患者家族と会話をする筆者。在宅だと話せるのに、病院では……。今回は医師とのコミュニケーションについて紹介します(写真:筆者提供)

これまで1000人を超える患者を在宅で看取り、「最期は家で迎えたい」という患者の希望を在宅医として叶えてきた中村明澄医師(向日葵クリニック院長)が、若い人たちにも知ってもらいたい“在宅ケアのいま”を伝える本シリーズ。

「住み慣れた自宅で療養したい」「最期まで自宅で過ごしたい」という患者や家族の思いを支えるのが、患者宅を訪問して医療や介護を届ける在宅ケアだ。今回のテーマは、患者視点で考える「医師とのコミュニケーション」。

疑問を持ったときの質問の仕方やコツ、困ったときの対処法などについて、現場の声をもとに解説する。

「わからないことがあっても、医師には何となく聞きづらく、ついわかったふりをしてしまう」「先生も忙しいだろうし、早く話を切り上げないといけないのではと気を使ってしまう」「疑問を持ったとしても、それを口にはしづらい」――。

医師からの提案が腑に落ちない

時折、患者さんと医師のコミュニケーションについて、こんな悩みを耳にすることがあります。

前回の記事(80代の母、主治医に勧められた「胃ろう」すべきか)で登場した、母親の延命治療について悩んでいたA子さん(55)もその1人で、主治医から提案された胃ろうについての説明に腑に落ちない点があり、たまたま学生時代からの友人でもあった筆者に相談がありました。

広報の仕事をしているA子さんは、誰とでも打ち解けるコミュニケーション力に長けた性格の持ち主です。仕事のなかでは、クライアントやステークホルダーに対し、臆せずに発言したり質問したりできるA子さんですが、主治医に対しては、一歩引いてしまう場面があるようです。

筆者は在宅医として、患者さん宅を訪問して診察することがほとんどですが、地域の大学病院でも、定期的に診察しています。そこで感じるのが、病院の診察室では、どこか緊張気味で、遠慮がちな患者さんや家族が多いということです。

自宅ではくつろいだ雰囲気のなかで、聞きたいことを率直に聞いてくださる患者さんが比較的多いのですが、場所が病院となると少し緊張してしまう人も多いのでしょうか。途端に言葉が少なめで、何かと控えめになりがちなのです。

病院では遠慮気味になってしまう

患者さん目線で考えると、病院だとどこか遠慮気味になってしまう気持ちはわかります。病院から急かされているわけではないのに、「早くしないと」と気持ちが焦ってしまう人もいると思います。外来が混んでいればなおのことでしょう。

しかし、何かしら不調や症状があって診察を受けているのですから、わからないことをそのままにしてしまうのはよくありません。

不安も解消されませんし、患者さんや家族が病状について正しく理解ができていないことで、大切な判断ができない場合もあります。そうならないためにも、疑問に思ったことはその都度、しっかり聞こうとする姿勢をぜひ持っていただきたいです。

医師の視点でいうと、基本的に、我々医師は「患者さんに正しい情報をきちんと伝えないといけない」という責任感を持っているものです。ただ、それが強すぎると、とにかく情報を伝えることに必死になってしまい、ときに患者さんの話を聞くのがおろそかになってしまうケースがあるかもしれません。

前出のA子さんも、「診察室では一方的に医師が話し、私たちはそれを聞くだけになってしまう」と話していました。

こうした構図が生まれてしまうのは、限られた時間の中で、「とにかく情報を伝えないと」と必死になる医師に、「目の前の患者さんに必要な情報は何か」という視点が抜け落ちてしまっているからともいえます。

こうしたときこそ、患者さんやご家族が自分にとって必要な情報を引き出す“患者力”が試されます。

医師の話を聞き、「とりあえず」で返事するのではなく、不明な点があれば「すみません、ここがわからないのですが、もう一度教えていただけますか?」と、具体的にポイントを挙げて、きちんと質問しましょう。患者さんから「わかりました」と言われると、言葉通りに「理解してもらえた」と捉える医師もいます。わからないことをうやむやにせず、自分が理解するまで話を聞こうとする姿勢が大切です。

