少した唯一の企業でもある。

[原文:Future of TV Briefing: Streaming subscriber growth re-accelerated in Q3 2023]

Tim Peterson(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)