外来診療中であれば、「質問をしたら、迷惑がられるのでは」という遠慮は不要で、医師と診察室で向き合う時間に、聞きたいことを聞いて終われるのがベストです。

自分のことは自分にしかわかりませんし、患者さんの様子を誰より知るのはご家族です。大切なことですから、わからないことは聞くべきです。

聞きにくいときの「うまい聞き方」

質問しにくさを感じたときは、「質問したいことがあるのですが、今ここで聞いていいか、あるいは別途アポイントを取ったほうがいいか、どちらがいいでしょうか?」と確認するといいかもしれません。

入院中であれば、医師の回診のタイミングで時間を取ってもらえるよう、事前に看護師などに希望を伝えておくのも手です。

診察室に看護師が同席している場合には、後から看護師に「◯◯のところが少し難しかったので、もう一度教えてください」と聞くのも1つ。少なくとも、その場ですべての疑問を解消しきれなかったとしても、要望を伝えておくことは大切です。

医師から的確な情報を引き出すには、ご自身やご家族の状況を正確に伝えることも大切です。

例えば、医師から「いつから痛いですか?」と聞かれたときに、「だいぶ前から」と曖昧に答えるのと「2カ月前から」と数字で答えるのとでは、症状について診断するための情報量としても大きな違いがあります。

ご自身やご家族の不調について、できるだけ具体的に、数字も含めて伝えられると、医師も状況を理解しやすいはずです。

また今は、本やネット記事で勉強されてから外来に来られる患者さんやご家族も多いです。参考になる情報が増えるのは、自分たちなりの考えを深めるうえでもよいことだと思いますが、その情報が信頼できる情報かどうかという見極めは大切です。

筆者も、「ネットにこう書いてあったんですけど」という声を、患者さんなどから聞く機会が増えました。そうした情報はすべて正しいとは限らず、誤った医療情報もたくさんありますし、なかには鵜呑みにすると危険なものもあります。

ネット情報を医師に伝えるには?

本やネットは、複数の読者に向けた一般論が書かれているものが多いのに対し、医師は個々の患者さんの状態を見て話しています。同じ病気でも、個々の状態によって治療方針が変わってくることもあるため、正解は1つには絞りきれないものです。

もし情報収集するなかで迷う点があれば、「本やネットを見たら、こういうことが書かれていましたが、先生はどうお考えですか?」と聞いてみるといいでしょう。

医師も人間なので、「先生の意見より、本やネットにある情報が正しいのでは」という前提で質問するのは控えたほうがいいですが、「先生の考えはどうですか?」と意見を聞くことは、まったく失礼ではありません。

もし重い病気や治療法が複数ある病気などの場合に、医師の意見が信じられなかったり、不信感を抱いてしまったりするようなら、セカンドオピニオンとして別の医師の意見を聞くのも1つ。また、看護師やソーシャルワーカーなど、病院にいる別のスタッフに相談するのもいいでしょう。


患者さんのなかには、「すべて先生にお任せします」という方がいらっしゃいます。

しかし、医師は個々の状況に合わせて治療の選択肢を伝えることはできても、具体的に何をするかという決断をするのは、基本的には患者さん本人や家族です。そのため、ご自身で判断するために必要な情報を、しっかりと医師や看護師から聞くことが大切です。


緩和ケア専門メディカルホームKuKuRuでも、入居者とのコミュニケーションを大切にしている(写真:筆者提供)

「お任せ」ではなく「聞いて選ぶ」

特に、人生の最終段階が近づくほどに、「絶対にこの治療がいい」という正解がなくなってきます。

医師から「どうしたいですか?」と意見を求められるようになるのは、さまざまな選択肢が出てきたときでもあります。正解がないからこそ、自分たちで決めていくことが大切になってきます。


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何より、医師と患者という前に、お互いに人と人との関係を築くという姿勢が持てたら、その後もよい関係性が築けるのではないかと、筆者としては考えています。

そして、疑問に思ったことを流さずに、必要な情報をその都度、的確に引き出す“患者力”を、意識して身につけようとする姿勢も大切だと思います。

「お任せします」の関係から、「ここが困っています」「こういうときはどういう選択がありますか?」と、疑問や不安も遠慮なく相談できる関係へ。不要な遠慮はせず、ぜひ心を開いて話してほしいと願っています。

(中村 明澄 : 向日葵クリニック院長 在宅医療専門医 緩和医療専門医 家庭医療専門医)